letter music

日々更新される音楽情報を雑談を交えて文字化するWebzine

多様化する音楽クリエイターのマネタイズにおいて大切なことは? 音楽NFTのリリースに取り組んだREMO-CONにインタビュー

昨年初めに起きた世界的なNFTブームを受けて、音楽シーンでもNFTの活用例が増えています。

デジタルアルバムの販売のみならず、アーティストのファンクラブのデジタル会員証への活用や、DJとプロデューサーの収益格差解消を目指し、NFTを活用したDJミックスが販売されるなど、最近ではアーティスト作品以外にも活用事例が拡大しています。

そんな中、日本のダンスミュージックシーンを牽引してきたREMO-CONさんは、今年4月に自身初となる音楽NFT作品「Quadra Centris」と「LIQUID FORM」をリリースしました。現在、両作品はNFTマーケットプレイス「Adam byGMO」で販売中です。

「Quadra Centris」では音源と共に各楽器パーツ別のマルチトラックもパッケージ。また特定のプラグインやソフト音源を所有する場合は「Pro Tools Session」を使用して、制作時のセッションが再現できる保有者限定コンテンツも用意。ファンの間で大きな話題になりました。

今回の記事ではREMO-CONさんに、NFT作品リリースのきっかけやリリース後の反響、アーティストとして感じている可能性などについてお伺いしました。

 

 

リリースしてわかったNFTならではの特性

ーーNFTで音楽作品をリリースすることになった経緯を教えてください。

単純に新しいモノ好きなので、NFTがまだどんなものかは完璧にわかっていない状態だったけど、とりあえず実際にリリースしてみたらどんなものか実感できるだろうと考えたんです。

そんな風にしてNFTのことを調べていた時に、知り合いのトランスDJ・Rinalyが今回利用した「Adam byGMO」というプラットフォームでNFTをリリースしていたのを知って、彼女にAdam byGMOの担当者を紹介してもらいました。

Adam byGMOではまだ誰でもすぐにNFTをリリースできるわけではなく、基本的には坂本龍一さんや小室哲哉さんのように厳選された一部のアーティストしかリリースできません。ただ、紹介してもらった担当者がたまたま僕の知り合いだったこともあって相談してみたところ、「REMO-CONさんなら全然OKなんで、ぜひやってみましょう」と言ってもらえたことでリリースできることになりました。

ーーどんなところに従来のリリースとは違う、NFTでリリースすることならではの魅力があるとお考えでしょうか?

今は著名なアーティストの名前が目立っていますけど、僕としてはNFT自体は音楽の新しい表現方法であり、マーケットのひとつだと捉えています。

たとえば、NFTは今注目が集まっているメタバースとの親和性が高い。要は、あっちの世界で見たフィジカルリリースという捉え方ができるんです。今後リリースする自分のNFTをメタバースの中で現実世界のCDやレコードと同じようにモノとして置くファンも出てくるだろうし、そういう意味でNFTとメタバースの組み合わせには期待しています。あと数量限定のNFT作品だと、VRDJをする場合でも現実世界のレア盤のように所有している人しかプレイすることができない点は、ユーザーからすると購入するメリットかもしれません。

ただ、NFTは複製が難しいという性質上、クローズドなファンに向けて販売するものでもある。

今回の僕の作品も、すごく平たく言うと“ファンクラブ向け限定アイテム”に感覚的には近くて、本当に僕の音楽が好きで応援したいという人に聴いてもらうための作品になっています。

一方で、アーティストとしては多くの人に作品を聴いてもらいたいという気持ちもある。既存のデジタルリリースとの、そこは棲み分けなのかなと思っています。

「実験」としてのNFTリリース、その結果は?

ーーNFT作品をリリースするためにどんな準備が必要でしたか? 

