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Jack Dorseyの「SQUARE」はなぜTIDALを買収したのか? 興味深い考察を見つけたという話 *追記あり

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先週、音楽ストリーミングサービス「TIDAL」の過半数の株式を2億9700万ドル(約320億775万円)で、Twitterの共同創設者兼CEOとして知られるJack Dorseyのモバイル決済企業「SQUARE INC」が買収したことが報じられました。

 

「TIDAL」の過半数の株式買収によりJay-Zらは"第2位の株主グループ"に

TIDALは2014年にノルウェーで設立された後、2015年にJay-ZやBeyoncé、Rihannaらアーティストたちによって買収されたことで知られるほか、Jay-Zが運営権を持つため、彼がサービスの顔役でしたが、これにより、それらのアーティストは現在、"第2位の株主グループ"に。また、Jay-Zは、Squareの役員に加わることが発表されました。

今回のSQUARE INCによる「TIDAL」株式買収に関して、Jack Dorseyは、Twitterで「SquareがCash Appを通じてあらゆる規模の売り手や個人のためにできたことを考えると、私たちは今、アーティストのために彼らと同じ成功を得るために働くことができると信じている」など、買収理由を説明。

 

TIDAL買収はNFT時代を見越してのもの? 

また、彼の一連のツイートのには「TIDALは、妥協のないアートの体験に焦点を当て、アーティストが所有し、リードすることで、アーティストを称えるという考えからスタートしている。このビジョンはアーティストのためのより強力なツール提供や、新たな報酬を得るための方法を含めて、今後なお一層強化されていく」というツイートも含まれていました。

これに関して、DJmagは、アーティストの権利や独立性のほか、収益に関してもアーティストがファンとのつながりから収益を得ることができる新しいマネタイズ方法に注目が集まっていることを反映していると指摘。さらにそれと関連して最近"NFT(ノン・ファンジブル・トークン)オークション"での作品販売が高額な収益を生み出していることに注目が集まっている状況を踏まえて、NFTが遅かれ早かれアーティストにとって重要なツールになる可能性を暗示していると仮説を立てていました。

最近でもGrimesやNo Rome、3LAUがNFTオークションで作品を販売

"NFT"に関して、最近の音楽業界ではGrimesやNo Romeがチャリティー向けのオークションとしてデジタルアートワーク販売に活用するといった事例が見られます。

  また、EDMプロデューサーの3LAU(ブラウ)が先月、NFTオークションでデジタルアルバムのアクセスキー(いくつかの特典付き)を限定数販売。なんと最高値で366万6,666ドル(約4億円)の値がついたことが報じられています。こういった事例から、今後、この"代替不可能なトークン"とブロックチェーンによって、デジタルであっても、アーティストの音源やグッズの一点物化や限定販売化が進む可能性があります。

例えば、フィジカルリリースされるシリアルナンバー&アーティストのサイン付き限定盤レコードのシリアルナンバーNo.1は、世界に1枚しかなく、正規の方法では複製することができないため、代替不可能なものだと言えます。

ブロックチェーンとNFT

一方で、データを元にしたデジタルコンテンツは、事実上複製可能であり、モノとしては限定品としての販売が難しいのがこれまでの状況でした。しかし、ブロックチェーンによってアリババ博報堂が、デジタルコンテンツの著作権を管理・保護できるシステムを構築しているように現在は、デジタルコンテンツの違法コピーや盗作対策が進んでいます。そうなるとブロックチェーンによって複製ができなくなり、NFTオークションで出品されるアートワークやアルバムの一点物としての価値は担保されるため、手には取れないデジタルコンテンツであっても先述の限定盤レコードのように"代替不可能"な価値がそこに生まれるというわけです(かなりざっくりした説明ですが)。

 

