新型コロナウイルス感染の第二波により、レストランやパブの営業に制限(午後10時までの営業や店内で流れる音楽の音量を85dB以下するなど)がかけられるなど、感染防止のための対応に再び追われているイギリス。
コロナ禍によってミュージシャンの3分の1が音楽キャリアの“放棄”を検討するイギリス
今夏、”ウィズコロナ時代のソーシャルディスタンスを確保した”ことをウリにオープンしたばかりのライブベニュー「Virgin Money Unity Arena」もその影響で先月を持って営業終了に追い込まれ、ライブビジネスシーンにも大きな影響を与えていることが報じられています。
また、新型コロナ禍の影響により同国のミュージシャンの3分の1が音楽キャリアの“放棄”を検討していることも報じられています。Musicians' Unionの組合員約2000人を対象にした調査ではミュージシャンの87%が2020年の収入が2万ポンド(約274万円)以下になると回答。これはイギリスの平均年収2万9600ポンド(約405万円)と比べて約1万ポンドも低い数字です。そのことを踏まえて考えると、確かに経済的には廃業を検討するか、もしくは専業をやめて、副業を持ちながら音楽活動するかの選択を迫られている状態にあると言えます。
調査では、他にも回答者の88%がイギリス政府はミュージシャンや芸術への支援を“十分に”行っていないと考えていること、政府が10月以降に休業・所得補償制度を延長しない場合、同じ割合のアーティストが経済的苦境に直面すると回答していることも明らかになっていますが、そのような中でイギリス政府はナイトライフやライブビジネスの再開は長期に渡り、不可能であるという見方を示しています。
イギリスの財務大臣の「音楽家は別の道を探せ」的発言に批判が集まる
またそのような状況を受けて、イギリスの財務大臣のRishi Sunakによる「ミュージシャン含め音楽業界人は、今までの仕事に固執せずに別の仕事を探すことを検討するべき」と取れるような発言も物議を醸しており、それに音楽業界は猛反発。
What's Rishi Sunak's message to musicians, actors, freelancers in the arts who don't feel govt is supporting them? Should they get a different job?
— Daniel Hewitt (@DanielHewittITV) 2020年10月6日
The Chancellor told me it's "not right that there's no work available...and everyone is having to adapt." @ITVNewsPolitics pic.twitter.com/ewrQixpAne
今年来日が予定されるもコロナ禍によりキャンセルとなったUKの若手人気DJのSHERELLEや大御所のFatboy Slim、Goldieなど多くのミュージシャンが財務大臣の発言や政府に対する批判を行っています。
イギリスの音楽産業の経済価値は年間52億ポンド(約約7125億円)で、ナイトライフ産業全体だと年間660億ポンド(約9兆435億円)にも上ると言われていることを理由に、Goldieはアートとナイトライフの結びつきがイギリス経済を後押ししていると発言。ミュージシャンの多くは、政府がそれらを切り捨てることは国家にとっては大きな経済的損失になると訴えています。
(この「ミュージシャンや音楽業界人は別の仕事を探すべき」的発言は、厳密に言うとミュージシャン、アーティストを含む音楽やアート業界人に対して、代わりの職業となるものを見つけて職業訓練を受ける必要があるという旨の発言でしたが、多くの業界人たちには今の職業をやめろと言っていると捉えられたことにより、イギリスのメディアでは「ミュージシャンや音楽業界人は別の仕事を探すべき」と捉えた業界人が反発するという形で報道されていました)
イギリス政府による"芸事系フリーランスは活動の場をオンラインに以降せよ! "キャンペーンも不興を買う
しかしながら、イギリス政府はそういった反発がある中でこんなキャンペーンを展開。
This has to be a joke? Right? pic.twitter.com/hVpxOhkvf7
— Matthew Bourne (@SirMattBourne) 2020年10月12日
画像は、コロナ禍によって活躍の場を失ったバレリーナに”これまでのやり方ではウィズ・コロナ時代ではやっていけないぞ”という意味を込めて、転職するために職業訓練(リモートワークで働ける職業)を受けることを促したものですが、先述のような状況だけにFatboy Slim御大はこんな反論を込めたツイートを行っています。
This is unbelievable. The government is throwing the arts under a bus.#Fatima pic.twitter.com/PuCvV3maMJ
— Fatboy Slim (@FatboySlim) 2020年10月12日
また、反論の中にはこのような形でキャンペーンの影響を指摘したものも。
9 very good points, here. #Fatima pic.twitter.com/rNsNPjLJ24
— Charlotte (@RoylePin) 2020年10月12日
