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アンチ「ドラッグ、SNS、SoundCloud Rap」J.Coleが大人の意見を物申すアルバム『KOD』とSoundCloud Rapについて考えてみた

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J.Cole(J・コール)が、2016年にリリースした前作『4 Your Eyez Only』に続く新作アルバム『KOD』をリリースしました。同アルバムは、リリース前にはリスニングイベントが行われるなど、話題になっていましたが、社会派とでも言いましょうか? J.ColeによるPSA(公共広告)という意味合いのあるアルバムになっています。

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アンチ「ドラッグ、SNS、SoundCloud Rap」の公共広告 - J.Cole『KOD』

タイトル『KOD』とは、”Kidz On Drugz”、“King Overdose”、”Kill Our Demonz”という3つの意味が込められたもので、アルバムのアートワークでも表現されていますが、現在30代の彼が、”ドラッグ”、つまり、若者が刹那的にハマる麻薬中毒的なモノに対し、大人の立場から意見するという内容になっています。

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ジャジーさが渋い「大人の余裕」を感じるサウンド

音楽的にはトレンドのTrap的な音も少なからずありますが、アルバム冒頭の「Intro」は、再生した際、一瞬、Guruのクラシック『Jazzmatazz Vol.1』が始まったかと思わされるくらいジャジー。

Jazzmatazz, Vol.1

Jazzmatazz, Vol.1

  • グールー
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1900

そのほかの曲でもどことなくJazzネタというか、そういうテイストのトラックが多く、サウンド的には大人のヒップホップアルバムで渋い「大人の余裕」も感じます。

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大人としての意見

そして、このアルバムではそれ以上に注目なのが全編を通し、今の若者たちや彼らのトレンドから形成される”若者文化”に対して、J.Coleが自分の意見をラップを通して物申すというスタンス。

収録曲のうち、例えば、アルバムのタイトル曲「KOD」では、若いラッパーやそのファンたちの間で昨年、Lil Peep(リル・ピープ)の死亡事件が起きるまで大流行していたXanax(ザナックス)やオピオイド系鎮痛剤のPercocet(パーコセット)など、彼らがトラックやMV、SNSで頻繁に使用していることをアピールしたことによって若者文化を代表するトレンドになった現行のドラッグカルチャーに対し、"アンチドラッグ"という視点でラップ。

また「Photograph」では現代の若者のSNS中毒、そして最後の曲「1985 (Intro to "The Fall Off”)」ではSoundCloud Rap文化とそのラッパーたちに対する先輩ラッパーとしての意見を述べる内容になっていたりとメッセージ性が非常に強いです。(アルバムアートワークではコカイン、Xanax、大麻、ドラッグカクテルのSizzurp(スィズアープ)などを使う子供たちの姿が描かれています)

 

勝手な意見ですが、J.Coleは1985年生まれで今年33歳。年齢的にはもう若者というよりは大人といった感じで、変な話、彼がアルバムで通して伝えることは、今の若者にとってはただの口うるさいおっさんの戯言でしかないのかもしれません。

しかし、彼が伝えようとしていることは、あくまでディスではなく、大人としては至極まっとうな意見だと感じられ、そこがこのアルバムのミソだと同世代の私は強く思います。

青春時代に空想したドラッグカルチャー

10代の頃に海外のロックやヒップホップ、クラブミュージックなどいわゆる洋楽の魅力に熱病的に取り憑かれたことがある人ならわかると思うのですが、そういう人にとってそのあたりのドラッグカルチャー要素は文字通り麻薬的。

かくいう私も、例えば、ヒッピーカルチャー、セカンド・サマー・オブ・ラブ、サイケデリックトランスのレイヴ、Audio Avtiveの山奥での深ギマリ合宿などそういったワードにある種の憧れを持っていた口で、元Oasis(オアシス)のNoel Gallagher (ノエル・ギャラガー)が90年代当時、朝食のコーンフレークにコカインをかけて食べていたというトチ狂った都市伝説的エピソードなんかは大好物の類でした。

