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Y2Kリバイバルで復活間近? ダフト・パンクに代表される「フレンチ・ハウス」とは――歴史、音楽性、制作TIPSをまとめてご紹介

2021年に突如解散を発表し、世界中の音楽ファンに大きな衝撃を与えたDaft Punk(ダフト・パンク)。今年は1997年にリリースされたフレンチ・ハウスの名盤として知られるデビューアルバム『Homework』がリリースから25周年を迎え、本人たちは表に出てこないものの、それに関連した企画として『Homework』25周年盤がデジタルリリースされたほか、今年4月にはそのアナログ盤と1997年のライブアルバム『Alive 1997』のアナログ盤がリリースされました。

Daft Punk『Homework』25th Annivesary Edition

また『Homework』25周年を祝すべく、海外音楽メディアでは『Homework』収録曲「Teachers」になぞらえたDaft Punkに影響を与えた”先生”たちを紹介する特集や、『Homework』で使用された機材やソフトシンセとDAWで「Da Funk」、「Around the World」を再現する記事などが公開されています。

 

 

 

そんな中、星野源ともコラボ歴があるインディーポップアーティストのTom Mischが、Daft Punkの影響を公言しているダンスプロジェクト「Supershy」を始動。フレンチ・ハウスの影響を感じさせる「Happy Music」をリリースしました。さらに近年はUKポストダブステップ/ベースミュージック系のプロデューサーのL-Vis 1990として知られるDance Systemがフレンチ・ハウスを主軸に活動を展開するなど、2000年代前後に流行したフレンチ・ハウスに再び注目が集まりつつあります。

 
Supershy – Happy Music

フレンチ・ハウスの音楽性

では、フレンチ・ハウスとは一体どんな音楽なのかを改めて理解するために、その基本的な音楽性を見ていきましょう。

フレンチ・ハウスは、ディスコ、Pファンク、ジャッキン・ハウスなど、1970年代〜1980年代のアメリカのダンスミュージックに影響を受けつつ、そのような音楽性を主にサンプリングによって取り入れた音楽ジャンルです。それらのサンプルをベースにしつつテクノとハウスのリズムをはめ込み、そこにフィルター/フェイズ系エフェクトが加えられていることも特徴と言えます。基本的なBPMは110~130程度となっています。

制作のための代表的な機材としては、Korg MS-20、Roland Juno-106(シンセ)、TR-909、TR-808(ドラム)、Roland TB-303(ベース)、E-mu SP-1200(サンプラー)Alesis 3630(コンプレッサー)などが挙げられます。

またフレンチ・ハウスには「フレンチ・タッチ」という別称があります。これは音楽ジャーナリストのMartin Jamesが、イギリスの音楽雑誌「Melody Maker」でフレンチ・ハウスの代表的アーティスト・Etienne de Crécyのアルバム『Super Discount』(1996年)をレビューする際に使用したことがきっかけです。それ以降、この言葉はフランスのメディアで好んで使われるようになり、1998年にはイギリスのメディアでも広く使われるようになったと言われています。

Etienne de Crécy『Super Discount』

起点としてのデトロイト・テクノ

フレンチ・ハウスの歴史を遡ってみていくと、起点となったのは“デトロイト・テクノ”だということがわかります。

1980年代後半〜90年代初頭、当時のパリでは「スペース・ディスコ」というジャンルの音楽が一般的には人気を博していました(ちなみに、イギリスではこの時期ロンドンを中心にアシッド・ハウスが流行していました)。

スペース・ディスコは1970年代後半にヨーロッパで生まれたディスコミュージックの一種で、当時流行していた『スター・ウォーズ』などのSF映画の影響を受けた未来的なシンセサウンドが特徴の音楽です。Daft Punkの源流と言われるフランスのバンド「Space」が代表的なアーティストとされています。

Space「Magic Fly」

しかし、のちにフレンチ・ハウスの代表的アーティストとなるZdarこと故Philippe Zadarらは、スペース・ディスコに飽きており、その代わりに当時アメリカで人気だったデトロイト・テクノを聴くためにテクノの違法レイヴに通っていました。

当時のZdarは、BoombassことHubert Boombassとともにヒップホップを作っていましたが、テクノとレイヴの影響を受けたことで、2人は1991年にLa Funk Mobを結成。90年代のブレイクビーツ/トリップホップを牽引したレーベル「Mo’ Wax」からの「Ravers Suck Our Sound」(1994年)など、90年代初頭のブレイクビーツに影響を与えるトラックをリリースしています。

