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Machine Gun Kellyに代表される人気のポップパンク・リバイバルについてまとめてみたという話

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昨年、ポップパンク転向で話題になったラッパーのMachine Gun Kelly(マシン・ガン・ケリー)が今年3月末にリリースした最新アルバム『Mainstream Sellout』が自身2度目の全米アルバムチャート1位のほか、オーストラリアでもアルバムチャート1位を獲得したそうです(他の国でもチャート上で好成績を収めているそうな)。

 

www.billboard.com

www.aria.com.au

 

Machine Gun Kellyといえば、少し前であれば、思い出されるのはかの有名なEminem(エミネム)とのビーフ。この時は「Rap Devil」なるディス曲を発表するも、Eminemの強烈な反撃にあい、結果的に惨敗という感じでラッパーとしての格の違いを見せつけられましたが、まさかポップパンク転向でここまで結果を出すことになるとは…。

www.jfmusicwritterclass.com

それと同時に彼の路線変更が間違いではなかったことが伺える結果なのかなとも思いました。

ということで今回は大まかではありますが、今、アメリカを中心に人気になっているポップパンク・リバイバルについて、自分が気になった情報をまとめてみたいと思います。

ポップパンク・リバイバルとは? 

そもそも「ポップパンク・リバイバルとはなんぞや?」という話ですが、その前に「ポップパンクとはなんぞや?」という話を少し。

ポップパンクは、主にY2K期(00年代前後)に流行したメロディックなパンクのことで、ざっくりいうと日本でいうところのメロコアです。その始祖的存在として、Green Dayが挙げられますが、他にも代表的なバンドとして挙げられるのが、ポップパンクリバイバルブームの立役者の1人にして、最重要人物であるTravis Barker(トラヴィス・バーカー)も所属するblink-182All Time LowFall Out BoyGood CharlotteSum 41Simple Planなどです(バンド名を見ているだけで懐かしいw)。

個人的には当時はMy Chemical Romance(マイ・ケミカル・ロマンス)やParamore(パラモア)に代表されるエモロックとともにポップなロックとして人気を二分していた印象があります(このバンドも大きく見てポップパンクとする向きもあるようですが)

 

そんなポップパンクが最近リバイバルするきっかけになったと言われているのが、Machine Gun Kelly202010月にリリースしたポップパンク転向1作目のアルバム『Tickets to My Downfall』です。

Tickets To My Downfall

Tickets To My Downfall

  • Machine Gun Kelly
  • オルタナティブ
  • ¥1222

同アルバムは商業的にも成功し、Machine Gun Kellyに初の全米アルバムチャート1位獲得をもたらしただけでなく、ロックカテゴリーとしても約11か月ぶりに全米アルバムチャート1位を獲得したアルバムになりました。

www.nme.com

それを皮切りに昨年は、今年のグラミー賞でも大きな注目を集めたOlivia Rodrigo(オリヴィア・ロドリゴ)のポップパンク曲「good 4 u」が大ヒットを記録したほか、ウィル・スミスを父に持つWILLOW(ウィロー)も音楽性をポップ・パンクに転向したアルバム『lately I Feel Everything』をリリース。

youtu.be

lately I feel EVERYTHING

lately I feel EVERYTHING

  • WILLOW
  • オルタナティブ
  • ¥1935

また、ポップパンクのベテランバンドのAll Time Low(オール・タイム・ロー)の「Monsters」が過去最大のヒットを記録するなど、ポップパンク・リバイバル熱が高まりました。そして、迎えた今年はポップパンクアイコンのAvril Lavigne(アヴリル・ラヴィーン)がシーンに帰還。カムバック作『Love Sux』をリリースし、注目を集めました。

Love Sux

Love Sux

  • アヴリル・ラヴィーン
  • ポップ
  • ¥2139

 

ちなみにAvril Lavigneは最近、元々ポップパンク系でラッパーに転向するも再びポップパンクに戻ってきたMod Sun(モッド・サン)との婚約が報じられました。このことも後の世からするポップパンク・リバイバル期の象徴的な話なのかなと(10年後とかにCosmopolitanとかが振り返り特集してそう)。

www.vogue.co.jp

ポップパンク・リバイバルは、最近のY2Kリバイバルブームの一環と言えるムーブメントですが、ここで押さえておきたいのはMachine Gun Kellyの婚約者が”ザ・2000年代アイコン”の俳優・ミーガン・フォックスだということ。

youtu.be

2人が狙ってやっているかどうかは定かではありませんが、こういったことが実際に起きていることもこのブームの人気を間接的に後押ししているように思います。

www.25ans.jp

 

それと今年1月に発売されるやいなや米ラスベガスで開催予定のポップパンク/エモのフェス「When We Were Young」のチケットが完売したこともポップパンク・リバイバル人気を象徴する出来事のひとつだと言えます。

