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グラストンベリーフェス2019の裏MVP、会場を沸かせた素人少年Alex Mannの話

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事実は小説より奇なり…。そんな風に思える話が、イギリスを代表するフェスのグラストンベリーフェスで起こりましたね。という話です。

 

今年のグラストンベリーフェスを最も盛り上げたのは飛びりした素人少年ラッパー

今年のグラストンベリーのハイライトをあげるとすれば、イギリス黒人ラッパー(グライムMC)としては初のヘッドライナーの一角を務めたStormzy(ストームジー)が、これまでのシーンを牽引してきたラッパー、グライムMCの名前を65名分シャウトアウトするシーンや、

Kylie Minogue(カイリー・ミノーグ)による彼女の支持層であるLGBTQコミュニティをエンパワメントするかのような多幸感のあるパフォーマンス、

はたまたMiley Cyrus(マイリー・サイラス)が今や盟友とも言えるLil Nas X(リル・ナズ・X)、父親のBilly Ray Cyrus(ビリー・レイ・サイラス)を迎えてのかの大ヒット曲「Old Town Road」披露などなど、

例を挙げだすとキリがないくらいなのですが、今、イギリスでは、それらをしのぐ裏MVP、いや、イギリスメディアのMetroにいわせるともはやベストパフォーマンスとして話題になっているのが、Alex Mannという観客の1人がステージ上で見せた飛び入りパフォーマンスです。

 

UKラッパーのDaveが戯れに招き入れたのがことの始まり

これは、UKラッパーのDave(デイヴ)aka Santan Daveがステージ上で観客だったAlex Mannを呼び寄せて、彼とグライムMCのAJ Traceyとのコラボ曲「Thiago Silva」をパフォーマンスするというサプライズ企画を行なったところ、そのAlex Mannが予想に反して、大観衆が見守る中、多大なるプレッシャーをはねのけて、ブチかましてしまうというものでした。

次世代のUKヒップホップシーンを担う存在でDrakeも認めるDave

USのヒップホップシーンと違い、UKヒップホップシーンは、あまり日本では知られていないため、Daveについて知らない人も多いことかと思います。というか、私も正直、J Hus(J・ハス)とのコラボ曲「Smantha」でちょっと名前を知っていたくらいだったため、この機会に彼について調べてみました。

その結果、わかったことはDaveは、サウスロンドン出身で2015年ごろから活動を本格化させ、イギリスの「SBTV」などにも出演。2016年には先述の「Thiago Silva」をリリースしたり、イギリスの人気フェスのひとつ、Bestivalに出演。Red Bull Music Academy UKツアーにも参加していたりと順調にキャリアを伸ばしてきたようです。

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当時17歳だった2016年にはセルフリリースでデビューEPとなる『Six Paths』をリリース。またこの年には「Wanna Know」という曲がDrake(ドレイク)によってリミックスされ、彼の”More Life”プロジェクトの一環として「OVO Sound Radio」でプレミア公開されたとのこと。(しかしながら『More Life』本編には収録されず)

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法律、哲学、論理などを学ぶインテリジェンスなラッパー

2017年にはEPの『Game Over』をリリース。彼は現在、レスターのデ・モントフォート大学にも席をおいており、法律を勉強中。その前段階にあたるカレッジ時代から(イギリスなのでアメリカでいうカレッジつまり大学=Universityとは違うやつです)法律、哲学、論理、サウンドデザインを勉強していたというインテリラッパー。そういったバックグラウンドを持っているため、彼のリリックは社会問題を取り上げるものが多く、いわゆるコンシャスな”社会派"ラッパーです。

そのことは例えばBrexit(ブレクジット)や2017年のグレンフェル・タワー火災、アフリカ、中近東問題について言及する『Game Over』収録曲「Question Time」などから垣間見れます(このあたりは同世代のリーン、ザナックス礼讃カルチャーのSoundCloud Rap界隈ラッパーたちとは大きく違うところなのかなと)。

