先日よりリリースが告知されていたKanye West(カニエ・ウェスト)の最新アルバム『God’s Country』の先行曲「Wash Us In the Blood」が、なんと予告されていたどおりの日時に無事リリース。リリース遅延の常習者のKanyeだけにこのまさかの展開に少々面食らっている私がここにいます(笑)。
Kanye West新曲「Wash Us In the Blood」が予定どおりリリースされる
その新曲「Wash Us In the Blood」、開けてびっくり。なんと客演にTravis Scott(トラヴィス・スコット)が参加しただけでなく、ミキシングはDr. Dre(ドクター・ドレー)御大が担当。ちょっと前にKanyeとDr. Dreのコラボに関する噂が報道されていましたが、まさかこのタイミングで作品として発表されるとは…。いやはや驚きですね。
WASH US IN THE BLOOD FEATURING TRAVIS SCOTT
— ye (@kanyewest) 2020年6月30日
DIRECTED BY ARTHUR JAFA
MIXED BY DR. DRE
VIDEO PREMIERING NOWhttps://t.co/0Gaz0gQJsM pic.twitter.com/p40oonv14Z
そんな「Wash Us In the Blood」、もうひとつ、Kanyeが予告していたとおり、映像作家のArthur Jafa(アーサー・ジャファ)が手がけたMVも無事公開されました。こちらはBlack Lives Matter関連と思われるフッテージが使われており、故George Floyd(ジョージ・フロイド)への不当な警察による暴力時に彼が口にした”息ができない”を連想させるような映像も見受けられます。また殴り合う黒人や血まみれの黒人の映像なども取り入れた過激なシーンも見受けられますが、終盤にはKanyeでおなじみサンデーサービスのシーンやその場にいる彼の娘?と思われる少女が映し出される内容になっています。
私はこれまでKanyeのトラックのうち、すごくカッコいいなと思うものは正直なところ、あまりなかったのですが、今回はまずトラックがカッコいい。特にアフリカンミュージックを思わせるトライバルなビートとルーピーなリフの組み合わせが良いなと思っていて、そこは非ヒップホップファンが聴いてもトラック的にかっこいいと感じるポイントなんじゃないかなと。
キリストの血を浴びて罪を清める
ですので、普段はそこまで気にしないリリックとそれに関するトリビアが気になったので、Geniusにアクセスしてみたところ、リリースされて間もないにも関わらず、毎度おなじみのリリック解説職人の方々が興味深い解説を投稿していました。
リリックの特徴としてまず挙げられるのは、以前のJesus Is King以降のKanyeのキリスト教信仰がまずトピックのひとつとして取り入れらており、新約聖書の『ペトロの手紙』や『ヨハネの黙示録』からインスパイアされた部分が含まれるようです。
そのため曲名の「Wash Us In the Blood」はイエス・キリストの血を浴びることで人間の罪が清められるというキリスト教的なものになっており、1stバースにある”雨”のくだりは”天から救いの雨が降ってくるというイメージであり、ここは旧約聖書のイザヤ書45章8節にも見られる表現だそうな…。
同曲でKanyeは、麻薬の売人や「チンピラ」のような生活をしている人ような様々な状況の人々に対し、その罪を清めるためにキリストの血が降ってくることを求めるのですが、ここは彼の故郷であるシカゴが関係しているとの解説がありました。
それによるとシカゴがあるイリノイ州ではフェンタニルとアヘン関連の死亡事件が2010年代増加しており、それにはシカゴがメキシコから国境を越えて密輸される麻薬のアメリカにおける流通ルートの出発点になっていることが関係しているとのこと。
またシカゴの治安の悪化にはギャングの活動も影響与えており、同市の殺人率が10万人あたり約20人であることに対し、同市の黒人市民の殺人率は10万人あたり47人となっているほか、市内の殺人率自体が上昇傾向にあり、2020年3月16日の時点で、すでに2020年の殺人件数が2019年における同市の全件数を上回っているなど治安悪化が目立つようです。
これらの治安悪化問題に関しては、黒人が生活のためにドラッグディーラーになるしかない現実的な貧困問題、それに伴う暴力、そして貧困を生む制度的差別も関係しており、そういった状況について、Kanyeはデビューアルバム『The College Dropout』以来、継続的に問題提起としてリリックにすることで訴えています。
内容的には今のBlack Lives Matterに絡めながら、黒人差別問題をトピックにしつつ、MVにもその要素をもたせた「Wash Us In the Blood」。この曲では雨=イエス・キリストの血として、今の混沌とした状況をそれを浴びること、つまり信仰によって清めるという非常に宗教的な要素が強いものになっているように感じました。
死刑制度、双極性障害、フェイクニュース問題などもリリックのトピックに
そのほかにもTravis Scottとの2ndバースではアメリカの死刑制度にも触れているほか、かねてから言われているKanyeの双極性障害やBlack Lives Matterに対するアメリカの報道機関による報道のあり方やSNSで蔓延するフェイクニュースに対する批判など今の時事に関連するトピックが散りばめられた内容になっています。
それにしてもリリース後、間もないのに聖書関連のことまで調べて解説してくれるGeniusのリリック解説職人には毎度のことながら頭があがりませんね。今後もさらに解説は増えていきそうですし、先述のような時事的なトピックも目立つ曲だけに、私としても日本のヒップホップ識者の方による詳しい解説の公開が楽しみな1曲となりました。
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Top Image via Kanye West
Reference:
https://genius.com/20231330