同フェスでは、先述のMy Chemical RomanceとParamore
の人気エモバンドがヘッドライナーを務めるほか、Avril Lavigne、Jimmy Eat World(ジミー・イート・ワールド)のようなY2Kポップパンク勢が数多く出演。さらにのJxdn(ジェイデン)、LILHUDDY(リルハディ)のような現行ポップパンクのスターも出演します。

youtu.be

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www.udiscovermusic.jp

When We Were Young自体は2017年に1度開催されており、今回で2度目の開催だそうですが、そのラインナップから2019年で終了したポップパンク系の有名フェス「Warped Tour」の再来的な感じで捉えられているようです。

ただ、それにしても”あの頃俺たちは若かった”というイベント名は秀逸の一言。リアルタイムでY2Kを通過した世代が懐かしさを覚えるだけでなく、現行のポップパンク・リバイバル世代も10年後に振り返ると同じような気持ちに浸ることができる。そんな直球感がありながらもそれが故のわかりやすさのあるネーミングセンスはマーケティング担当者の冴えを感じずにはいられません。

ちなみに去年、似たようなコンセプトの「Travis Barker's House of Horrors PPV Global Online Event」というイベントの有料配信がありましたが、このイベントと同じように有料配信があればよりチケットセールスが上がりそう。

自分くらいの年齢になると若者に混ざって現地でポップパンクを聴くのはちょっと気恥ずかしい気持ちもあるんじゃないかなと思いますが、自宅で配信が見られるなら見てみたいという人は結構多いんじゃないかなと。(イベントの公式サイトには有料配信のことは見当たりませんでしたが)

www.barks.jp

 

また、白人アーティストが多かったオリジナルのY2Kポップパンクと比較して、ポップパンク・リバイバルでは先述のWILLOWやOlivia Rodrigoのような女性かつ有色人種のアーティストが存在感を発揮している点も特徴だと言われています。

www.cinra.net

ポップパンク・リバイバルにおける重要人物、Machine Gun Kelly

そんなポップパンク・リバイバルの重要人物となったMachine Gun Kellyですが、彼は元々は名門ヒップホップレーベル「Badboy」(ノトーリアスB.I.G.も所属)所属の白人ラッパー。

ただ、先述のEminemとのビーフでの惨敗を経て思うことがあったのでしょうか? この時期には自分の方向性について迷っていたような発言もしており、一度完成したアルバムを一旦白紙に戻しています。

その後、お蔵入りさせたアルバムを新たに作り直し、2019年に4枚目のアルバムとして『Hotel Diablo』をリリース。同作では先述のTravis Barkerとのコラボ曲でポップパンク調の「I Think I'm Okay」がスマッシュヒットしましたが、それがポップパンク転向への大きな弾みとなりました。

youtu.be

そして、2020年にリリースした先述のヒット作『Tickets to My Downfall』では、「I Think I'm Okay」でコラボしたヒットしたTravis Barkerを共同プロデューサーとして招聘。

それに続くTravis Barkerコラボ第二弾が最新アルバム『Mainstream Sellout』なのですが、同作ではWILLOWやポップパンクとも近い新世代のエモトラップ・ラッパーのIann Diorらだけでなく、Lil Wayneや昨年のサタデー・ナイト・ライブでTravis Barkerと共演したYoung ThugGunnaのような有名ラッパーも参加しています。

mainstream sellout

mainstream sellout

  • Machine Gun Kelly
  • オルタナティブ
  • ¥1935

ポップパンク転向についてはこちらの記事がより詳しく書かれているのでおすすめです。

www.udiscovermusic.jp

 

ポップパンク・リバイバルの背景を考える

ポップパンクリバイバルの背景の大きな要因としてよく言われているのが、それまでの90年代リバイバルからY2Kリバイバルにポップカルチャーのトレンドが移行したことやポップパンクのある種の気楽さがTikTokで若者にウケているということです。

例えば、Machine Gun Kellyの『Mainstream Sellout』収録されているWILLOWとのコラボ曲「Emo Girl」(同アルバムからの2ndシングル)には、メロディックなことは認められてはいるものの、Pitchforkが「笑うには真面目すぎ、真剣に受け取るには馬鹿げすぎている。TikTokでTikTokですぐに使えるミームのようなもの」と評するなど内容のバカバカしさを指摘する音楽メディアは少なくありません(自分の婚約者のミーガン・フォックスが出演する映画『ジェニファーズ・ボディ』にインスパイアされたラインやblink-182ネタのラインなどウケ狙い的な歌詞もあります)。

youtu.be

またMVもかつてのblink-182ノリに近い内容になっており、その点ではPitchforkが指摘するようにTikTokミーム的な要素は強めだということはあながち間違いじゃない気がします。

 

youtu.be

気楽さという意味では、2020年末にTikTokでバズったAll Time Low2007年の楽曲「Dear Maria, Count Me In」使った動画のバイラルヒットが挙げられます。その動画は「Mom, It was never a phase, it's a lifestyle!(ママ、これは一過性じゃない、ライフスタイルなんだ!)」と若者たちがシャウトして「Dear Maria, Count Me In」を歌うというものですが、TikTokではこういったネタ系動画がよくバズります。(2年ほど前にベルリンのクラブ「ベルグハイン」もネタとしてバズりました)。

abcnewsradioonline.com

 

