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「音楽クリエイターのための総合代理店であり、コミュニティでありたい」――設立10周年を迎えたPlugin Boutiqueにインタビュー

音楽クリエイターであれば、プロ・アマ問わず、一度は利用したことがあるであろうプラグインの総合代理店サイト「Plugin Boutique」。

2012年にローンチされたPlugin Boutiqueでは、これまでに数多くのプラグインをはじめ、ソフトシンセ用のプリセット、チュートリアルなど、音楽制作に関わるさまざまな製品を取り扱ってきました。

Plugin Boutique トップページ
https://www.pluginboutique.com/

そんな同サイトが今年2月で設立10周年を迎えるにあたり、今回SoundmainではPlugin Boutiqueの広報部、ジョシュア・キャスパーさんにインタビュー。この10年の間に起きたプラグインの進化や最近のトレンドのほか、近年音楽クリエイターとの距離を縮めるAIによる楽曲制作支援ツールやサンプルパックとの向き合い方やサービスとしての強みまでお話を伺いました。

Plugin Boutiqueが見つめる、この10年でのプラグインの進化

ーーPlugin Boutiqueは今年で設立10年周年を迎えますが、この10年でプラグインはどう進化してきたと思いますか?

10年前となると基本的にプログラミングを自分でしないと、曲にエフェクトをかけることすら困難だったと思います。それを踏まえて考えると現在、販売されているプラグインはクリエイティビティを重視したものが多くなってきましたね。そういったややこしいことをなるべくユーザーがやらなくて済むようなプラグインがこの10年でたくさん出てきた印象があります。

また、最近で言えばAI技術を活用したプラグインが出てきたことで、以前よりもミュージシャンが曲を作ることによりフォーカスできるようになったと思います。

“AIを使ったプラグイン”と言うと、もしかしたら10年前から音楽制作をしているような人たちからすると、ちょっと面白くないかもしれません。でも、今の人たちからするとそういったプラグインの方が都合がいいし、より世の中に音楽が増えるきっかけになっていると思います。

ーー現在はソニーCSLが開発する「Flow Machines」のようなAI作曲支援アプリがありますが、そういったAIを使ったアプリやツールについて、ジョシュアさん個人としてはどのような捉え方をされていますか?

 

あくまで個人的な意見ですが、AI技術を活用することに関しては大賛成ですし、むしろ大好きですね。AIを使ってできた音楽と言っても別に全てAIが作曲しているわけではありません。結果的にある程度の手伝いをしてくれるとはいえ、そこから曲をどう構築していくかに関しては、まだまだユーザー次第なところがありますよね。確かにオーケストラの音源を自動生成するようなプラグインは素晴らしいと思います。でも、結局はまだそれに自分たちが手を加える必要があります。

今は誰でも音楽配信プラットフォームに自分の音楽を配信することができますが、実はそこにもAI技術が使われていることで自分が好きな曲を提示してもらえたりするわけだから、個人的には自分が好きな音楽を見つけてもらえることとそう変わりないと思います。その意味でAIを使った音楽制作は、良い音楽をAIが見つけてくれることにも繋がっていくと言えます。

それと最終的に自分が音楽を聴くかどうかの最終的な判断基準になるのは、良いプラグインを使っているかやAIを使っているかどうかではなくその曲が良いか悪いかだけです。そう考えるとAI技術は、結果的にたくさんの音楽が生まれるきっかけになっていますし、その人の好みに合った良い音楽をちゃんと届けてくれることにも役立っていると思います。

一応、Plugin Boutiqueにも「Scaler 2というAI技術を活用した作曲支援のための自動音楽生成ソフトがありますが、これも同様にフレーズの自動生成はしてくれつつ、そこで生成されたMIDIデータにどんな音色をアサインするかは、あくまでユーザーの手に委ねられています。そういう風に考えているので、個人的にはAIを使ったツールに関しては概ね友好的に捉えています。

ーーでは、AI作曲やそのツールがある程度普及しても、まだまだ生身の音楽クリエイターがクリエイティビティを発揮する余地があるということでしょうか?