La Funk Mob「Ravers Suck Our Sound」

その後、ZdarはEtienne de Crécyとのユニット・Motorbassを結成し、1996年にリリースしたデトロイト・テクノに影響を受けた『Pansoul』をリリース。同アルバムには「Les Ondes」「Wan Dence」など、現在のフレンチ・ハウスのイメージに近い楽曲も収録されています。

Motorbass『Pansoul』

またZdarとBoombassはこの頃にCassius名義でハウスの制作を開始していますが、当時のパリではシーン拡大に貢献する新たなアーティストやイベントが誕生しました。1996年にスタートしたクラブナイト「Respect」からはDaft Punkが登場しましたが、彼らの初期のマネージャーでEd Bangerの設立者としても知られるBusy PことPedro Winterもこのイベントに参画予定だったと言われています。

シカゴ・ハウスへの接近とダフト・パンクの登場

1996年以前、フレンチ・ハウスはヨーロッパでは「ニュー・ディスコ」や「ディスコ・ハウス」と呼ばれていましたが、この頃に先述の『Super Discount』レビューをきっかけにフレンチ・タッチやフレンチ・ハウスとして認識されるようになっていきます。その後、Respectに出演していたDJやDaft Punkは世間に注目されるようになり、最終的にはワールドツアーも開催されたほか、Respectの雰囲気をパッケージしたコンピレーション『Respect Is Burning』シリーズのリリースも開始されています。

また音楽性も以前のデトロイト・テクノよりもシカゴ・ハウスに近づき、ディスコ、ファンク、ハウスの要素がより洗練されたものになっていく中、1997年にはそれらの影響を色濃く受けたDaft Punkの『Homework』がリリースされ、ヒットを記録。

Daft Punk「Teachers」のファンメイド動画。Daft Punkに影響を与えた“先生”たちがイラストで紹介される

続く1998年にはフレンチ・ハウスの名曲として知られるCassiusの「1999」とDaft PunkメンバーのThomas Bangalterのレーベル「Roulé」からStardustの「Music Sounds Better With You」がリリース。特に「Music Sounds Better With You」は、ビルボードチャートで69位にランクするほどのスマッシュヒットを記録。この曲はDaft Punkのライブでもプレイされており、ファンの間ではよく知られた曲ですが、その模様はDaft Punkのライブアルバム『Alive 2007』で確認することができます。

Cassius「1999
Stardust「Music Sounds Better With You」

「Music Sounds Better With You」は“ディスコをサンプリングして、フェイズ系エフェクトを加えたハウス”という一般的なフレンチ・ハウスのイメージを象徴する楽曲でもあり、現在のクラブシーンでもクラシックとしてプレイされるダンスミュージックの名曲のひとつになっています。ちなみにフレンチ・ハウスやフレンチエレクトロに造詣が深い漫画家、イラストレーターの西尾雄太氏は、クラブカルチャーをフィーチャーした自身の漫画作品『アフターアワーズ』で、同曲をフィーチャーしています。

同時代のフランス発電子音楽――フレンチ・エレクトロ

そのほかにも1990年代後半から00年代初頭にかけては、Modjoの「Lady」やDJ FalconとThomas Bangalterの「Together」といった、現在フレンチ・ハウスの名曲として知られる曲がリリースされていますが、この頃にはかつてDaft PunkメンバーとともにDarlingというバンドを結成していたLaurent Brancowitzも参加するPhoenixや映画『ヴァージン・スーサイズ』のサントラなどで知られるAirなど、フレンチ・ハウスとは別路線ながらも近しい関係にあるアーティストも登場し、活躍したことでフランスの音楽に注目が集まりました。

Air『Original Motion Picture Score for The virgin Suicides』

00年代にはDaft Punkの2ndアルバム『Discovery』(2001年)、『Human After All』(2005年)といった名盤やフレンチ・ハウスの影響も感じさせるサンプリングを多用しつつもフレンチエレクトロという新たなムーブメントを切り開いたJustice『Justice(別名:Cross)』(2007年)がリリースされました。

『Justice(別名:Cross)』で使用されたサンプリングネタを解説した動画

フレンチ・エレクトロ全盛期である00年代後期は、フレンチ・ハウス的なスタイルは少し鳴りを潜めた感がありますが、この頃にはフレンチ・ハウス原理主義的な音楽性を持つThe Phantom’s RevengeやUK出身のLouis La Roche、日本からはLapinといったアーティストも登場。ちなみにLouis La Rocheは2011年にModjoのYann Destalをフィーチャーした「My Turn」をリリースしていることでも知られています。

