近年、インターネットを通じて海外で行われる日本の音楽の再評価。一説にはYouTubeなど音楽ストリーミングサービスのアルゴリズムがそれを後押ししていると言われています。
その結果、日本の80sシティ・ポップ/AORやアンビエントは、今やトレンディな音楽として、海外の愛好家を増やしているわけですが、そのネットを通じた”再評価”という流れは、何気にテン年代の音楽業界に起きた大きな出来事のひとつだったのではないか? そう、私は最近思い、次は原田知世”再評価”がくるはずという世迷言的な夢を今日の今日まで抱いてきました。
片瀬那奈はネット音楽の世界における"ポスト竹内まりや"説を唱えてみたい
しかし、今、次に再評価されてほしいアーティストをついに発見。それは近年はバイプレイヤー的立ち位置で映画やドラマで活躍する女優、テレビ番組の司会者として知られる片瀬那奈。
今の若い方はご存知でない人も多いかと思いますが、実は彼女、2000年代前半は歌手としても活動していました。(確か、今も筋金入りのフジロッカーとして、界隈ではハライチ澤部と同格でリスペクトされる存在だったような)
WARP30周年「MY WXAXRXP」プレイリスト企画でRefuse 73を選曲する片瀬那奈
その音楽性が再評価されてほしいと思ったのは、エレクトロニックミュージックのレーベル「WARP」のレーベル設立30周年を祝すための「MY WXAXRXP」プレイリスト企画に彼女が参加していたことがきっかけ。
同企画には石野卓球、AOKI takamasa、さらにはTwiterの人気企業アカウントとして知られるSHARPの中の人などミュージシャンから界隈の識者までが選曲者として参加していて、それぞれ5曲選曲するというもの。
その公開されたばかりの第2弾プレイリストに片瀬那奈さんも選曲者として5曲をセレクトしているのですが、その内容がかなりピンポイントで私の胸に突き刺さりました。
彼女が選曲した5曲のうち、2曲はなんと2000年代のWARPを彩ったIDMヒップホップ/グリッチホップの雄、Prefuse 73(プレフューズ73)作品!
正直、そっち系をちょっとかじった程度ならAphex Twin(エイフェックス・ツイン)とかLFOとかに走りそうなものですが、ここでPrefuse 73はかなり渋い。いや、渋すぎる。
Prefuse 73といえば、サンプルを細かく刻んで超絶エディット、さらには初期の彼の専売特許とも言えるラップネタをズタズタにチョップした独特の声ネタ使いなんかで私たち世代のIDM好きにはよく知られてた存在です(近年はWARPからのリリースはないので、レーベルとは距離を置いているのかな?)。
2000年代エレクトロニックミュージックの洗礼を受けていると思われる片瀬那奈
そこを持ってくるそのセンス。同じPrefuse 73好きとしてはとにかく共感しかない。ちなみに片瀬那奈さん、1981年生まれなので2000年代にはリアルタイムでPrefuse 73などIDMヒップホップの洗礼を受けていたことは間違いないと思い、ちょっとネット検索してみたところ、フジロックの関連サイト『富士祭電子瓦版』でがっつりPrefuse 73愛を語っておられました。
それによるとご自身で打ち込み(DTM)もされるそうな。
ちなみに先述のプレイリストには以下のようなコメントも寄せておられます。
“いい音楽に出会うと、その曲やアーティストのレーベルをチェックして音を漁るようになったのはWARPを知ってからでした。UKテクノに始まり、HIPHOP、ELECTRONICAなど変幻自在でカッコ良くお洒落な音楽を教えてくれたのもWARPです。新作が出る度にワクワクと新しさを感じさせてくれます。特に思い出深いのは09’エレグラの「WARP20」こんなメンツが一堂に会することは一生ないかもしれないほど豪華で幸せな空間でした。音、MV、アートワーク、LIVE全てにおいてシビれる格好良さ。曲のセレクトは好きな曲がありすぎて困りましたがw 30周年おめでとうございます!そしていつも素敵な作品を届けてくれてありがとう!”