NFT作品の楽曲自体は、他の映像作品用に制作したトラックをアップデートしたり、作り直したものです。マスタリングも従来のフォーマットと変わらないので、曲を作ること自体はそんなに苦労しませんでした。

ただ、NFTを購入した人だけがもらえる保有者限定コンテンツをなるべく充実したものにしたかったので、「Quadra Centris」には各楽器パーツ別のマルチトラックのほか、アートワークやビデオシンセを使った動画も保有者限定コンテンツも自分で作っていて。Adam byGMOではそれらのコンテンツひとつひとつが審査を通る必要があるので、審査時間も含めてその準備が大変でした。

ーー実際にNFTをリリースしてみてどんな反響がありましたか?

面白かったのは、リスナーの中にもアンチNFT層がいる、というのがわかったことですね。グラフィックの世界でもアーティストのNFTリリースに関しては肯定派と否定派で意見が割れているそうなんですけど、音楽NFTに関してもそういう反応があることがわかったのも実際にリリースしてみたからこそです。ちなみに僕がTwitterでNFT販売を告知した際、それに対して否定的な反応をしている人はほぼ全て海外のファンでした。それによって逆説的にいかに日本でNFTが浸透していないかということもわかりましたね。

あとはブライアン・イーノのように、現状ではNFTがマネーゲームの道具的に使われている点を指摘してきて、「REMO-CONが拝金主義になるとは……」「アーティストがやることではない」といった意見もありました。ただ、僕としては今回はさっきも言ったように実験的な意味でのNFTリリースだったので、実際に販売価格にしても海外アーティストのように法外なものにしていません。むしろ、リリースまでにかかった手間を考えると割が悪いくらいだし、商業的な要素は低いと思っていました。それでもそういう意見があったので、まさに実験という意味では成功だったと思います。

ーー今回のNFTが転売された場合、Adam byGMO内の流通に限り、二次流通以降の売買においても、売上の一部(ロイヤリティとして設定されたパーセンテージ)をアイテム作成者が受け取れるように設定することができるとのことですが、そういったNFTならではのメリットをどのようにとらえていますか?

そもそも僕自身も昔は聴かなくなったCDやレコードを中古レコード屋に売ることもあったし、転売に関してあまり抵抗はないんです。その上で、転売された際にその分のいくらかが自分の手元に入ってくることに関しては、世代的に驚きの部分は大きかった。例えばストリーミングだと自分の曲が再生された分に応じてロイヤリティが入ってきますが、フィジカルの場合だと一度購入されるとそれ以上は入ってこないし、転売の場合もそれは同じだけど、NFTだとむしろ転売されるとお金が入ってくる。今は音楽アーティストでものすごく儲かっている人が少ない時代だということを考えると、その部分はアーティストサポートという観点でメリットだと思います。

NFTをめぐって個人的に問題だと思うのは、アーティストがお金の話をするといやらしいとされるような風潮があることを浮き彫りにしたことですね。作り手としてはやっぱり「作ったものに対して等価交換としてお金を得ることの何が悪いんだ?」という疑問はあるんですよ。現場で出会う若いファンから、僕の曲を知ったきっかけが某違法音楽配信アプリだったと聞かされることもあるので、なおさらですね。NFTは複製が難しいため、そういったことを回避しやすいという点はNFTで音楽をリリースするメリットのひとつだと思っています。そういった点も含め、アーティストのための持続可能な音楽活動を実現させるサービスとして、NFTの可能性を探っているところもありますね。

無料で音楽を聴けることは当たり前じゃない

ーー先ほどのお話にもあった通り、今回のNFT作品にはマルチトラックも収録されています。Soundmainでリリースされているようなサウンドパックとの違いについても教えてください。

サンプルパックは、皆さんが自由に使える音のライブラリというイメージの商品ですが、今回のマルチトラックは完成品である曲をバラして聴けることで、その曲の構造を知ることができるというものです。ただ、正直それをリリースした側としてもこういったものが一般リスナーにとって特典になり得るかどうかという疑問は少なからずあります。本当に価値あるものとして受け取られるか、確かめるという意味でも実験なんです。

 

 

ーーNFTの特典を用意する場合、他にどんなものが良いか現時点でアイデアはありますか?