そうですね。AIを使ったソフトは今、大きく分けて2つに分類することができると思います。ひとつはミキシングやマスタリングのための支援ソフト、もうひとつがメロディやコードを生成するための支援ソフトです。ただ、どちらも先ほどお話したことと同じで、結果的にそれを使ってできた音楽が良い音楽であればいいのであって、仮に何かのアルゴリズムがその音楽を制作したとしてもそれを理由に拒否するようなことはあまりしてほしくないですね。

もしかしたらそのうち、ノブをキューするだけでAIが完パケ音源を作る時代が来るのかもしれません。でも少なくとも現時点では、音楽を作るために生身の音楽クリエイターの手が必要ですし、彼らがクリエイティビティを発揮する余地はまだ残されていると思います。

音の流行り廃りは巡り、古い音のシミュレートが新しくなる

ーー少し前だとXfer Recordsのウェーブテーブルシンセ「SERUM」が人気だったと思いますが、最近はどんなソフトシンセが人気なのでしょうか?

確かにSERUMだったり、その少し前であればNative Instrumentsの「Massive」のような“これひとつあれば何でもできるから間違いない”というようなソフトシンセが人気だったと思います。ただ、最近は逆に特定のことしかできないようなソフトシンセが増えてきた印象がありますね。そういった傾向が今後はさらに強まっていくように思います。

例えば、Arturiaがヴィンテージのハードシンセ「Juno-6」をエミュレートしたクオリティの高いソフトシンセ「Jun-6 V」をリリースしていますが、最近はそういった古いシンセの音を使いたい人が増えてきている分、他にも同じようなソフトシンセをリリースするブランドが増えています。

ーーそのような傾向がなぜ見られるようになったのでしょうか?

音楽にはやっぱりトレンドがあって、その流行り廃りも当然ありますよね。でも、そのトレンドが復活すると音楽クリエイターはそのジャンルの音楽をまた勉強しなおす必要があるし、そうしていると当然、そのジャンルで使われているような音を使いたくなります。

ただ、そうなった時にヴィンテージのハードシンセを買いたくても手軽に買えるかと言えば、そうではありません。だからこそ、Arturiaなどはソフトシンセとして、そういう音を使いたい人に向けてエミュレートしたソフトシンセを提供しているんです。

それと例えば、昔流行ったディスコはジャンル自体が残っていますし、今でもそういう音楽を作る人たちもいれば、聴く人もいます。その意味ではそういったソフトシンセはある種、そういう人たちのために存在していると言えますし、ものすごく存在意義があると思いますね。

あとは使いやすさという点もエミュレートシンセの利点のひとつです。例えば海外にツアーに行く時にハードシンセを持っていくのは大変ですし、仮に持っていくとしてもお金がかかってしまいますよね。また、ハード機材の場合は、壊れてしまったら修理する必要もあります。その点、すごくクオリティの高いエミュレート・ソフトシンセは、壊れることもなければ持ち運びも自由です。

そのことを考えると、今後はこういったヴィンテージシンセをエミュレートしたものがソフトシンセとして、復活するケースが今以上に増えていくような気がします。

ーー今後、どんなプラグインに注目が集まっていくと思いますか?

やはりAI技術によるマシンラーニング機能が搭載されたプラグインが注目を集めるようになっていくと思います。例えば、今でもミキシングやマスタリング系のプラグインではiZotopeが人気ですし、楽曲制作ということであれば、先ほどお話させていただいた弊社のScaler 2も最近は人気が出てきました。今後は他にもそういったプラグインがどんどんリリースされていくような気がしますね。

それと去年Expressive EとAAS(Applied Acoustics Systems)というメーカーが共同開発し「Imagine」というアコースティックサウンドのエミュレーションプラグインをリリースしました。このプラグインは、要は「アコースティックっぽい」音というだけであって、決してアコースティックのサウンドではないのですが、そこが逆にすごく未来的なプラグインだと思っています。

