letter music

日々更新される音楽情報を雑談を交えて文字化するWebzine

JF音楽鑑賞日記:エレクトロリバイバルを突き抜け、初期EDMリバイバルの匂いすら漂うKylie Minogue「My Oh My」

2025年3月に約14年振りの来日公演開催が決定したポップ・ディーヴァ、Kylie Minogue。

そんな彼女は、最新アルバム『Tension II』をリリースしたばかりですが、こちらがすでに本国オーストラリア、イギリスではアルバムチャート1位を獲得。前作『Tension』(2023)も大ヒットしましたが、今作もリリース直後からヒットしているため、2024年も彼女の人気は少しも揺らいでいないことが証明されました。

ちなみにThe Bert Showというラジオ番組で本人が語ったことによると、Kylie Minogueは、コロナ禍のロックダウン期間中にボーカルの宅録スキルを習得。そのスキルを活用して、今作の一部の楽曲では、ボーカル録音を自ら担当したそう。もし、彼女が日本を拠点としていれば、きっとサンレコで取材され、表紙を飾っていそうな話ですね。

余談ですがイギリスでは今年9月をもって、音楽制作情報の有名専門誌「Future Music」が廃刊となったことが一部で話題になりました。もし発行が続いていれば、そういう未来もあったのかもと思う次第です。ちなみに同誌のコンテンツ制作を担当してきたライターやレビュアーは、引き続き同じ発行元の会社が運営するウェブメディアで引き続き執筆するとされています。

pointed.jp

さて、『Tension II』ですが、こちらはタイトルどおり、前作『Tension』の続編ということで前作の路線を引き継いだダンスポップ色の強いアルバムになっています。特に本作では、00sエレクトロリバイバルムードが漂う2024年ならではの作品ということで、「Taboo」やThe Blessed Madonnaとの「Edge Of Saturday Night」など、そういったテイストの曲が前作よりも増えた印象があります。

open.spotify.com

その中で気になったのは、Kylie Minogueのダンスポップ志向が高まりすぎた結果、00sエレクトロリバイバルを突き抜け、回り回って、2010年代初頭ごろの初期EDM的サウンドにまで到達してしまっている曲もあるということ。

具体的にいうと「My Oh My(with Bebe Rexha and Tove Lo)」は、2010年代初頭当時はまだ"エレクトロハウス"と呼ばれていたEDMムーブメント爆誕以前の初期EDM曲を想起させる1曲になっています。

EDM人気の立役者だった"ビッグルーム"ほど、派手派手なフェスバンガーといった感じではないんですけど、この曲は割とシンセのメロディーがEDMのそれっぽい。例えば、2010年頃のそういう曲だと往年のSwedish House Mafia曲「One」あたりが頭に浮かびました。

youtu.be

実際に「One」を聴き返してみたところ、「My Oh My」のシンセはそこまでギラついてなかったのですが、それでもメロディーはこういう初期EDMに通じるところがあります。また、この曲にはBebe RexhaとTove LoというEDMシーンとも関わりが深いシンガーが参加しているので、そのこともそういった印象持ってしまった理由なのかもしれません。

ただ、Kylie Minogue自身も実は狙って初期EDMリバイバル要素を取り入れているのでは?とも思うんです。というのもKylie Minogueは、2010年の段階でEDMの匂いがする「Get Outta My Way」というダンスポップ曲を発表しています。今聴くとこの曲、かなり初期Avicii、Zeddっぽい。

youtu.be

そういう意味では、いち早くEDM的な音楽性に接近していたと言えるKylie Minogue。そう考えるとこの時代の先を行くトレンドに対する嗅覚に驚かされます。

まあ、厳密にはLaidback LukeとかSHMの3人は00s当時すでにいわゆるフレンチエレクトロ的な"エレクトロ"とは別の"エレクトロハウス"のプロデューサーとしてすでに人気だったので、ある意味でEDM的なエレクトロハウスは当時からすでに存在したと言えば、存在したと言えるんですけど。

そういや00sジャパニーズ・ダンスミュージックシーンが誇るSUGIURUMNによるイビサアンセム「Star Baby」には、Axwellによる"Cyberjapan Remix"というものも存在しました。

youtu.be

ちなみに先述のラジオ番組で語られたことによると、Kylie Minogue本人も『Tension II』では選曲などアルバムのクリエイティブにおいて、意思決定の部分で関わっているそうです。なので、もしかしたらそういう場面で本人から初期EDMリバイバル要素を取り入れたいという話が出ていたのかもしれません。

ただ、トレンドは巡り巡ってリバイバルしていくものなので、4ディケードにまたがり活躍し続けているKylie Minogueは、きっと今のトレンドの次に来るものも肌感覚でわかっているのかもしれません。というか、そう信じたい(笑)

そして、そこがベテラン・ダンスポップ・ディーヴァ、Kylie Minogueの絶対的な強みではないでしょうか?何年後かにEDMリバイバルが起きた時に60代の彼女がゴリゴリのEDM曲でまたヒットを飛ばしているという展開は胸アツですね。「My Oh My」を聴いていてそんな風に思いました。

そういえば、2015年にKylie MinogueはEDMスターのNervoとコラボしてこんな曲もだしてましたね。こちらにはNile Rodgers御大とScissor SistersのシンガーのJake Shearsも参加してます(Jake Shearsといえば、00sエレクトロの名曲Tiga「You Gonna Want Me」でのボーカルが思い出されます)。

約10年前の曲ですが2024年であれば、むしろ今のトレンドにマッチしている気がします。再評価の対象ですね。

youtu.be

 

最後にもうひとつ余談ですが、以前、EDMの発展の歴史をまとめた記事を公開してます。このシーンがどのように発展してきたのか気になった方は、ぜひご一読ください(但し、あくまでダイジェスト的にまとめたものなので、内容は若干駆け足気味です。そこはご容赦ください)。

www.jfmusicwritterclass.com