しかし、年月を経て、そういうユースカルチャーの最前線から一歩引くとその頃はわからなかった、”刹那的なユースカルチャーの魅力”の裏に存在するある種の薄っぺらさもわかるようになりました。これについては、刹那的だからこそ魅力的だという反面もありますが…。

余談ですがそれがワードとして非常によく表現されているのが青春クライム映画『ブリングリング』のポスターに書かれていた”キラキラしていたい”というキャッチコピーだと思います。

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そんなわけで今では「ドラッグをキメて朝までハイテンションで騒ぎまくる」とかより、「休日の晴れた日は朝から健康のためにジョギング」のようなことの方がもはや魅力的。歳といえばそれまでなんですが…。

個人的にドラッグカルチャーについては、10代後半の頃は、リアルにクールだと思っていたことは嘘ではありませんし、すでに終わっていた90sのレイヴカルチャーには異常な憧れもありました。

そのため、初めてイギリスのマンチェスターに足を運び、今ではマンションになってしまった「ハシェンダ」を見た時は、松尾芭蕉の「夏草や〜」で始まるあの俳句を思い出すくらい哀愁も感じました。

ただ、仮に今、日本でアメリカのように大麻解禁になったとしても、もういいかなって思いますし、ましてやXanaxとかなどやってみたいとも全く思わないというのが本音。これについては、結構同世代あるあるな気がします。

VS SoundCloud Rap

ちょっと話が飛びましたが、ここで今回の本題へ。このアルバムで最も個人的に気になったのは先述の「1985 (Intro to "The Fall Off”)」。これはすでに海外音楽メディアでは、J.Coleに対するLil Pumpのディス曲「Fuck J. Cole」へのアンサー的な意味合いを持つと指摘されていたりもするのですが、これもまた大人の意見という感じです。

リリックでは、最近のヒップホップシーンにおけるLil系ラッパーたちに代表されるSoundCloud Rapシーンに物申している部分やその一時的なブームに熱狂している若者に向けて、本物のヒップホップとキャリア形成などについて語りかける部分があります。

最近のシーンでよく話題になるのが、10代後半から20代前半にかけてのネット発の新世代ラッパーと旧世代ラッパーの世代間ビーフ。(大概若いラッパーが2Pacとかレジェンドをディスったとかそんな話)それと例えば、Lil Pump(リル・パンプ)「Gucci Gang」のような意味がよくわからないリリックに代表されるSound Cloud Rapや Mumble Eapには内容がない問題です。

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リリックの問題については、ぶっちゃけてしまうと英語が母国語でないほとんどの日本人にとっては、英語リリックを理解するのは容易でないため、ただYouTubeやストリーミングで聴くだけの場合、トラックのカッコ良さや、それこそ「Gucci Gang」のような意味不明ながらもワードとしての音のキャッチーさ、MVのビジュアルなんかで「なんかこれかっこいい」認定できてしまいます。

そういう意味では海外の若者の間で韓国語でラップする韓国人ラッパー、中国語でラップするラッパー、日本語でラップする日本人ラッパーがウケるのも納得なのです。

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アメリカではすでにご存知のとおり、今やヒップホップはEDMをしのぎ、もはやメインストリームではPOPS化しており、EDMでさえ、最近はヒップホップとの接近もトレンドになっているのが現状。

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そのため、元々ブラックカルチャーだったヒップホップはもはや、黒人だけのものではなく、非黒人の若者の間でも完全にトレンドになっています。またラッパーも黒人だけでなく、ヒスパニック系、白人系の若い世代が人気を博し、ネットを通じてその人気を拡大しています。

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しかし、その実情的な人気は、それこそ6ix9ine(シックスナイン)のようなラップ以外の面でのセンセーショナルさが支えているという面が確実にあり、リリック的な内容やスキル的な部分が一本調子などそういった面が悪目立ちするため、コアなファンや専門家、旧世代ラッパーは、そのはしか的ともいえる”刹那”で長続きしないであろう人気を危惧していたりするのです。