そういった音をデジタル間で調整したりエフェクトをかけたりできるということは、新しい音と出会えるという意味ではすごく先進的なことをやっていると思います。こういった新しいサウンドテクノロジーを受け入れつつ進化していくのも面白いんじゃないかと思いますし、もしかしたら今後はこういったプラグインも増えてくるかもしれません。

Plugin Boutiqueの「使いやすさ」への取り組み

ーー現在、多くのメーカーがユーザーに直接販売できるオンラインショップを持つ中で、様々なメーカーのプラグインを取り扱うPlugin Boutiqueの強みはどこにあるのでしょうか?

やはり弊社の強みは基本的に音楽制作に必要な全てのものが一箇所で購入できる総合代理店というところにあります。確かに今では多くのメーカーが自社ECサイトでもプラグインを販売していますが、お客様からするとそれぞれのECサイトに行って購入するのはやはり面倒だと思います。そういった手間が省けるというのは弊社の強みのひとつかと。

加えて、弊社では毎月購入者への無料プラグイン配布や購入するたびに弊社での買い物で使えるバーチャルキャッシュポイントを貯めることもできます。また、弊社限定のセール価格製品も毎月大量に用意しています。そういった面での使いやすさやサイト設計のユーザビリティも常に考えています。

それとご存知ないかもしれませんが、弊社では日本語サポートにも対応しているので、英語が苦手だという方も日本語で問い合わせいただけますし、日本語での返信も行っています。そういう意味でも日本のお客様に安心してご利用いただけるので、ぜひ、弊社をご利用ください。

ーー確かに取り扱われている製品が多い分、探しているものも見つかりやすいイメージがありますね。

そうですね。マーケットプレイスである弊社サイトは多数の製品を取り揃えているので、他で見つけられなかったものがパッと見つかる場所でもあります。また弊社では、有名メーカーに限らず、小規模でも良質な製品を作るメーカーであれば取り扱わせていただいていますが、これは企業理念にユーザーにとっての”コミュニティ”であることを掲げているからこそです。

ーーユーザーは目的ごとにプラグインを購入しますが、世の中に多くのプラグインが存在する中で失敗しない購入のコツはありますか?

難しい質問ですが基本的にはYouTubeでチェックすることをおすすめします。まずはとにかくYouTubeで探しているプラグインの名前を入れるなり、種類なりを入れて検索するなどしながら、自分自身で勉強してから購入するのが一番良い方法だと思います。

ちなみにYouTubeには弊社の公式チャンネルもありますし、そこではチュートリアルなども公開しています。もちろんそこに寄せられるコメントはスタッフが全てチェックしているので、もし質問があるようでしたら怖がらずにコメントしてください。また、YouTubeだけでなく他のSNSも同様に全ての質問に答えるスタンスなので質問していただけたら何でもお答えしますよ。

Plugin Boutique(音声:英語) YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/PluginBoutiqueOfficial

Plugin Boutique Japan(音声:日本語) YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCIFATowxApEQ-QLIC9-HMRA

ーープラグインだけでなく様々な動画チュートリアルコースの販売も行っていますが、その中で特に音楽制作初心者におすすめのコースはありますか?

弊社では、「Producertech」という音楽制作者向けにチュートリアル動画を提供する会社のコンテンツも取り扱っています。そこの「Complete Beginners Guide to Music Production」という初心者向けコースがおすすめですが、それと同じくらい、YouTubeで自分でいろいろ検索しながら勉強していくこともおすすめしたいですね。

もちろんチュートリアルコース通りに進めていけば、この曲ができますというものもありますし、そういったところから始めるのも悪くないと思います。ただ、結局一番大切なことは作曲するということなので、怖がらずにとにかくボタンを押してみる。そういうところから始めてみて、作っている間に正しい質問を自分で見つけることが大事だと思います。

音楽制作しやすくなった時代への視点と、今後の展望

ーー姉妹企業のLoopmastersによるサンプルサービス「Loopcloud」もありますが、近年はソフトシンセだけでなく、ロイヤリティフリーのサンプルパックを使うアーティストも増えています。また、そこから生まれるヒット曲も増えてきましたが、現在のプロデューサーにとって、サンプルはどのような存在だと捉えていますか?