アーティストのファン層によって違うと思うので一概には言えないですね。今回に関しては、僕のことを応援する意味でNFTを買ってくれた人の中には、もしかしたらDTMをかじっている人もいるかもしれないということでこういった特典を用意しました。

一般的な音楽ファンが多いアーティストであれば、NFTを持っているとアーティストとミート&グリートできるとか、オンラインファンミーティングに参加できるといった感じのまさに“ファンクラブ限定”的なものを用意するほうがいいかもしれません。

ーー音楽NFTのリリースを含め、近年はアーティストが音楽でマネタイズする方法も多様化しています。そのような変化をどう捉えていますか?

ストリーミングが出てきた時もそうですが、自分としてはマネタイズ方法が多様化していくことに対して、特に抵抗はありません。例えばストリーミングの場合、購入してまで聴きたいとは思わない曲でもオンライン上ですぐにチェックできますし、一度ユーザーになってしまうとすごく便利さを実感するというか、これまでのCDやレコードといったフィジカルフォーマットより利便性が高いことがよくわかります。だから、作品を発表する側としては半分諦めている……というと語弊があるかもしれないですけど、そこで儲けようとは思っていないんです。

ーーNFTやサウンドパックの販売以外にマネタイズの方法として試していることや、マネタイズを考える際に心がけていることを教えてください。

ナビゲーターを務めているblock.fmのラジオ番組「Remote Control」で、有料のファンコミュニティサービスを始めています。番組のファンが月にいくらかのお金を払うことで番組を経済的に支えることができ、それと引き換えにファンコミュニティ向けの限定コンテンツにアクセスできるというものです。こういったことはこれまでにもアイドル界隈では当たり前にやってきていることですが、日本のクラブ/DJカルチャー界隈ではあまりなかったことなので、僕としては新鮮に思っています。

多くの動画配信サービスが月額料金500円〜1000円程度で提供されている中で、自分の有料ファンコミュニティの月額料金も同じくらいの料金設定になっていることを考えると、常日頃から「なるべくリスナーさんに喜んでもらえる内容をリターンとして返すことを心がけよう」という気持ちになります。

 

 

持続可能なコンテンツにしていくという意味では、リスナーさんに対して、無料で音楽を聴けることが当たり前ではないということをちゃんと伝えて、なぜ課金をしてもらう必要があるのか理解してもらうことも大事ですね。だから、番組中はいつも冗談混じりに「早い話、課金です」と呼びかけているんですが(笑)。お金を支払ってくれるリスナーさんが求めるものとしっかり向き合いながら、リターンを返しつつコミュニケーションを深めていくことが大事だし、それはNFTを販売する場合も同じだと思います。

取材・文:Jun Fukunaga

REMO-CON プロフィール

1993年よりDJおよび楽曲制作活動をスタート。 「Cyber TRANCE」「HOUSE NATION」シリーズなど人気コンピレーションのミックスや、多数のアーティストへのリミックス/編曲参加など、幅広いコラボレーションを盛んに行っている。

クラブDJとしては、2001年~06年まで「velfarre Cyber TRANCE」のレギュラーを務める。 その後も日本各地は勿論、世界各国にてプレイし、オランダの “Dance Valley” や、国内の “サマーソニック”など大型フェスにも出演。レギュラーを務めるラジオプログラム(FMヨコハマ “PRIME TIME”, block fm “Remote Control”)でも好評を博している。

アーティスト としては、2004年に1stシングル「G-SIGH」をリリースし、ドイツでもライセンスされスマッシュヒット。 以降、精力的に楽曲をリリースし続け、07年発表の「COLD FRONT」は、英国の名門レーベル “anjunabeats” にもライセンスされた。 09年には待望の1stアルバム『a life with remote controllers』をリリース。続く2ndアルバム『rhetoric』(オリコン13位)を経て、自身のレーベル “rtrax” よりリリースされた 『Flowered EP』は、世界最大のダンスミュージック配信サイトであるBeatport総合チャートにて2位にという大躍進を遂げた。東京オリンピック2020閉会式編曲担当。

*オリジナル掲載先のSoundmainサービス終了により本サイトに移管(オリジナル公開日は2022.06.08)