本気ですね。WARPっ子ですね。おそらくPrefuse 73聴いて、当時一斉を風靡したヴィンセント・ギャロが謎にWARPからリリースしたアルバム(彼の自慢のヴィンテージ機材がふんだんに使われた非常に”意識が高い”作品。簡単にいえば当時の常人にはなかなか理解し得ないオダギリジョーのファッションのようなものです。多分)もチェックしていたに違いない。そんな妄想が膨らみました。
片瀬那奈が00年代前半に残したアルバムには当時のクラブトレンド要素がたっぷり
実は今回はここまでが長い前フリ。落語でいうところの枕です。
そんなことがあって片瀬那奈が昔、音楽活動をしていたことを思い出し、Spotifyで検索をかけてみたところ、3枚のアルバムと1枚のEPを発見しました。
これらの作品は2003~2005年にリリースされたもので、ちょうど本格的なMyspace発のエレクトロブーム勃興前夜くらいの時期だと思います。
そのせいもあってか本人のダンスミュージック嗜好がゴリゴリに反映されてます。エレクトロはもちろんのこと、サイケ寄りのトランス、プログレシッヴハウスだったり、当時のクラブトレンドがふんだんに詰め込まれているので今、聴いてもものすごく興味深い。
洋楽ポップススターのB面リミックスを彷彿とさせる"最強にやりたい放題"なカバーアルバム『EXTENDED』
例えば、2004年のカバーアルバム『EXTENDED』では、最近公式Future Funk化されたことも話題のWINK「淋しい熱帯魚」をセレクトしているほか、松田聖子の「Rock'n Rouge」をFPM風の洒落たエレクトリックなラウンジブレイク、小泉今日子「木枯らしに抱かれて」をゴリゴリのエピックトランスに変換してしまうなど、良い意味でやりたい放題です。
Kylie Minogueに対する"日本からの回答"も収録した『TELEPATHY』
そして、2003年のオリジナルアルバム『TELEPATHY』がまたやばい。音楽スタイル的には当時のトレンドとがっつりリンクするエレクトロを基調としたポップスになっているのですが、例えば、収録曲の「Babe」は完全にKylie Minogue(カイリー・ミノーグ)の大ヒットアルバム『Fever』(Kylie Minogueの復活作として知られる) に収録されたフィルターハウス・ポップの名曲「Love At First Sight」に対する日本からの回答的作品といっても過言ではない仕上がり。
また「A.I.O」はStardust(スターダスト)の名曲「Music Sounds Better With You」の影響をめちゃめちゃ感じる1曲になっているなど、2000年代のカルチャーをリアルタイムで通過した世代にとっては聴くとそこはかとないノスタルジーを感じずにはいられない、エモいアルバムなのです。
あと、こういう風に振り返ると当時は思いもしなかった”気づき”が沢山ある作品になっています。
日本音楽の海外好事家と音楽サブスクのアルゴリズムが片瀬那奈に反応する日を待つ
最近は90年リヴァイバルの次として、2000年代のセレブをネタにしたリヴァイバルもちらほら海外ではネタになっていますし、ファッションでも2000年代を代表するドメスティックブランド「EVISU」がラッパー周辺で再評価されていたりもします。
音楽でいえば、「Syojo Satori 処女のサトリ」というFuture Funk系アーティストが日本のParis Matchをサンプリング元ネタにしていたりと、ネット界隈からの"片瀬那奈再評価"も十分に可能性として考えられるのではないかと…。
余談ですがYouTubeをディグっていると先述の「Babe」のパフォーマンス動画も見つかりました。
そんなわけで片瀬那奈が2000年代に残した大いなる遺産に海外にいる日本音楽好事家と音楽ストリーミングサービスのアルゴリズムが反応する日が来ることに期待したいところです。
ちなみにインスタみてたらThe Avalanches(アヴァランチーズ)と記念撮影している片瀬さんがいました。この人、ほんまもんやで...。
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