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SoundCloud音源をオフラインでもDJで使えるサービス「SoundCloud DJ」が開始という話

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音楽プラットフォームのSoundCloudが新たなDJ向けのサブスクサービスとして「SoundCloud DJ」を開始しました。

 

WiFi環境でなくてもSoundCloud音源を無制限に使ってDJできる「SoundCloud DJ」

「SoundCloud DJ」は、月額19,99ドル(約2000円)で利用可能で、ウリはSoundCloudで公開されている音源をオフラインでDJプレイに使用できる点。しかもSoundCloudのブログによると、オフラインで使用できる音源数は無制限で、競合サービスのBeatport LINKの最上位プランである「Beatport LINK PRO+」がオフライン使用可能な音源数が100曲までということを考えると少なくともその面では「SoundCloud DJ」に軍配が上がるのかなという印象です。

また価格面でも「Beatport LINK PRO+」が月額44.99ドル(約4700円)であることに対し、「SoundCloud DJ」は先述のとおり、月額19,99ドルとかなりリーズナブル。DJ的にはWiFiなしでもローカルメディアに音源をDLして安定した環境でプレイできることはもちろん、音源購入にかかるコストが抑えられることも非常に魅力的です。特にDJ経験のある人であれば、ご理解いただけると思いますが、月の音源購入費用が2000円ほどに抑えられるかつ、無制限に使用できるというのであれば、音源のディグにも一段と身が入りそう。

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「SoundCloud DJ」を利用できるDJアプリ/ソフトは?

そんなある意味、DJのあったらいいなを叶えると同時に次世代DJツールの新たな姿を示した、「SoundCloud DJ」ですが、現在使用できるのは提携しているDJアプリ/ソフトの「Virtual DJ」のみとのことで、今後数カ月でCross DJ、Denon DJでも使えるようになる模様。

ただ、正直なところ、現時点ではSerato DJ、Traktor、rekordboxのようなメジャーなDJアプリは使えねーのかよと感じてしまう提携ラインナップのため、そこまでクラブの現場での普及率でいえばかなり低そうな印象も否めません。

とはいえ、SoundCloudのサブスクサービス「SoundCloud Go+」(日本では使えないやつ)はオンラインであれば、上記メジャーDJアプリでSoundCloud音源が使用可能(他にもdjay、Virtual DJ、Cross DJ、Denon DJなど)で、SoundCloud自体も「SoundCloud DJ」との統合を進めていく予定であることを明かしていることから近い将来は「SoundCloud Go+」対応DJアプリでSoundCloud音源を利用したオフラインDJプレイも実現しそうです。

しかしながら「SoundCloud DJ」は、「SoundCloud Go+」同様、日本では現在使用することができず...。

「SoundCloudよ、明るい未来予想図を示しておきながら、なんたる絵に描いた餅を我々日本のユーザーに見せてくれるではないか!!」と憤りを感じずにはいられませんが、これも毎度の毎度のSoundCloud新サービスあるあるといえば、そうなので、とりあえず仕方のないことだと一旦受け入れましょう。でも、「SoundCloud Go+」はいらないけど「SoundCloud DJ」なら契約したいというDJも一定数いそうなので、今後このサービス加入者がどれくらい増加していくのかは結構気になりますね。

DJ向けサブスクは音源を作って販売する側にとっては不評?

ただ、このようにDJにとっては便利な反面、コロナ禍以降、bandcampのようにサブスクではなく、音源を購入することでファンがアーティストの収入を支えるサービスに注目が集まる現在の状況からすると、このタイミングで発表するのは少々悪手なのかもなと思う面も。

というのも以前「Beatport LINK」がスタートした時にDJ向けサブスクによって、これまでの音源が購入されることで得られた収益が失われることを憂慮する声が少なからずDJ向けのクラブミュージックのプロデューサーたちから上がっていたからです。

最近はDJ向け音源もサブスクに合わせて尺を短くした”edit”版がリリースに付属していますが、そもそもDJ向け音源(主にハウス、テクノなどロングミックスするもの)は、イントロ、アウトロが長い方が使いやすいので短い最近のヒップホップ音源のように回転数を上げるのには不向き。

でもそれ以上に以前はサブスク音源は、オンラインでなければDJに使えない、使えたとしてもクラブの現場では安定性にかけるというデメリットがあったため、大抵のDJは音源を購入していたと思います。しかしながら、オフラインで使えるDJ向けサブスクによって、そういった慣習のようなものも失われつつあるだけに今回も一部のプロデューサーやレーベルからの否定的な意見は避けては通れないんじゃないのかなと。

 

オフラインDJが可能になることでDJ向け音源系プロデューサーの収益はどうなる?

そもそも音楽リスナー全体の中でも数が少ないDJ層。それに向けて購入ありきで作られていた音源が売れなくなると彼らの収益が下がることはサービス側もきっと想定はしているはず。

なので、DJ向け音源のプロデューサーたちの不満をなくすためにもこういったサービスでは、例えばダウンロードされた場合はロイヤリティーのレートにいくらか上乗せされるなど、なんらかの形でSpotifyやApple Musicなどの他サブスクサービスより収益率が高くなっていればプロデューサー的にはまだ旨味があるのではないでしょうか?

余談ですがサブスクのロイヤリティーは再生数だけでなくアーティストの契約状況など様々な要因によって最終的に支払われる額がアーティストによって異なります。なので一概に世間的に言われている1再生あたりのロイリティーが正しいとは言えないことも頭に入れておく必要があります。ちなみにSpotifyを例にしたサブスクのロイヤリティーの算出方法はこんな感じ。

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1~4までのステップを経て、最終的に支払われる額、つまり5が算出されるので、アーティストとしては再生数もさることながら、支払いの原資となる会員からサービス側が徴収するサブスク料金と広告収入などの総計額やパブリッシャーとアーティスト間の支払いに関する取り決めなどもロイヤリティー算出に関わってきます。

なので、オフラインプレイ用にダウンロードされることも別のロイヤリティー算出に関わる要素になればいいんじゃないかなと思った次第。実際、オフラインでも使える「Beatport LINK PRO+」ってこのあたりどうなっているんでしょうか? 気になる...。

サブスク全盛期だけにこういった形でのDJ向けサブスクサービスが求められることはもはや自然の流れでしょうし、このようなサービスはDJをする側にとってはメリットです。しかし、音源のプロデューサーたちにとっては、そもそも買う人が限られていたものがより売れにくくなり、収益化が難しくなるというデメリットの部分もやはりあると思います。

 

今後は音楽クリエイターもこれまで以上にプラットフォームの使い分けが必要になってきそう

今後はどのようにしてこのあたりの折り合いをSoundCloudがつけていくのかにも注目したいところですし、プロデューサーたち音楽クリエイターも音源の収益化に関して、これまで以上にプラットフォームの使い分けが必要になってきそうです。

そのひとつの結果として、サブスクのカタログにない"ヴァイナル・オンリー"ならぬ"ダウンロード・オンリー"音源が増えていくなんてこともあるかもしれませんね...。

なお、「SoundCloud DJ」はオフラインでの音源が使える機能だけでなく、キーとテンポを解析するアプリが用意されている他、今後、DJプレイ向けにキュレーションされたプレイリストの公開なども予定されているようです。

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Images via Pixabaydjtechtools

Reference:
https://blog.soundcloud.com/2020/10/20/mix-wherever-inspiration-strikes-with-soundcloud-dj/
https://djtechtools.com/2020/10/22/djs-can-now-stream-offline-from-soundcloud-with-new-subscription/