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Spotifyに訊く音声メディアの現在地:音楽クリエイターの音声コンテンツ活用やマネタイズの方法は?

Spotifyといえば、一般的に“音楽の配信サービス”というイメージが強いかと思います。

しかし、Spotifyは2019年に設立から10周年を迎えたタイミングで、「オーディオファースト」という新たなグローバル戦略を打ち出し、今ではオーディオに関わる総合的なプラットフォームに進化を遂げつつあります。

その中でSpotifyが次の戦略の軸のひとつとして、注力しているのがポッドキャストをはじめとする音声コンテンツです。

Spotifyは、最近ではポッドキャストの配信だけにとどまらず、国内外のオリジナルポッドキャスト番組の企画・制作をはじめ、クリエイターの育成や制作ツールの提供、Spotifyで配信される楽曲を使ってラジオ番組のような音声番組を制作することができる「Music+Talk」を公開するなど、ポッドキャストを含む音声コンテンツ市場をリードしていくべく、様々な取り組みを行っています。

SoundmainではそんなSpotifyのポッドキャスト事業について、スポティファイジャパン音声コンテンツ事業統括担当の西ちえこさんにインタビュー。前半では、Spotifyが音声コンテンツに注力する理由やほかのメディアとは異なる魅力、日本での普及状況、そして、日本でポッドキャストをはじめとする音声コンテンツを広げていくための取り組みなどについて、お話を伺いました。

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後半では、音楽クリエイターのポッドキャストなどの音声コンテンツ活用のヒントになるような様々な事例から、コンテンツを作るクリエイターであれば誰もが気になるマネタイズ方法、制作において音質にこだわるべきか否か、そして、話題になった「Music+Talk」などについてお話を伺います。

 

ポッドキャストとアーティストしての魅力が相乗効果に?

ーーTikTokでのヒットをきっかけに人気アーティストが生まれるケースも増えてきていますが、ポッドキャストを背景に人気になるアーティストはいるのでしょうか?

ヒップホップグループ・Dos MonosのTaiTanさんとロックバンド・MONO NO AWAREの玉置周啓さんの番組『奇奇怪怪明解事典』では、自身の音楽について語るのではなく、自分たちが創作活動するにあたって出会った作品の言葉を深掘りするようなすごく興味深いコンテンツで、以前から彼らのコアなファンの間では密かに人気を博していました。その番組を私たちが2020年度のジャパンポッドキャストアワードで「Spotify NEXT クリエイター賞」にフィーチャーさせていただいた後、Spotify上で爆発的にリスナーの増加が見られたことは興味深い事例だと思います。

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また、バーチャルユニットのヒプノシスマイクとSpotifyでオリジナル番組を制作したのですが、それがポッドキャストが日本でも親和性の高いメディアだと実感するようになったきっかけです。オリジナル番組は、声優さんがキャラクターになりきってトークする内容で、2019年に第一弾の『ヒプノシスRADIO』、2021年に第二弾の『HYPNOSIS WAVE』を展開させて頂き、現在は『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- HPNM Hangout!After Talk Podcast』というスピンオフ番組も配信しています。

『ヒプノシスマイク』関連の番組では、楽曲のみのプレイリストだけではなく、楽曲とポッドキャストを混ぜ合わせたミックスプレイリストも展開していて、実はそれがすごくよく聴かれています。このようにキャラクターを通じて、様々な楽しみ方を提供していく事例もあります。

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あと、小泉今日子さんが「黒猫同盟」というユニット名義でSpotifyで展開しているのオリジナル番組『ホントのコイズミさん』のために楽曲を書き下ろされたのですが、最近は黒猫同盟としての音楽活動も増えてきていることは、興味深いですね。

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ポッドキャストを収益化する方法は?

ーー最近はクリエイター・エコノミーに注目が集まっていることもあって、これからポッドキャストを始める人は収益化にも興味があると思います。現在、ポッドキャストを収益化する方法はあるのでしょうか?

海外ではすでにAnchorで収益化することができますが、日本ではまだスタートしていません。しかし、いずれその機能が導入される可能性はあります。

Spotifyでは、2021年1月に「発掘」「共有」「育成」の3つを軸にした「クリエイター・サポート・プログラム」を発表しています。

「発掘」は、アワードやイベントへの協賛・協力を通じて、質の高い音声コンテンツを既に制作されている方をいち早く発掘して、より多くのリスナーに発見されるように協力していくという1つ目の軸です。「共有」は、クリエイター向けの専用サイトやSNSでの発信、イベントやウェビナーを展開してデータなどの最新情報やノウハウを共有することでクリエイターの日々の創作活動に貢献できたらと思って始めた2つ目の軸です。

そして、3つ目の軸が「育成」で、これは「Sound Up」(様々な課題に直面するコミュニティや少数派の人々の声をポッドキャストによって世界へ届けることで、多様性のある社会の実現を目指すプログラム。公式のニュースリリースも参照)のような制作経験の少ない方に音声コンテンツの配信を始めるきっかけ、その才能を発揮できるよう育んでいくというものです。現在は、この3つの軸を同時並行で走らせています。

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ーー番組そのものの収益化につながる機能の開発を進める一方で、クリエイターの可能性を押し広げる取り組みをされていると。