 

こういったある種のバカバカしさがあるネタ系動画がバズることや「Emo Girl」のMVやblink-182MVにはTikTokでウケるネタ感があり、ポップパンクとのTikTokの親和性の高さがうかがえます。

ただ、そういったネタっぽさによるSNSウケやすさだけでなく、ポップパンク・リバイバルの曲では、悲壮や憤怒、「思春期の失恋=世界の終わり」といった価値観によるダイナミックな感情表現が目立ち、それがZ世代の若者を惹きつけているとも言われています。このような表現の根底には孤独や不安、鬱、喪失感など個人的な悩みについてラップする2010年代後期に流行したSoundCloud Rap/エモトラップも少なからず関係しているように個人的には思います。

SoundCloud Rap/エモトラップのルーツであるエモロックを代表するMy Chemical Romanceの曲の多くは死や不安、孤独などについて歌われていますが、こういった内容の歌詞は若者、特に思春期には刺さりやすい内容です(ある意味で中二感がある)。Lil PeepXXX TENTACIONJuice WRLDなどSoundCloud Rap/エモトラップの代表的なラッパーの曲からはその影響を感じることができますが、この要素は先述の「I Think I'm Okay」にも見られます。

ちなみに失恋による喪失感や怒りが歌われているのが、若者に人気のOlivia Rodrigo「good 4 u」やGAYLEの「abcdefu」のようなポップパンクとされる曲です。これらの曲では女性が元カレの今カノに怒りの矛先を向けるのではなく、元カレに対する怒りを露わにするという点で、今様のジェンダー感が表れていると指摘する意見もあります。

news.yahoo.co.jp

pointed.jp

また、先述したとおり、ポップパンク・リバイバルでは非白人系のアーティストも活躍していますが、SoundCloud Rap/エモトラップシーンのアーティストも人種問わずエモや/ポップパンクを幼少期にポップスとして聴いて育ってきた世代です。実際にLil PeepはFall Out Boy好きを公言しており、彼が所属したクルー「GothBoiClique」のアジア系ラッパーCold Hartも、ポップパンク・リバイバルがメジャー化する前の2019年にそういった作品をリリースするなど、ポップパンクとこのシーンは深く結びついています。

www.jfmusicwritterclass.com

SoundCloud Rap/エモトラップは、そのラップスタイルからヒップホップとロックの垣根をなくしたと言われますが、そこにTravis Barkerが結びついたこともヒップホップからの転向組に影響を与えたと思われます。

今の若者はポップパンク・リバイバル自体を「新しい音楽ジャンルの誕生」と捉えていると言われますが、これは最近の若者によく見られる「見知らぬ古いものが逆に新しい」という今の若者の感覚から来るものだと思われます(例:シティポップ、昭和喫茶ブームなど)。

そのことを考えるとボップパンク・リバイバルは、見知らぬポップパンクが若者の目に新鮮に映ることは間違いないです。しかしながら、その土台的なところにはSoundCloud Rap/エモトラップの音楽性や世界観の影響が少なからずあり、そこにツールを含めた最新のポップカルチャーのトレンド要素が加わり、発展した面もあると言え るんじゃないかなと。

 

これは先月J-WAVE SONAR MUSICに出演した際に話したことですが、今、アメリカでポップパンクの人気が再燃しているようにイギリスでは同じくY2K期に人気だったUKガラージ人気が再燃しています。

その立役者はpinkpantheressなのですが、最近はそのフォロワーとも言えるYazというZ世代が同様のUKガラージ曲をリリースしており、かつての"宇多田ヒカルと倉木麻衣"のような現象が約20年の時を超えてイギリスで起こっています。

www.youtube.com

youtu.be

余談ですがフジロック2022に出演するイギリスのプロデューサーのMura Masaが、最近、00年代にヒットしたイギリスのUKガラージのグループ・3 Of A Kind​​のヒット曲「Baby Cakes​​」(2004年)をサンプリングした「bbycakes (with Lil Uzi Vert, PinkPantheress & Shygirl) 」という曲をリリースしています。

bbycakes (feat. Shygirl) - Single

bbycakes (feat. Shygirl) - Single

  • Mura Masa, リル・ウージー・ヴァート & PinkPantheress
  • エレクトロニック
  • ¥255

ポップパンクにしろ、UKガラージにしろY2K期においては、その”パーティーすぎる”音楽性が一般ウケする反面、コアな音楽ファンや批評家からはあまり評価されませんでした。しかし、SNSを通じてそういった大衆ウケするキャッチーさが強みとなり、同時多発的にリバイバルしていることは興味深さを感じます。

また、同時に最近よく言われる音楽のトレンドの作り手が変わってきたことも改めて実感させられる話だなと思いました。これに関しては、昨今の音楽が曲の長さを含めてファンのニーズにあったプロダクトとして提供される傾向が以前よりも強くなってきていることも少なからず影響を与えているのかもなとか思ったり….。