Louis La Roche「My Turn」

フレンチ・ハウスのポップスシーンへの広がり、そして現在

フレンチ・ハウスは00年代に“フィルター・ハウス”として世界中に広がり、クラブシーンからはEric Prydz「Call on Me」のような世界的ヒット曲が生まれたほか、メインストリームのポップスシーンにも進出。全米ダンスチャート1位を獲得したKylie Minogue「Love At First Sight」(2002年にアルバム『Fever』からシングルカット)やポップ・ミュージック史上、チャート1位獲得国数の最多記録したMadonnaの「Hung Up」など、世界的ポップススターの楽曲にも取り入れられることになりました。

Eric Prydz「Call on Me」
Madonna「Hung Up」

さらに意外なところで日本では俳優として知られる片瀬那奈も当時フィルターハウス的なアプローチの楽曲「Babe」をリリースしているほか、日本のクラブシーンでは、Akakageと小宮山雄飛による和製フィルターハウスの名曲「Hello World」も生まれています。

片瀬那奈「Babe」

 

その他にもラッパーのKanye WestがDaft Punkの「Harder, Better, Faster, Stronger」をサンプリングした「Stronger」(2007年)リリース。エレクトロシーンを代表するプロデューサー/DJのBoys Noizeが「Roulé」と「Crydamoure」(Daft PunkのGuy-Manuel de Homem-Christoが関わる)の音源を使ったDJミックスを発表するなど、フレンチ・ハウスは多方面に渡り、この時期のアーティストに影響を与えています。

Kanye West「Stronger」
Boys Noize「Roulé & Crydamoure Mix」

また00年代から10年代は、フレンチ・ハウスとも近しいルーツを持つニューディスコがダンスミュージックシーンで人気を博すようになりましたが、そのシーンとも共鳴するFKJらを要するレーベル「Roche Musique」が“フレンチ・ハウス2.0”と言える新たなフレンチ・ハウスを打ち出しています。

Roche Musiqueのコンピレーションアルバム『.Wave』

さらに現在のシティポップブームのきっかけのひとつとなったSaint Pepsi、Night Tempo、Macross 82-99、Yung Baeらに代表されるフューチャー・ファンクも、フレンチ・ハウスの影響がうかがえるジャンルのひとつです。

Yung Bae, Macross 82-99, Harrison「Selfish High Heels」

そして、迎えた2020年代はY2Kリバイバルブームの影響もあって、2000年代前後に流行したポップパンクやUKガラージ、ドラムンベースの人気が復活しています。そのような流れの中で冒頭でお伝えしたように現在、同時期に流行していたフレンチ・ハウス復興の兆しが見られることを考えると今後、本格的なフレンチ・ハウスリバイバルが起きる可能性も十分考えられます。

フレンチ・ハウス制作のためのTIPS動画

最後にフレンチ・ハウスを制作する上で参考になるTIPS動画をいくつかご紹介したいと思います。

How to Make FILTERED HOUSE (Step-by-Step like DAFT PUNK & Modjo)

Daft Punk、Modjo、Stardustなど王道のフレンチ・ハウスの作り方をイチから解説するこの動画では、ベースとなるディスコサンプルの選定から、サンプルのスライス方法、フィルターのかけ方、マスタリングのTipsが紹介されています。

Ableton Tutorial: How To Make A French House Filtered Bassline (Daft Punk Style, Sub Bass)

フレンチ・ハウス風のベースラインの作り方として、フィルターをかけたこもったベースラインの作り方が解説されています。

Sample Breakdown: Daft Punk – One More Time

厳密にはチュートリアル動画ではないものの、フレンチ・ハウス風のサンプルエディットの方法とアイデアを学ぶという点で参考になる元ネタ分解動画です。

Lets create French House like we’re back in the 90’s

内容的には先述の「How to Make FILTERED HOUSE」と近いものになっていますが、こちらではKorg MS-20やRoland TR-909など実際に当時のフレンチ・ハウスで使用されていた機材が使用されています。これらの機材は現在、実機以外にもメーカー正規復刻やプラグイン版のほか、クローンなどもリリースされているので、動画を参考にそういった機材を使って再現してみるのもアリです。

本稿でフレンチ・ハウスが気になった人は、本稿で紹介したTIPS動画などを参考に制作にトライしてみてはいかがでしょうか?

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】

*オリジナル掲載先のSoundmainサービス終了により本サイトに移管(オリジナル公開日は2022.06.01)