タイトルを「嘘のないアンダーグラウンド」か「嘘じゃないアンダーグラウンド」のどちらにしようか悩んでいたのですが、後者を選択することにしました。
先日、アルバムのレビューを本サイトで公開したCRZKNYのアルバム「MERIDIAN」。
大傑作と呼び声高いこのアルバムのリリースパーティー東京場所が5/2に渋谷・Gladにて行われたので私も遊びに行ってきましたが、このアルバムの注目の高さもあって、当日は、おそらく午前1時くらいにクラブの前についたのですが、そこでは入場待ちの長蛇の列が出来ていました。
この日のイベントでは、特別にVoidのサウンドシステムが組まれ、CRZKNYの音楽が発するいかつい低音に対する準備が万端となっていたのはすでに告知などで知っていましたが、これが他の出演者の音にも見事はまっていたと思います。V.O.Cクルー、OMSBのDJプレイは言わずもがなですが、仙人掌のライブ、Campanellaでも、良い低音の鳴りを感じながら、ラッパーのリリックをしっかりと聴き取れることができるというのは非常に良い体験をさせてもらったという感じです。
イベント的にもその後のHave a Nice Day!のライブで、会場はかなりカオスな盛り上がりを見せていましたが、今回のリリースパーティーのラインナップの人選は、私が感じた「MERIDIAN」の世界観、つまりお洒落だけどスカム、スカムなんだけどお洒落という印象に完全に合致するものだったと思います。この辺りはオーガナイザーのGoodwetherイシイエリさんのセレクトセンスというか審美眼の力が大きく、「かっこいいアンダーグラウンド」という概念の見本を改めて見せて頂けたような気がしました。
最近、ダンスミュージック問わず音楽のライブイベントではそのユーザー体験が重要とされることがよく取り沙汰されます。よくよく考えれば、まあ当たり前のことなのですが、オンラインでのライブ配信や音楽の定額ストリーミングなど便利なものも沢山あり、こういった現場に行かずとも音楽は楽しむことができる世の中です。しかしながらそういった背景もあり、昨今では大規模フェスでの特別な体験をできる仕掛け、例えば、施設の充実もそうですし、ステージ演出、テクノロジー満載のショー的要素が強いライブセットは以前より注目されていますし、最近の特別に「特別な体験」を生み出すための欠かせない手段となっています。
数万人規模のイベントを成功させ、継続していくためにはやはりそれは必要不可欠で、それだからこそ表現できる世界観を集まった観客に提供できることは確かに重要なことだと思います。しかし、この日は手持ちの武器はサウンドシステムと出演者の音楽の力がモノを言う”嘘じゃない”アンダーグラウンドな世界が展開されており、私はじめ、参加した観客はそれをしっかりと体験できたのではないでしょうか?
そんなイベントの真打ちCRZKNYは、朝5時頃にステージにその姿を現しました。Voidのサウンドシステムさえ一時オーバーロードさせる極悪で容赦ない低音は、確実にそれが全身を駆け巡っていくような感覚をその時フロアにいた観客に与えたはずだし、アルバムに寄せられたコメントのうちのいくつかのとおり、死、破壊、狂気、凶器というイメージがサウンドシステムを通して表現されていたと思います。
crzkny @CRZKNY_JP の低音マジ魔物。かっこいい。そしてリズムが秀逸で踊れるのです。 pic.twitter.com/5ZDq3vJZWj
— Lady Citizen aka J.F (@LadyCitizen69) 2017年5月2日
ただ、CRZKNYのライブが秀逸だったのは、狂った低音を放射しまくっただけでなく、しっかりとダンスミュージックとして機能するリズム、ビートが存在していたからだと思います。これは、トラックメイカーとしての彼のスキルの高さの裏付けで、私の中では低音が破壊、死のイメージをもたらすものであるとすれば、リズムとビートは再生、生のイメージを表現するものでした。
また、ライブを体験後の全身の精気を吸い取られた後みたいな状態になった時に「つまりこういうことだったのか」とアルバムのキャッチコピー「踊るか、叩き割るか、燃やせ。」の真の意味に気がつきました。
アルバム、ライブを通して私が感じたのはやはり退廃です。アルバムの時点でのイメージが2Dでのあの人とあの人の情事なら、ライブは3Dでそれを見させられている感じです。この強烈すぎる「悪の華」みたいな言葉の表現力と同等の力を「MERIDIAN」という言葉は持っているということを改めて認識することができました。
対価を払って、気合をいれてナイトクラビングに繰り出す。
というアルバムに提供させて頂いたコメントどおりの”体験”を提供してくれた「今年ベストな作品に相応しいベストな夜」というのが、今回のイベントに対する私の感想です。
間違いなく「嘘じゃないアンダーグラウンド」は、あの日そこにありました。