こういったNFTオークションシステムによって、アーティストには新たな収益源が生まれるため、たびたび収益性が低いと批判されるも頼らざるを得なかった音楽サブスクからの収入問題からもある程度解放されるようになるはずです。そうなるとモノを言うのはアーティストとファンとのつながりから生まれるファンベース。規模やアーティストへのファンの熱狂度(信者化)などが今度は収益の柱に直結するようになってくることが予想されます。それと同時にアーティストのレーベル離れも加速する可能性も。例えば、プロモーションにお金をかけてくれるメリットはあっても4億円のデジタルアルバムをファンに直販できるのであれば、原盤権をレーベルに握られているのは馬鹿げていると考えるアーティストもいることでしょう。

なので、今後、TIDALはプラットフォームとしてNFTの音源もしくはグッズ販売も行えるプラットフォーム化も頭の片隅にはあるのかなとJack Dorseyの言葉とDJmagの指摘から思いました(話題のTwitterの"スーパーフォロー"ともその辺りは相性が良さそう)

将来的にはTIDALとJack Dorsey謹製サービスの融合が測られる?

また、経済系メディアでは、先述のJack Dorseyの「SquareがCash Appを通じてあらゆる規模の売り手や個人のためにできたことを考えると、私たちは今、アーティストのために彼らと同じ成功を得るために働くことができる」という言葉から、アーティストの独立性に関わる収益化(例:ツアーにでるための資金をファンから調達(TIDALにCash Appを組み込む?)、TIDALをTwitterに組み込むことで音源の収益化を促すなど」についても触れています。

 

TIDAL買収理由はTwitterと音楽業界の間に起きている著作権問題か?

しかし、その一方で、某海外音楽メディアの中の人が、今回のTIDAL買収の背景にはTwitterの著作権問題対策が関係しているとツイートしていました。

そのツイートは現在、削除されてしまっているのですが、その人物が指摘していたのは、現在、Twitterが抱えている音楽業界との著作権の問題です。Twitterでは、近年、ユーザーによるUGC動画や無許諾の音楽コンテンツ投稿の増加によって、音楽業界からの著作権侵害の訴えが多発しています。

もしかしたら経験がある方もおられるかもしれませんが、TwitterにはYouTubeのコンテンツIDのような機能はないため、例えば三大メジャーレーベル系の楽曲を使ったUGC動画を投稿すると速攻で感知され、警告もしくはアカウントが停止されます(以前、フェスで撮影した某メジャーアーティストの動画を投稿したところ、警告がきてアカウントが一時停止になった経験あり)。

Forbesによりますと、"全米レコード協会(RIAA)のCEOのミッチ・グレイザーは12月に米上院知的財産小委員会で証言し、過去2年間でツイッターに対し、音楽著作権管理者から送られた、著作権違反の通知が300万件以上に達した(Twitter側は、もっと少ない件数だと主張)"とのことで、RIAAはTwitterに対し、問題コンテンツの検索を効率化するためにAPIへのアクセスを要求。しかし、Twitterは、それを可能にするには年間10万ドルの費用がかかると回答して、音楽業界からの追求を交わそうとしています。

 

Twitterは音楽や動画コンテンツ対策にお金をかけたくない?

このTwitterの姿勢は、音楽や動画コンテンツがTwitter上でさほど大きなボリュームではなく、そういったコンテンツは現状、TikTokやYouTube、Instagramが主流になっているからだと見られています。そういった状況から、わざわざ高額な音楽ライセンス費用を支払うことと大きな負担となるコンテンツIDシステムの開発はできるなら避けたいというのがTwitterの本音だと思われます。

しかしながら、例の海外音楽メディア関係者は、そこに今回のTIDAL買収理由の一因があるとして、TIDAL機能をTwitterに組み込むことでこの問題の解決を測ろうとしているという仮説を立てて考察していました。個人的にはそれを見て、なるほどTwitterの音楽業界との著作権問題を考えるとあり得ない話ではないのかなと思いました(それだけに削除されていたのが気になる)。

