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Ultra Japanの復活で再び注目が集まる「EDM」とは? ジャンル内トレンドの変遷、制作TIPSをまとめてご紹介

2020年から世界中を混乱に陥れたコロナ禍。しかし欧米では昨夏ごろから収束傾向にあると捉えられており、開催延期を余儀なくされていた音楽フェスの多くが復活してきています。

その中でも注目したいのはEDMフェスです。昨年10月には「EDC Las Vegas」、今年3月には「Ultra Music Festival Miami」、7月には「Tomorrowland」が開催。それぞれに成功を収め、コロナ禍による空白の2年間を経たEDMフェスは見事復活を遂げているのです。そして、9月にはかつて日本を代表するEDMフェスとして知られた「Ultra Japan」の復活も発表。国内でも再びEDMに注目が集まりつつあります。

Tomorrowland 2022でのHardwellのパフォーマンス

 

 

 

EDMとは、“Electronic Dance Music”の略称。一般的には2010年代に世界的に流行した“フェスティバルバンガー”と呼ばれる、主に音楽フェスや大規模クラブでプレイされるダンスミュージックのイメージが強いと思います。

しかし、広義にはその名の通り、様々なエレクトロニックミュージックのジャンルを含むという解釈もあります。ハウス、テクノ、ダンスポップ、トランス、ドラムベース、ダブステップなど現在広くフェスやクラブで親しまれているダンスミュージックのジャンルのほか、ダブやヒップホップ、ディスコ、ポストパンクなど。

1960年代後半にSilver Applesなどのバンドがダンス向けの電子音楽を制作したことや、1960年代後半から1970年代にかけてジャマイカでダブが生まれたこと、1970年代にシンセを基調としたディスコミュージックが生まれたこと、そして、KraftwerkやYMOによって、エレクトロポップが生まれたことなど、電子楽器がダンサブルな音源の制作に大きく関わっている歴史を踏まえれば当然とも言えるでしょう。

今回は2010年代に様々に形を変えながら発展したEDMを、年代ごとのトレンドとともに振り返ってみたいと思います。

2010~2011年:プログレッシブハウスとエレクトロハウスが台頭

先述の通り、2010年以前から“EDM”は存在していましたが、この頃に現在一般的に知られている“EDM”のイメージが形成され始めました。

2010年〜2011年のEDMシーンでは、メンバーそれぞれがプログレッシブハウス/エレクトロハウス系のプロデューサーとしても活動するSwedish House Mafiaが「One」や「Miami 2 Ibiza」などのヒット曲で大成功を収めたほか、Calvin Harrisが「You Used To Hold Me」などのトラックで人気を博し、Aviciiが「Insomnia」、「My Feelings For You」といった初期の代表曲で、ラジオのエレクトロチャンネルを席巻。また90年代から活動するDavid Guttaが多くのポップスターとコラボしたアルバム『Nothing but the Beat』やdeadmau5のアルバム『4 x 4 = 12』が商業的な成功を収めるなど、プログレッシブハウス/エレクトロハウスの流れを汲んだプロデューサーたちから数々のヒットが生まれました。

2011〜2013年:EDMの黄金時代

2010年代のEDMシーンにおいて、黄金時代とされる2011〜2013年にはプログレッシブハウス、ダブステップ、エレクトロといったジャンルからアンセムが多数生まれ、先述のプロデューサーらのほかにもSkrillex、Zedd、Porter Robinsonといった新鋭やAfrojack、Steve Aoki、Fedde Le Grandといったそれ以前からダンスミュージックシーンで活躍していたプロデューサーたちがEDMスターとして台頭。「Spinnin」や「Armada」といったダンスミュージックレーベルからも数多くのEDMアンセムがリリースされました。

またこの時期には“コンプレクストロ(complextro)”という、ダブステップやフィジェット・ハウス、グリッチといったエレクトロハウスの要素を複合的に取り入れたEDMのサブジャンルが、Porter Robinson、Zedd、Wolfgang Gartnerらによって生み出されました。

UltraとTomorrowlandがライブストリーミングを開始したのもこの時期です。これにより、世界中のダンスミュージックファンに初めて“EDM”がトレンドとして強く認識されるようになりました。

2013〜2015年:ビッグルームの時代

2013〜2015年は、“ビッグルーム”と呼ばれるEDMフェスティバルで盛り上がる定番曲が人気を博した時代です。このジャンルはShowtek & Justin Prime「Cannonball」の大ヒットをきっかけに広がり、それ以降多くのプロデューサーがこのスタイルを取り入れるようになりました。またHardwellは、数多くのビッグルーム曲をヒットさせたことでこのトレンドの中心的なプロデューサーとして頭角を表すようになりました。

この頃にはビッグルーム人気を受けて、トランス人気も復活することになります。ビッグルームに接近したトランス曲では、W&Wによるトランスの大御所プロデューサー/DJのArmin van Buuren「This Is What It Feels Like」のリミックスがフェスティバルバンガー化したことで、このジャンルの復権に繋がりました。