そうですね。実は、我々のようなプラットフォームが機能としては提供していなくても、今日現在でもポッドキャスト自体にダイレクトにスポンサーを付けることはできるんです。スポンサー料を得たからといって、私たちにそのうちのいくらかを納める必要はなく、全て自分の収益にすることができます。今、配信されているクリエイターの中にもすでにそういう方はおられますし、人気のある番組を作ることができれば、それだけスポンサーも付きやすくなるのでそこからの収益化が期待できます。

とはいえ、スポンサーを獲得するために営業活動しなければならないことはボトルネックではあるので、いずれそういう部分も解消できるようにしていきたいですね。

ーースポンサーの理解を得るためには、ポッドキャスト以外にもパーソナリティの活動を伝えるチャンネルを持っておくことが重要そうです。

おっしゃる通り、今は複合的にコンテンツを制作されるクリエイターが多いですね。他のメディアも展開しつつ、ポッドキャストのような音声メディアも上手に使われている方が増えてきている印象です。なので、ポッドキャスターとしてプロになるのも1つの道だと思いますし、クリエイターの自己表現の1つとして音声メディアを始めていただき、そこから副次的な収入を得られるようなスキームもいずれ定着していくのではないかと思います。

番組の「クオリティ」はどこで決まる?

Anchorがあればポッドキャストなどの音声コンテンツを始められるという話でしたが、質の高い番組を作るのであれば音質にもこだわった方がいいのでしょうか?

音声のクオリティありきの配信にこだわらなくても、語っている内容など番組の中身に対してつくファンも非常に多いので、音質自体がネックになることはないはずです。

音質にこだわられるのであれば、やはり反響音を抑えるマイクなど、それなりのクオリティで録音できる機材を使った方がリスナーにとってより聴きやすい音になるのは間違いないと思います。

例えば、氷川きよしさんの番組『氷川きよし kiiのおかえりごはん』では、ASMRの仕組みを取り入れることで料理中の音だったり、環境音を拾うことで臨場感を演出しています。また、『ハイパー ハードボイルド グルメリポート no vision』も、電車から降りる時の駅での音だったり、ドアが閉まる音など、音の演出についても非常に考え抜かれた上で作られていますので、作られるコンテンツによっては効果音として、音声を上手に活用されると、よりリスナーにとって楽しめるコンテンツになる可能性があります。

ただ、人気のある番組は様々ですし、例えば、誰かがしゃべっているのを耳をそばだてて聴いているような雰囲気にしたい時は、多少雑音が入っていってもそれが心地よく感じられることがありますよね。なので、やはり伝えたい内容によると思います。

「Music+Talk」「Liner Voice+」……音声コンテンツはますます身近な存在に

Spotifyで配信している楽曲とトークをひとつのコンテンツとして配信できる「Music+Talk」も公開されています。こういった機能を開発されたのはどういった狙いがあってのことなのでしょうか?

音楽とトークを1つのアプリ上で楽しめるのは、Spotifyならではのことだと思います。特にMusic+Talkは、Anchorを利用する全てのクリエイターが、そこで録音したトークとSpotify上の楽曲を使って、1つの番組を簡単に制作できるという非常に画期的なフォーマットです。

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一番重要なのはMusic+Talk内で楽曲が再生されると、普通に楽曲単体で再生されたときと同じように、アーティストに還元される仕組みを実現できたことですね。また、リスナーはクリエイターが意図する構成に従って音楽とトークを楽しむことができますし、トーク中に再生画面から離れることなく、プレイリストのような操作性で使えるようになっています。これからのゲームチェンジャーになり得ると考えています。

ーーMusic+Talk機能を使った音楽系トーク番組では取り扱う音楽のジャンルによって聴かれやすさに違いはあるのでしょうか?

ジャンル別で聴かれるというよりは、番組のホストの魅力による部分が大きいのかなと。トークを聴いたことをきっかけに、そこで知った楽曲や関連するジャンルの楽曲を聴くという傾向は少なからずあると思います。

アーティストが自分の楽曲について、楽曲と一緒に自分の声で語る「Liner Voice+」も、音声コンテンツとしてすごく画期的だと思いました。

アーティストの中には楽曲を発表されたあと、それに対する思いやどういった構成になっているについて、語りたい方がたくさんおられます。現状、多くはSNSを通じて発信されていますが、それだけだとやっぱり伝わりきらない部分はあると思うんです。

アーティストの表現として一番大きいのは楽曲ですし、それを紹介しながら、その方のテキキストでは伝えわりきらない思いを一緒に伝えることができるのが、Liner Voice+という音声コンテンツの一番の特徴です。

ーー最後にSpotify Japanとしての音声メディアに対する、今後の展望を教えていただけますか?

今後も音声市場の拡大と、日常的にオンデマンドであらゆる音声コンテンツに触れてもらえる文化の醸成に引き続き取り組んでいきたいと考えています。また、日本国内のパートナーと連携しながら、魅力的な企画の開発を継続して、日本国内のクリエイターの支援にもさらに力を入れていく予定です。

取材・文:Jun Fukunaga

*オリジナル掲載先のSoundmainサービス終了により本サイトに移管(オリジナル公開日は2021.10.13)