▼Loopcloud 公式サイト

これは少しAIの話とも共通することですが、実は私も以前、音楽制作をしていた時には他人のサンプルループを使うことには少し抵抗がありました。ただ、今はそういう考え方をする人はほぼいなくなりましたし、実際に音楽制作する上では必要がない感情だと思いますね。

AI技術を使ったプラグインと一緒で、サンプルはあくまで素材であって、工具箱にある工具のようなものなんです。つまり、それを使って音楽を作るだけの一種のツールでしかありません。中にはそういったものを使うことをズルいと考える人がいますが、そういう少数派の意見はあまり気にせずに使ってみてほしいです。

それとLoopcloudには400万種類以上のサンプルがあるので、それを使ったところで誰かと被ることはそうそうないし、その組み合わせのことまで考えるとほぼ自分の音楽として使えると思います。あと自分が必要とする音が見つかる場所でもあるのでそういう意味でも使っていただけたら嬉しいです。

また、例えばTikTokに動画をアップする場合でも誰かの音楽を使うよりも自分のオリジナル音楽をアップしてマネタイズできる方が良いと思います。Loopcloudを使えば、30秒くらいの曲であれば10分あれば作れますので、そういった形でもぜひ使っていただけたらと。

ーー近年はTikTokのほかにタイプビートなど新しい音楽カルチャーやプラットフォームの登場により、ベッドルームプロデューサーでも以前よりキャリアを成功させる道筋が増えました。プロだけでなく、ベッドルームプロデューサーも顧客に抱えておられますが、このような傾向をどう捉えていますか?

SNSで何がバズるかに関しては、正直よくわからないところがありますよね? でも、例えば、以前SickickというアーティストはMadonnaの「Frozen」のブートレグリミックスを制作してSNSに公開したところバズになり、それを見つけたMadonna本人から正式にリリースのオファーが届くということがありました。

ここで大事なのはアーティストがそれに対して拒絶反応を起こしたり、シャットアウトしてしまうようなことではありません。発表したものをそのままの状態にしておくことで結果的にみんなが恩恵を受けられる形を作ることがやっぱり大事だと思います。その意味で弊社やプラグインを制作するメーカーもそういったクリエイティブが自由に行えることによって、より多くの人にチャンスが生まれるという姿勢でいるべきだと考えています。おそらくSickickも弊社でプラグインを購入していると思いますし、我々のような立場であれば、それを許容した上での広がりを見せていくことも大事かと(笑)。

ーー最後に今後のPlugin Boutiqueの展望を教えてください。

これまでどおり、信頼されるマーケットプレイスとしてもコミュニティとしても、さらに発展していくことは当然として、今年はこれまで以上にPlugin Boutique独自のプラグインも開発していく予定です。

それとやはりこれだけの数のプラグインを扱っている会社なので、我々としてもユーザーが何を求めていて、何に価値があると感じているかについては、理解しているつもりです。そういった必要性や価値ある、皆さんが満足できるプラグインをこれからもっと開発したり販売していきたいと思っていますのでぜひ、弊社のニュースレターにご登録ください。

また、最近はYouTubeでプラグインのメーカー側とのライブトークを配信しています(編註:アーカイブがない場合も多いので、配信情報については公式Twitterをご確認ください)。こちらは実際にそのプラグインがどうやって開発されたかなどその背景に迫る濃い内容で人気の動画コンテンツなので、そちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

 

取材・文:Jun Fukunaga
取材協力:Kihiro

*オリジナル掲載先のSoundmainサービス終了により本サイトに移管(オリジナル公開日は2022.02.14)