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デビューアルバムがStormzyの『Gang Signs & Prayer』越え

賞レースではMOBO Awardsのベストニューカマー、アイヴァー・ノヴェロ賞(The Ivor Novello Awards)を受賞するなど実績も積んでおり、今年3月にはデビューアルバムとなる『Psychodrama』をリリース。同作はUKチャート初登場1位を記録するほどの大ヒット作となり、すでにゴールドディスク認定済み。初週のストリーミング再生数に至っては、UKラップアルバム史上、もっとも再生されたアルバムになっているそうで、これはStormzyのブリットアワード受賞アルバム『Gang Signs & Prayer』すら凌ぐとのことです。

ちなみにDave自体もグラストンベリー出演は今年が初ですが、そのことを考えると2019年度のブリットアワードもそうだし、来年のグラストンベリーでも下手したらセカンドヘッドライナークラスまでいくんじゃね? と勝手に妄想が膨らみます。

UKラップ、グライム、ヒップホップに興味を最近持ち出した人はもちろんのこと、イギリス勢とつながりが強いDrake、A$AP ROCKY(エイサップ・ロッキー)あたりが好きな人は今のうちにチェックしておくべきアップカミングなラッパーなのかなと思います。

 

「Thiago Silva」とはどんな曲なのか?

このようにDave、さらっと調べただけでもかなりすごいアーティストなわけで(そもそもすごくないアーティストがグラストンベリーのステージに立てるわけがないわけで)。そんな彼が、ステージで「Thiago Silva」をラップできるオーディエンスいるか? と呼びかけ、それに熱烈アピールをぶちかましたのが、先述のAlex Mannなのです。

ちなみに「Thiago Silva」とは、ブラジル代表、そして、欧州フットボールクラブの名門、パリ・サンジェルマンで活躍するフットボールプレイヤー、チアゴ・シウバのことです。リリックを調べてみると、それ以外にNike、イギリスのファミレス、Nando’s(ちょっと前にレストラン内にミュージシャンのためのスタジオを作ったことで日本でも話題になりました)、さらには日本の漫画、アニメで世界的な人気を誇る『Naruto』の登場人物のトビ、ほかには日本でも大ヒットしたPsyの江南スタイルなどがトピックとして使用されていることがわかりました。(フットボールプレイヤーだと元ブラジル代表のカカも登場)

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  トラックのサンプリングネタをWho Sampledで調べてみたところ、元ネタはグライムクラシックのRuff Sqwad「Pied Piper」。このネタチョイスがUKアーバンミュージック感あって良きポイントです。

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で、ですよ。飛び入り当日、Alex Mannは当日の装いは、チアゴ・シウバの背番号&ネーム入りのパリ・サンジェルマンのユニフォームを着用しており、それを選んだDaveはファインプレーだったなぁと思うわけですが、結果的に、Alex Mannはリリックを暗記するほどのDaveのコアなファンだったそうで見事、ステージでのパフォーマンスを成功させます。

その結果、全英が大絶賛。彼のSNSのフォロワー数は爆増。またチアゴ・シウバもSNSで彼のパフォーマンスを賞賛するなど様々な奇跡が起こります。

ただ、あまりにも奇跡すぎるため、感動的な反面、少なからず日本のテレビ番組ニンゲン観察バラエティ『モニタリング』のドッキリ企画みたいだなぁ〜と思ってしまったこともあったわけで。というか、これを観た人の中には仕込みかと疑う人も絶対にいるはず。

 