こちらの画像ではもし、活動をやめて転職した場合、これだけの産業が仕事を失くすことになるというキャンペーンの問題点が指摘されています。実際にこうなるのであれば、確かにイギリス政府が国民に求める”新しい生活様式”には問題もあるようにも思えます。
コロナ収束がまだ見えない以上、イギリス政府の指針は現実的な面もありますが、言われる側としては抵抗感があるのも事実で、案の定、キャンペーンは国民からの批判により取り下げられたことが報じられています。
実際に11月からイギリスで自営業者に支給される新たな給付金は、それまでの過去2度が去年の平均月収の80%、70%だったことに対し、20%まで引き下げれらており、それを1ヶ月分の支給額として3ヶ月分一括で給付されるようです。ただ、さすがにその額はきついという意見もわかります。なので、ベースはやっぱり公助なのかなぁと…。
とはいえ、それだけに頼るのはある種、問題の先送りでもあるため、場合によっては副業やオンラインで少しでも何らかの方法で収入を得ることが現実的なのは認めざるを得ない部分でもあります。
というのも、私自身もコロナ禍に喘ぐ自営業者で、持続化給付金によって、”HP=貯金残高”が一時回復したものの、それは言ってみればベホマではなくベホイミくらいのもの。つまり、なくなった仕事は戻ってこないし、事業を継続するという意味では、定期的に案件がある状況の方が長い目で見て文字通り、転職することなくこれまでの職業を続けていけるので、給付金はやはり一時しのぎに過ぎません。
特に日本に関しては現状、1度きりの受給であるため、コロナ収束が見えない中、生活していくことを第一に考えた場合、”HPが残っている間にどうしていくか”を考えることは、当然重要。これまでと同じではやっていけないということは骨身に染みて理解できるだけにこのUKの問題に関しては非常に複雑な気持ちです。
クラブで海外DJのライブストリーミングを楽しむイベントはシーンを救う鍵になるか?
そういったことを踏まえて、個人的に注目したいのは、今月Contactで行われた海外DJのライブストリーミングをクラブで聴けるというイベント。
【10月7日(水)François K. presents World of Echoes】*20:00 - 3:00
— @ContactTokyo (@ContactTokyo) 2020年10月5日
World Wide FMにて、World of Echoesを配信しているFrancois K.がNYの自宅スタジオとContactのStudio Xをライブ中継で繋いで、この日この場所に集まる人だけのために特別なセットをプレイする。 pic.twitter.com/h7IATzkUvf
理由は、海外の著名DJのプレイをリモートとはいえ、クラブで体験できることは海外DJのプレイに飢えているような人からの需要が少なからずあるだろうし、今のような特に海外でクラブが営業できない状況であれば、問題の解決策のひとつになると思ったからです。
コロナ禍以降、数多くのDJ配信が日常的に行われていますが、そういったものをただ単に自宅で視聴するよりも馴染みあるクラブで他のクラバーたちと共有しながら視聴することで、もしかしたら体験としてはよりイマーシヴなものになるんじゃないかなと思う面もあります。また海外DJとしても収入源になり得るし、例えばブッキングエージェンシーにしてもそういった形での売り込みがもしかしたらビジネスとして成立することを考えると、そういった形での売り込みもアリといえばアリなのでは?
現在は、音楽業界にとって非常に苦しい時期であることは間違いないです。しかしながら、先述のようなものを含めて、何らかの新しい形で収入を得ることができるレベルのアーティスト(主にオンラインであっても知名度で集客できる)は、その方向での仕事も模索することも必要だと思います。またそれが難しい場合やアーティストのようにファンによる”課金”という名の支援が得られない業界の裏方(箱の従業員や技術スタッフ)には政府による経済的な支援が継続して行き届くことが重要だと思いました。
日本と比べて夜遊びのバリエーションが少ないイギリス
ただ、色々書きましたが、本音でいうと自分としてはUKの音楽シーンには思い入れがあるし、在りし日の状況に戻ってほしいです。特にイギリスは、ナイトライフという面で言えば、日本と違って本当に娯楽と言えるものが少ない。あちらに住んでいた身からすると、肌感感覚ではありますが、パブかクラブに行ってプレミアリーグ観たり音楽を聴いて、酒を飲む。くらいのものです。
裏を返せばその選択肢の少なさがシーンの盛り上がりに貢献していると言えるのですが、それが失われたのが2020年の今。そういった娯楽が失われた反動で違法レイヴが増加して、社会問題化(感染リスク増加や暴行事件が起きた)しているのがイギリスなので、そのことを考えると同国において”音楽”が日常生活から失われることは、経済的にも文化的にも影響が大きい社会的な損失だと言えるはずです。
ちなみに違法レイヴは違法レイヴで色々な見方があるようで、そのちょっとした解説がこちら。興味を持った方はツイートのスレッドチェックもあわせてどうぞ。
現在UKでは違法レイヴ主催者、参加者とも見つかれば罰金。その中でコロナ禍に起こった新たなUK違法レイヴカルチャーを記事興味深い。⁰https://t.co/6XTaQTtoDN⁰⁰
— letter music@音楽情報と雑談 (@lettermusicmag) 2020年9月4日
以下、興味深かった点。
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