2015年~2017年:フューチャーハウスとトラップが登場

2015年〜2017年には、それまでEDMシーンを牽引したビッグルームに対して、“ビッグルーム疲れ”も見られるようになったことで、これまでのトレンドとは異なる新たなスタイルが求められるようになりました。そんな時に台頭してきたのが、Oliver Heldensが打ち出した“フューチャーハウス”と呼ばれるジャンルです。ハウスに近いテイストを感じさせながらもよりグルーヴィーでインパクトのあるベースラインが特徴的なこのジャンルは、この時期のEDMシーンにおいて、新たなトレンドとして注目されるようになりました。

またこの頃にはヒップホップシーンで人気を博していたトラップがEDMシーンでも取り入れられるようになりました。そのジャンルは“フェスティバル・トラップ”とも呼ばれ、初期はビッグルームのアンセムをトラップスタイルでリミックスしたものが流行しましたが、のちにラップも取り入れるなど、ヒップホップとEDMを融合させた独自のものとして発展。Skrillex & Rick Ross「Purple Lamborghini」などは、ヒップホップやポップスにも完全に溶け込む“ポップス”として、広く親しまれる曲になりました。

その他にもこの頃にはダンスホールを取り入れたMajor Lazer & DJ Snake「Lean Onfeat. MØ」やDJ Snake「Let Me Love You ft. Justin Bieber」といった曲も大ヒットを記録しています。

2017〜2018年:ポップなEDMとベースミュージックが人気に

2017年になるとこれまで音楽シーンを席巻していたEDMフェスバブルが崩壊し、フェスの中止も相次ぐなど、フェスの運営方針もジャンルを問わないものに変化していくことになりました。また、かつてこのシーンを席巻したビッグルームは鳴りを潜めるようになる一方で、EDMのポップス化がさらに加速。EDMプロデューサーとポップシンガーのコラボによる、これまでのEDMにあった要素を抑えつつ、キャッチーなフックと歌いやすい歌詞にフォーカスしたThe Chainsmokers「Closer」やZedd & Alessia Cara「Stay」などが大ヒット曲になりました。

またこの頃にはEDMの細分化も進展。特にトラップ、ダブステップ、フューチャーベースなどベースミュージックの成長が見られたことで、EDMフェスにはそうしたジャンルに特化したステージが設けられるようになったほか、ラインナップをこの界隈のアーティストで揃えたフェスも行われるようになりました。

さらにフューチャーハウスもベースミュージックに接近し、ベースハウス(Gハウス)系のJauz、JOYRYDE、Tchami、Malaaといったプロデューサーたちの人気も高まりました。

またベースミュージックの人気が高まったことで、Marshmelloのようにポップミュージックに接近し、メインストリームへと転向するケースも見られるようになりました。

2018年〜2019年:アンダーグラウンドなダンスミュージックがEDMシーンで台頭

2018〜2019年頃にかけては、一時EDMシーンと結びついて人気が再燃したトランスの人気が一気に下降した一方、その代わりにそれまでアンダーグラウンドだったテクノやハウス、テックハウスの人気がEDMシーンで高まりました。

その少し前の時期からUltraやEDCといった有名EDMフェスでは、そういったジャンルに特化したステージが設けられており、そのこともこうしたトレンドの変化に少なからず影響を与えていると考えられています。元々がアンダーグラウンドである分、フェス向けに特化したテクノやハウスは時に“ビジネステクノ”と揶揄されることもあるものの、ダンスミュージックのトレンドとして注目も集めるようになりました。

この流れはコロナ禍の影響でEDMフェスが開催されなかった時期も継続され、今年のTomorrowlandでCharlotte De Witteがテクノ系および女性DJとしては初のヘッドライナーを務めるという結果に繋がりました。

2019年~現在:現在のEDMシーンで新たに注目を集めるフューチャーレイヴ

2010年代末にアンダーグラウンドのダンスミュージックに接近したEDMシーンですが、現在はその要素を取り入れた新たなEDMジャンル「フューチャーレイヴ」にも注目が集まっています。

フューチャーレイヴは、David Guttaが2019年頃からデンマーク出身のプロデューサー/DJのMORTENとともに提唱している新興ジャンル。トランスやプログレッシヴハウスを思わせるアグレッシブで壮大なシンセ・リードやテクノを思わせるパンチのあるキックやグルーヴィーなベースやレイヴを思わせるアンダーグラウンドな雰囲気が特徴で、ダークなプログレッシヴハウスとテクノが融合したかのような音楽性を持つジャンルです。

最近では、かつてのビッグルームの中心的プロデューサーだったHardwellもこのジャンルの重要人物と目されており、4年間の活動休止を経て出演した今年のUltraでのDJセットは、フューチャーレイヴを象徴するものとして話題になりました。またHardwellは、今年4月にフューチャーレイヴスタイルの新曲「Black Magic」もリリースしており、そちらもEDMシーン界隈で話題になったことは記憶に新しいところです。

