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Slowthai『TYRON』収録曲「CANCELLED feat.Skepta」は、UKベースを通過したUKラップ曲だ! という話

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2月12日にリリースされた、今、UKで最も注目を集めるラッパーの1人、Slowthai(スロータイ)による2ndアルバム『TYRON』。発売した週に一周聴いて以来、仕事でバタバタしていたのでそのまま放置状態でしたが、今日ようやく2周目を聴き終わりました。

 

全英TOP10入りを果たし、マーキュリー賞にもノミネートされた2019年のデビューアルバム『Nothing Great About Britain』に続く作品だけに発売前からUKラップファンの間で注目が集まっていた本作は、当初のリリース予定日から1週間遅れるも2枚組全14曲入りでリリースされました。

TYRON

TYRON

  • slowthai
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1935

ストリーミングで聴いている分には、あまりこの"2枚組"の実感はありませんが、本国UKでは、なにやらライブのチケット付きのヴァイナルやCDも発売され、ファンアイテムとして好評を博していたようです。

www.banquetrecords.com

そして、ここで本稿の本題に。本作『TYRON』のDisc1の2曲目には、グライムシーンを代表するMCのSkepta客演の「CANCELLED feat.Skepta」が収録されているのですが、今のところ、私の中ではこの曲が本作のベストトラック(未発表曲ながらA$AP Rockyが客演するリミックスも存在する模様)。

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 というのもこれ、まず曲のイントロからいきなりSlowthai本人ではなく、Skeptaのグライムなフロウのラップが飛び出す構成で、個人的にはビートフォームは違えど、Skeptaの「That's Not Me」なんかに通じるバイヴスを感じるところがかなりクール。

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そんな感じでグライムさを醸し出しつつも曲はUKドリル寄りの暗く重い感じのものになっているのですが、注目すべきは低音の出し方。この部分が実にUKらしいというか、UKベース由来のサウンドシステムカルチャーの影響を感じるサブベースの鳴りで感服してしまいます。

このあたりはやはりグライムに影響を受け、初期はグライムMCとして捉えられていたSlowthaiらしさを感じる部分であり、何よりSkepta呼んでいるんだから、この感じしかないっしょ! みたいな気合いも感じられるところが良きです。家でデカイ音で聴いて欲しいし、無理な人はヘッドホンで聴くこと推奨です。

 

それと「CANCELLED」を聴いていて思い出したのが、2017年に渋谷Gladで行われたCRZKNY『MERIDIAN』リリパでの仙人掌とCampanellaのライブ。この時、会場にはVoidのサウンドシステムが持ち込まれ、とにかく低音無限地獄的な環境が用意されていたのですが、その時にオーガナイザーでGoodwetherのイシイエリさんが言っていたのが"サウンドシステムで聴くヒップホップ"なるもの。

これはグライムなどUKベースカルチャーに精通したイシイエリさんだからこそのこだわりであり、今ののようなグライムとUKヒップホップが混ざり合うUKラップの世界線の到来を予期してのものだったのかなと自分なんかは今にしてようやく理解できたような気がします。(おそらく自分以上にUKベース界隈を見てきたエリさんの中ではすでにその時点でサウンドシステムとヒップホップという構造が成り立っていたからこそだとは思いますが)。

その意味では、今回の「CANCELLED」は、まさにUKベースを通過したUKラップ曲と言えるでしょう。ただ、この感覚は先述のような"サウンドシステムで聴くヒップホップ"を通過してないとちょっとわかりにくいかもなーとも思いました。あと、Travis Scottの「Sicko Mode」ばりに曲の途中でビートフォームが切り替わるところも聴いていてアガるポイントです(Netflixドキュメンタリー『トラヴィス・スコット: Look Mom I Can Fly』

 で見た「Sicko Mode」のビートチェンジ部分で爆アガりしていたTravis Scottの姿をイメージしてください)。

 

 

「CANCELLED」は、現在MVのほかに米TV番組「The Tonight Show Starring Jimmy Fallon」でのライブパフォーマンス動画も公開されています。また、リリックではキャンセルカルチャーやグラストンベリー、Slowthaiのアイコニックなスタイルであるボクサーパンツに対するこだわり、タイのタイのアクション映画『マッハ!!!!!!!!』、サッカー選手のジエゴ・ダ・シウヴァ・コスタ、それにかけたUKのコーヒーチェーン店のCosta(昨年末までなぜか東京・銀座で期間限定営業)のことなどがスピットされています。

youtu.be

なお、本作にはほかにもSlowthaiの盟友Denzel Curryをはじめ、A$AP Rocky、Dominic FikeのようなUSの人気ラッパー/アーティストが参加しているほか、今やヒップホップ界隈の引き合いも多いJames BlakeとMount Kimbieというかつてのポストダブステップヒーローたちがタッグを組んで参加しているところもUKベースファンとしては、UKベースを通過したUKラップを感じる部分です。

youtu.be

 

個人的には3月に延期されたグラミー賞で、Slowthaiも客演している「ダンスレコーディング」部門ノミネート曲Disclosure「My High」が最優秀「ダンスレコーディング」を獲得すれば、のちのブリットアウォードやマーキュリー賞獲得への大きな弾みになるのかなーなんて思います。

youtu.be

昨今のUKの賞レースの結果を見るにグライムやUKヒップホップは優秀な成績を収めている状況なので、せめて、こんなにもUKの伝統を引き継いだ「CANCELLED」くらいは、なんからの賞を本国で獲得してほしい。やや興奮気味にそう思わずにいられない私がここにいます。

毎度のごとく勢いで書いているのでやや粗い部分はご容赦ください。かしこ。

追記:
実は本稿では、Slowthai『TYRON』収録曲の「push (feat. Deb Never)」にも触れていたのですが、それを加えると記事のボリュームが大幅増になるため、そちらはこぼれ話として自分のnoteで公開しました。

また、Slowthaiについては、先日ゲスト出演させていただいたJ-WAVE(81.3fm) SONAR MUSIC 『新世代UKヒップホップ特集』でも話させていただき、その時のこぼれ話を記事化したものがこちらです。あわせて読んでもらえたらうれしいです。

 

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Reference:
https://www.universal-music.co.jp/slowthai/biography/
https://genius.com/Slowthai-and-skepta-cancelled-lyrics