 

果たして、今後、Jack Dorseyは、TIDALで具体的にどんなことを実現させるのかが気になります。ただ、TIDALは今のところ日本未上陸のため、今回のTIDAL買収劇は、音楽好きの間では"Jay-ZのTIDALが買収された"以上のインパクトがなかった印象があります(気にしていたのは主にフィンテックに関心がある人だった印象)。

とはいえ、自分としては今回のことでこれからは音楽ライター/ブロガーもNFTやブロックチェーンに関心を持つ必要が出てきたなと思ったので、目下、NFTやブロックチェーンに関しても勉強中であります。

今現在は、NFTオークションで落札できるのは一部のお金持ちのイメージが強い印象があります。しかし、それが今後、どのように一般市民向けに開かれたものになるのかは気になるところ。これからの動向に注目していきたいと思います。以上、お後がよろしいようで。

2021/03/16 追記:
NFTと音楽やアート分野クリエイターとのこれからの関係性について書かれた興味深いコラム記事を見つけました。

 

記事によると、本稿でも触れたNFTによって、アーティストたちの独立性をベースにしたマネタイズの可能性は広がるものの、昨今のような巨額の収益を得られる状況はある種のバブルのようなものであり、"NFTの供給過剰"は時間の問題との見方が示されていました。そのため、今後は"価格は、現在とは違うところで均衡状態に落ち着く"という予想が行われていました。

中長期的には、トークン化されたアートの供給過剰が発生するだろう。ファンに直接売ることのできる資産を持っていると、クリエイターたちは認識し始めているが、まだ非常に新しい。

すべてのクリエイターたちがこれに気付いたら、供給は天井知らずに増加するだろう。その後にはコレクションすることの目新しさが薄れ、需要も再び落ち着く可能性が高い。価格は、現在とは違うところで均衡状態に落ち着くだろう。それでも、初期に受け入れた人たちは、分け前をつかんで、新たなプラットフォームへと向けて革新を起こすチャンスがある。

また、NFT絡みのSQUAREのTIDAL買収理由のひとつとして、SQUAREのCash Appの顧客獲得戦略が、フォロワーにビットコインを提供することを含めて、インフルエンサーやヒップホップコミュニティを通じたものであることが挙げらるとあり、影響力を大幅に増大させるアイディアだという見解が示されていました。

興味深いの以下の部分:

小規模企業向けの代替バンキングサービス提供会社としてスクエアは、(1)クリエーターを積み上げて収益化し、(2)クリエーターの発信力を使ってスクエアの普及を進めるための好位置につけている。

CEOのジャック・ドーシー氏は5次元チェスをしているのだ。同じような洞察の例として、彼がCEOを務めるもう1つの会社、ツイッターによる、コンテンツクリエーターを有料でフォローする(「スーパーフォロー」)機能追加へのロードマップを見て欲しい。

ソーシャルネットワークへと金融化を組み込む中でツイッターは、インフルエンサーをまとめ、代表する外部ツールから経済的分け前を取り返しているのだ。広告ユニットがダイレクトメッセージや芸能プロダクションへと消えていくのではなく、ツイッターがクリエイティブプラットフォームと金融プラットフォームの両方になるのだ。

とあり、やはりTwitterのスーパーフォローは、本稿でも挙げたNFT絡みでのTIDAL買収の要因だとする見方もあるようです。



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Top Image via TIDAL

Reference:
https://djmag.com/node/100028
https://edm.com/gear-tech/3lau-record-breaking-nft-sale
https://www.coindesk.com/alibaba-patents-blockchain-system-that-spots-music-copycats
https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2021-03-07/why-did-square-buy-tidal-jay-z-and-jack-dorsey-want-to-fix-the-music-business
https://www.fool.com/investing/2021/03/10/why-twitter-should-have-bought-tidal-not-square/
https://forbesjapan.com/articles/detail/39840