現在、EDMは“音楽シーンの最たるトレンド”という地位をヒップホップに明け渡しており、かつてのような音楽業界における支配的なジャンルではありません。しかしジャンルとして完全に衰退したわけではなく、現在もかつての10年間と同じように新たな変化が見られるなど、シーンとしての進化を続けています。音楽クリエイターにとってまだまだ目が離せないジャンルだと言えるでしょう。

EDMの制作TIPS

最後にEDMを制作する上で参考になるTIPS動画を主なサブジャンルごとにいくつかご紹介したいと思います。

ビッグルーム

「Big Room House Legendary Trick in Fl Studio 12」では、このジャンルのレジェンドで本稿でも名前を挙げたHardwell風のビッグルームEDMの作り方を解説。初心者がつまずきがちなコード進行やメロディー作成のヒントをはじめ、曲を盛り上げるビルドアップ部分でのスネアロール、ライザー(FX)やドロップの作り方などビッグルーム系トラックの基本形の作り方を覚えるのに最適な内容になっています。

フェスティバル・トラップ

「FL Studio 12 Beginners EDM Trap Tutorial (No Extra Plugins Needed)」では、YouTubeチュートリアルも多いことでトレンドの音楽ジャンルを作りたいDTM初心者に人気のDAW、FL Studioを使ったフェスティバル・トラップの基本的な作り方が学べます。この動画ではタイトルどおり、外部プラグインを使わず、FL Studioの内蔵プラグインを使って制作を完結させているのでこれから音楽制作を始めたい人には特におすすめです。

※サムネイルが設定されていないようですが、再生できます

トランス

「How to Make TRANCE Like ANJUNABEATS (Genix, Fatum, Above & Beyond)」では、Above & BeyondやGenix風のトランスの作り方をイチから解説。1時間を超えるこの動画ではコード進行、メロディ、ベースラインといった楽曲の基本的な部分にとどまらず、サイドチェインの使い方やEQを使ったキックの加工テクニックなども紹介。さらに楽曲のアレンジ方法やオートメーションなど細かな演出部分に関する解説もあり。さらには提供元のEDM Tipsに会員登録すると無料で手に入るAbleton Live用のプロジェクトファイルも用意されているので、DTM初心者だけでなく、中級者が見ても学ぶところが多い内容になっています。

フューチャーハウス

「How to Make House Music in Ableton 10 – Step by Step!」では、フューチャーハウスのオリジネーターであるOliver Heldens風トラックの風のトランスの作り方をイチから解説。先述のトランス編と同じく1時間を超えるこの動画では、ジャンルの肝である分厚く存在感のあるベース音色の作り方やビートの打ち込みなどについて解説。また動画で紹介されるボーカルサンプルの当てはめ方の解説(31:50〜)は、サンプルパックベースでの歌モノ風トラック制作のヒントになるはずです(動画ではLoopcloudを使用)。

フューチャーレイヴ

最新のEDMジャンル・フューチャーレイヴの制作方法を解説するTips動画はすでに数多く存在しますが、細かい作り方よりもとりあえずこのジャンルの基本的なトラック構成がどうなっているか知りたいという人におすすめなのが「HOW TO DAVID GUETTA IN 3 MINUTES」です。この動画ではシンプルな打ち込みによるリードパートの作り方やベースラインの打ち込み方法、ビルドアップの作り方などが簡単に紹介されています。ちなみにこの動画の元ネタとなったのは「How to make a Future Rave ‘Titanium’ edit from scratch」という動画ですが、同動画ではDavid Guetta本人が自身のヒット曲「Titanium feat. Sia」をフューチャーレイヴにリミックスした「Titanium Future Rave Remix」の制作方法を解説しています。

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】

What Is EDM Music? Definition, History & Subgenres
https://promusicianhub.com/what-is-edm-music-definition-history-subgenres/

The Evolution of Dance Music Genres in the 2010s – EDMTunes
https://www.edmtunes.com/2019/12/evolution-dance-music-2010s/

The History and Genres of EDM [Guide] – EDM World Magazine♫♥
https://edmworldmagazine.com/the-history-and-genres-of-edm-guide/

How EDM Conquered America in the 2010s | Pitchfork
https://pitchfork.com/features/article/2010s-reverberations-of-edm-skrillex-zedd/

What Exactly Is ‘Future Rave?’ – Magnetic Magazine
https://www.magneticmag.com/2022/04/what-is-future-rave/

Hardwell showcases new sound claimed to be Future Techno in ‘Black Magic’
https://weraveyou.com/2022/05/hardwell-black-magic/

*オリジナル掲載先のSoundmainサービス終了により本サイトに移管(オリジナル公開日は2022.08.08)