 そして、J.Coleもまたご多分にもれず、この「1985 (Intro to "The Fall Off”)」ではそれを指摘しています。そのあたりについては、

I'll be around forever 'cause my skills is tip-top
To any amateur niggas that wanna get rocked
Just remember what I told you when your shit flop
In five years you gon' be on Love & Hip-Hop, nigga

というリリックから感じ取れるかと。

 

文化の盗用問題に通じる要素も

また、この曲では最近海外、特にアメリカで問題になることが多い現代社会の”ポリティカルコレクトネス”である「文化の盗用問題」的な要素もあります。

文化の盗用問題とは、ざっくり説明すると「自分のルーツにない文化的な要素を使った何らかの表現でビジネスをしてはいけない」といったもので、炎上する時は大体それが理由になっています。近年の例だと、モデルのカーリー・クロスが着物を着て写真をとったとか、キム・カーダシアンが髪型をブレイドヘアにした写真を公開したとかです。

同曲では、ディスではないものの、若いSoundCloudラッパーたち、特に非黒人たちがブラックカルチャーに対する敬意がないことを暗に指摘しているような部分もあり、そこが、一体J.Coleは誰、どのLil系をディスっているのか? とコントラバーシャル(議論を呼ぶ)話題にもなったりしています。

ただ、内容的にはそうとも取れますが、私的には人生の、そして業界の先輩として老婆心的に若いラッパーに対し、「そんなんじゃこの先長続きしないぞ」と諭しているようにも捉えることができると考えています。そして、そういうものをヒップホップだと思い込み、トレンド好きの若いにわかとも言えるヒップスターなヒップホップファンにも、そういったことを同時に伝えているような気もします。

SoundCloud Rapは現代のパンク説

これに関してはSoundCloud Rapは昨年のシーンとしてのブレイク時に海外では、「SoundCloud Rapは現代のパンク」として、かつてのSex Pistols(セックス・ピストルズ)に代表されるUKパンクムーブメントを引き合いにそう解説されることがありました。

その際に指摘されていたのが、2分くらいのリリック、連呼される言葉、過激な行動など、そして現在の社会背景による若者の不満。かなり言い得て妙な指摘なので、面白い内容です。(この辺りは、日本人でもなんとなく洋楽に目覚める10代特有の中二病的なところとリンクするので、そこを通過してきた私にとっては読んでいると気恥ずかしい気持ちにもなります)それ系の記事はググると出てくるので気になる方は是非チェックしてみてください。

そういうこともあり、「一発屋生産工場」的に捉えれられているSoundCloud Rapシーンですが、それが故の一瞬で燃え尽きる的な刹那な、いかにもユースカルチャーな魅力があるのだと思います。6ix9ineとかXXXTentacionの若手ラッパーの「やりきったし引退する宣言」なんかはそういう意味ではトラックのサンプリングネタだけでなくこれもパンク引用なのかなと感じています。

クソだと切って捨てたLil Pumpの『大人は判ってくれない』感

最後に「1985 (Intro to "The Fall Off”)」に対するLil Pumpのリアクションをご紹介。WORLDSTARHIPHOPは、『KOD』に対するディスだとして紹介していますが、おそらく1番の対象はこの曲でしょう。「マジでカスだな」とばっさりときって捨てるLil Pump。これぞ、SoundCloud Rap世代のリアクションという感じで、フランソワ・トリュフォー映画『大人は判ってくれない』のタイトルが頭に浮かびました。

 長々とKaye WestのTwitter哲学並みに思いつくままにJ.Cole『KOD』の感想を書かせて頂きましたが、本作、非常に奥が深いアルバムだと思います。

内容を完璧に理解するには、アメリカの現状、若者、ドラッグ、そして読み解く英語力などなかなかヒップホップIQが高くないと難しいのでアレですが、今後色々なレビューが公開され、それぞれの視点で語られると思うのでそちらを参照しつつ、自分なりに読み解いていくとかなり楽しむことができる奥深いアルバムだと思います。

私的にももっと噛み締めて深く理解したいと思わされた作品なので、これからもっと聴き込みたいと思います。

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KOD

KOD

  • J. コール
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1900

Top Image via Genius
Source:Genius, Pitchfork, HIPHOP DX, XXL, KCPR