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Saint Pepsiが爆復活! 『Mannequin Challenge』はネット音楽ならではの質感があって良きな件

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本日、目が覚めるとなんとVaporwave~Future Funk界隈のレジェンドダリーなプロデューサーとして知られるSaint Pepsi(セイント・ペプシ)がまさかの復活。新作アルバム『Mannequin Challenge』をリリースしていました。

 

個人的にSaint Pepsi作品では数年前に公開されていたCarly Rae Jepsen(カーリー・レイ・ジェプセン)の「Call Me Maybe」のVaporwaveエディットが好きだったなぁ〜とかなんかノスタルジックな気持ちが込み上がってきた今回のSaint Pepsi復活劇。

www.youtube.com

そういや「Call Me Maybe」原曲は人気モデルのローラバージョンも公開当時話題になりました。ちなみに公開は2012年だったようで月日が経つのって早いですね(汗)...。

閑話休題。

Vaporwave~Future Funkの橋渡し役だったSaint Pepsi

Saint Pepsiは、先述のとおり、Vaporwaveで名を上げ、よりポップなFuture Funkの初期を支えたプロデューサーなのですが、彼の代表作として知られているのが、2013年にリリースされたアルバム『Hit Vibes』収録の山下達郎「Love Talkin」ネタの「Skylar Spence」。そのほかにも70s~80sのソウル、ファンク、ディスコネタ、例えばJames Brown(ジェームス・ブラウン)、Sister Sledge(シスター・スレッジ)などをサンプリングして作り上げているわけですが、2014年にはToro y Moiなどインディーポップ/エレクトロポップ界隈の人気アーティストを抱えるレーベル「Carpark Records」と契約。

 

さらにその翌年の2015年にはこれまでのSaint PepsiからSkylar Spence(スカイラー・スペンス)に改名(一説によると”ペプシ”が問題になったそうな)し、その後はこんな才能あったんだ!? レベルの超絶上質歌モノインディーポップアルバム『Prom King』をリリースするなど、アングラなネット音楽界隈からポップフィールドへと見事に活動場所を移行。まさにキャリアアップを成功させていたわけですが、テン年代ももうすぐ終わりを告げるタイミングで界隈の名跡”Saint Pepsi”が再び、この世にバッカゲンしたことはなかなかに胸アツです。

Prom King

Prom King

  • Skylar Spence
  • エレクトロニック
  • ¥1500

 

先述の『Hit Vibes』期(Future Funk勃興期)は、そのネタ使いから”Daft Punk(ダフト・パンク)を彷彿とさせる”的な見方もされていたようですが、改めて聴いてみるとネタの切り貼りの感じはそれよりも以前のRoulé/Crydamoure全盛期のフレンチタッチに近い気も。(どちらのレーベルもDaft Punkメンバーが絡んでいるので、広義ではDaft Punkで間違いないのかもしれませんが…)

加えて『Hit Vibes』収録曲の特徴はハウスほどのテンポの曲はほぼなく、ミディアムテンポっていえばいのでしょうか? Nu Discoくらいのテンポの曲が多いところと、Vaporwaveっぽいニューエイジを思わせるネタ使いの曲もあるところ。そういう意味ではちょうどVaporwaveから今日、日本でも注目を集めるFuture Funkの橋渡し的、ネット音楽史に残る作品だと思っています。

リリース日が早まり、サプライズリリースになった『Mannequin Challenge』

で、本題の『Mannequin Challenge』ですが、こちらは当初Skylar SpenceのインスタアカウントでSaint Pepsi名義でのリリースが今週金曜に行われることがアナウンスされたのですが、それが結果的にリリース日は早まり、まさかの本日、サプライズリリースとなりました。

ネット音楽っぽさへの回帰

内容はかつての”Saint Pepsi”を思わせるサンプリングを駆使した内容で、在りし日のSaint Pepsiファンにとってはノスタルジックさを感じる仕上がりかと。

個人的に注目したいのは、Skylar Spence名義ではかつての”ネット音楽さ”がなくなり、色々とクオリティの高いインディーポップが発信されていたわけですが、今回の『Mannequin Challenge』では、ネット音楽らしいサンプリング主体のLo-Fiな曲が目立ちます。特にルーピーでVaporwaveらしいスクリューも用いられ、さらにはフランジャーかけまくりというトリッピーな「Visions」、ザラっとしたサンプル、ビートの質感の「Pinchers」、「Greg」なんかはまさにそれ。

近年はVaporwave以降のネット音楽ジャンルとしてLo-Fiハウス、Lo-Fiヒップホップなどが人気ですが、そのあたりのトレンドも意識しているのか、上質なポップスを作れることをすでに証明しているSaint Pepsiが、名義復活もあるといはいえ、再びネット音楽的アプローチで音楽制作を行なっているのはかなり興味深い部分です。

 

"今のSaint Pepsi"を感じるハウシーさ

アルバム構成としては、『Hit Vibes』と同じようにミディアムテンポ曲あり、Vaporなスロー曲ありなのですが、本作には「I Need Your Love In Me」、「Sea Tea」などよりハウシーな曲もあり。Skylar Spence名義での『Prom King』があっての早いテンポもやってみようということも多々あるかと思いますが、とりあえず一度アルバムを通して聴いてみて感じたファーストインプレッションはそんな感じでした。

あとは現在のFuture Funkは、その人気の拡大には日本のシティポップ、アイドル歌謡曲が大いに関係していることは、今年のNight Tempoの大躍進以来、よく知られるようになりました。しかしながら『Mannequin Challenge』ではそういった”ベタなFuture Funk”アプローチが見当たらないことも特徴のひとつ。

今ではTyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)が山下達郎をサンプリングする時代になりましたが、その源流を作ったSaint Pepsiがそこにあえて乗っかっていかなかったことはかなり興味深いですね。このあたりは一度”卒業”したからこその有象無象のアングラFuture Funkプロデューサーたちとの線引きなのか、気になるところです。

IGOR

IGOR

  • タイラー・ザ・クリエイター
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1600

なお、『Mannequin Challenge』は現在、投げ銭制でbandcampからダウンロード可能です。以上、お後がよろしいようで。

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Top Image via bandcamp