BBC、ガーディアン誌がAlex Mannに当日のパフォーマンスについてインタビュー

その観点でみれば、BBCも”too good to be true”、日本語に訳すと”出来すぎた話”という表現を使ってインタビュー動画を公開していることを考えると「イギリスっぽくシニカルかつコミカルに表現しているなぁ」と、私なんかはいじわるく思ってしまうのですが、残念ながらそのインタビュー動画は日本ではみられず。しかしながら、ガーディアン誌もグラストンベリー終わりの今週月曜にAlexx Mannに対してインタビュー取材を行なっており、そちらで彼はチアゴ・シウバのファンで彼から電話番号を教えてもらったものの、何を話していいかわからないということ、当日のステージに上がる前の心境などを語っています。

www.theguardian.com

ちなみにこのAlex Mannは15歳で人口わずか1万人ほど、イングランド最小人口の街、ウェルズ出身だそう。日本に置き換えてみれば、田舎からフジロックに遊びに行って、いきなりステージでパフォーマンスするということをイメージしていただけたらこれがいかにすごいことなのかご理解いただけるはずです。

たとえ、仮に仕込みだったとしても…

だから、もう仮に仕込みだとしても私的には正直あまり気にしないし、そもそもBBCがいうとおり、これは”出来すぎた話”。マジでイギリスの青春映画のラストシーン的なところがあるので、もう映像化してくれよと言いたいレベルです。そして、仕込みだったとしても、最後に「騙されたって気持ちになったことはあるかい?」というUK音楽史に残るあのJohnny Rotten(ジョニー・ロットン)の名台詞を口にしてくれたら、もう無罪放免でいいし、”そして、伝説へ”状態になると思うので、むしろそういうエンディングでも良いのじゃないかなとさえ思ってしまいます。

言いたいのはこの事件はそれくらいファンタジーめいた出来事だったということですかね。故に今、各所で話題になっているというわけなのです。だから、仕込みかどうかを暴くのは野暮な話なのかなとも。(先述のDaveのコンシャスなキャラクターを考えるとそんなことはなさそうな気がしますが...)

 

BBC Musicがパフォーマンスを公式映像としてアーカイヴ

またそのファンタジーには続きがあり、当日だけで終わらず。なんと、現在BBC MusicのYouTubeチャンネルには、このパフォーマンス動画が、公式映像としてDave (feat. Alex) - Thiago Silvaとして公開されているほか、今年の客演ハイライト動画にもColdplay(コールドプレイ)のChris Martin(クリス・マーティン)、Lil Nas X、The Pet Shop Boys(ザ・ペットショップボーイズ)らと並んで収録されるという…。

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個人的に激ヤバなのが、その尺の長さ。The Killers(ザ・キラーズ)にJohnny Marr(ジョニー・マー)が客演して披露されたThe Smith(ザ・スミス)の「This Charming Man」パートが20秒ほどだったことに対し、「Thiago Silva」がなんと50秒だったことは、いかにイギリス人がこのパフォーマンスに度肝を抜かれたのかをよく物語っているのではないかと思います。

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今年のコーチェラでは”Beyoncé(ビヨンセ)以前、以降”という言葉が目立ち、各日ヘッドライナーがいかにして2018年のBeyoncéを超えるかを考えたり、観る側もそれを期待していた感がありました。完全にこれは妄想ですが、今後、グラストンベリーでは今年のDaveの試みとAlex Mannの飛び入りが先例となって、来年以降、こういう試みも慣例化したらちょっと面白いなと思います。

そういや、今年のコーチェラではChildish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)が、往年のとんねるずばりに暴れまわり、観客にハーブをおすそわけ。その男性が一時バイラル化していました。でも、今年のフェスのベスト素人賞は、Alex Mannで決まりでしょう。

素人いじりといえば、とんねるずの芸風なわけで。変なところでとんねるずが世界とつながってしまったなと今、思いました。以上、お後がよろしいようで。

*追記:Alexx Mann少年、グラストンベリー出演後の反響がすごいそうで、アーティストデビューオファーがあったり、モデルデビューしている模様。


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Top Image via BBC Music

Reference:Metro, The Guardian, The Fader, i-D, Wiki1, 2, Genius1,2Who Sampled