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DTM初心者必見! Disclosureも愛用する指一本でコードが鳴らせる作曲テクニック“サンプル・コード”とは?

DTMを初めたばかりの初心者がつまずきがちなポイントとして多くの人が挙げるものと言えば、コード。

例えば、シンセやギター系のプラグインで作る単音のメロディーのようなフレーズは、音楽の知識がなくとも鼻歌をなぞるような感じで作ることができます。ですがコードの場合はいくつかの音を重ねる必要があるため、最低限のコードを構成する音の知識がないと不協和音になってしまい、聴いていても心地よい音にすることができません。そのためコード進行やスケールについて勉強する必要があると思ったDTMerは少ないのではないでしょうか?

最近は、指定したスケールに沿ってコード進行を作れるコードジェネレーター、コードのMIDIパックなども数多く販売されているので、仮に知識がない、もしくはあったとしても苦手意識を持っているという場合でもコードを使って音楽制作することはひと昔前に比べて、ずいぶん簡単になりました。

しかし、それでももっと感覚的、かつ、簡単にコードを使って音楽制作をしてみたいというDTM初心者におすすめしたいのが、“サンプル・コード”や“一本指コード”と呼ばれる作曲テクニックです。

 

 

 

サンプル・コードのやり方自体は非常にシンプル。例えば、ソウルやジャズ、ファンクなどの曲のコードを使ったフレーズからひとつだけコード部分をサンプリングして、そのコードをサンプラーのパッドやMIDIキーボードに割り当てるだけです。サンプリングしたコードを割り当てた先で音程を変えていくことで、メロディを弾くようにフレーズを作ることができます。

このテクニックは80年代~90年代のハウスシーンで多用されたテクニックですが、一説によると、普及の背景には、当時のハウスプロデューサーたちが複雑なコード進行を実際に鍵盤で弾くスキルを持ち合わせていなかったという理由があったと言われています。また、当時の機材で比較的手頃な価格で販売されていたRoland「Alpha Juno」やKorg「Poly-800」のようなシンセには、コードを1本指で演奏できる「コードメモリ」機能が搭載されていたことも、このテクニックが普及する要因だったそうです。

では、ここでサンプル・コードを使った曲にはどのようなものがあるか見ていきましょう。

まず、有名なところでは、デトロイトテクノのオリジネーターの1人、Kevin Saundersonが率いたユニット・Inner Cityによる1988年発表のハウスクラシック「Big Fun」が挙げられます。同曲では1986年のNitro Deluxeによる「Let’s Get Brutal」のStabのコード部分をサンプリングして、イントロのコード・フレーズが作られています。また、Inner Cityには、代表曲としてよく知られたもうひとつのハウスクラシック「Good Life」という曲がありますが、同曲のアイコニックなイントロのフレーズもこのテクニックを活用して制作されていると考えられています。

このようにハウスシーンの発展に大きく関わってきたサンプル・コードは、現在でもシーンのトップアーティストに重宝されています。中でも、2010年代にデビューして以来、ハウスをメジャーフィールドでヒットさせてきたDisclosureは、一本指コードを活用する代表的な現代アーティストで、これまでにこのテクニックを使用して音楽制作する様子が、たびたび動画として公開されています。

下の動画では、ディープハウス系の曲のパッドパートのコード進行をサンプル・コードで制作する様子が確認できますが、動画の最後では視聴者に向けて、“マイナー9thコード”を活用するというディープハウスを作るためのアドバイスを行っています。

また、Disclosureと同時期の2010年代にUKクラブシーンでのハウス人気復活を牽引したBicepもこのテクニックを活用するアーティストです。2012年の「FEEL IT」の2:30~頃からは、マイナー7thコードをサンプリングしたサンプル・コードのフレーズを確認することができます。

コードの知識がなくとも簡単にコードフレーズを制作できるサンプル・コードは、指一本で感覚的にコード進行を作れるため、知識がないDTM初心者にとっては音楽制作を行う上で、非常に使えるテクニックです。しかし、その性質上、実際にコードの知識があって、しっかりとコード進行を考える場合と比較するとどうしてもコード進行制作の自由度は制限されてしまうというデメリットもあります。とはいえ、アイデア次第でよりメロディックなコード・フレーズを作ることももちろん可能です。

例えば、デトロイトハウスシーンの大御所アーティストのTheo Parrishは、キャリア初期の1998年にリリースした傑作ディープハウス曲「Ebonics」で、マイナー9thコードをサンプリングした1本指コードを活用することでメロディックなエレピフレーズを作成しています。ともすればシンプルになりがちなサンプル・コードによるフレーズですが、サンプリングするコードによっては、「Ebonics」のようにムーディーな雰囲気のコードフレーズが作れることもこのテクニックが未だに活用されている理由だと言えるでしょう。

もちろん、既存の音源からコードをサンプリングして、商用利用(音源リリース)する際には著作権に留意しましょう。今回紹介したテクニックを使いつつ、著作権に抵触しない方法としては、サンプリングしたコードをもとにフリーサンプルのコードワンショットに置き換えたり、自分でコードをMIDIで打ち込んで、それをオーディオファイル化して使うなどの方法があります。

上記を踏まえて、最後にサンプル・コードをDAWで実際にどのように使用するかについて、説明したいと思います。方法はいくつかありますが、筆者はAbelton Liveを普段から使っているので、同DAWを使った方法をひとつご紹介したいと思います。

今回は先述のNitro Deluxe「Let’s Get Brutal」のコードをサンプリングしてみたいと思います。サンプル・コードでコード進行を作る手順は以下のとおりです。

1. Nitro Deluxe「Let’s Get Brutal (Brutal Dub)」の音源を用意する

2. Ableton Liveのサンプラープラグイン「Sampler」をMIDIトラックで立ち上げる

3. オーディオトラックを立ち上げる

4. オーディオトラックをResamplingモードに設定し、「Let’s Get Brutal」のイントロのコードの頭の部分をサンプリング(もしくは元ネタのオーディオファイルでサンプリングした部分のみクロップする)

5. サンプリングしたコードのオーディオファイルをSamplerに入れる

6. Samplerを立ち上げたMIDIトラックでフレーズを打ち込む

この手法で2小節のInner City「Good Life」イントロ風のフレーズを打ち込むことができました。

また、Abelton LiveにはMIDIエフェクトで簡単に1本指コードを作成できるプラグイン「Chord」がありますが、そちらでも同様のサンプル・コードを使った打ち込みは可能です。

Chordには初期設定のプリセットが用意されていますが、コードの知識があれば、ユーザー側で色々なコードの設定を独自に作成することもできます。知識が身についた段階でこちらを活用してみるのも良いでしょう。

さらに下の動画ではアドバンステクニックとして、Chordとスケールを指定するプラグイン「Scale」を併用したり、マクロを使ってコードを切り替えながら打ち込む方法が解説されています。興味がある人はあわせてチェックしてみましょう。

DTMを始めたばかりでコードでつまずいている方は、一度サンプル・コードを使って、音楽制作してみてはいかがでしょうか?

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】

Sampled Chords – Attack Magazine
https://www.attackmagazine.com/technique/passing-notes/sampled-chords/

*オリジナル掲載先のSoundmainサービス終了により本サイトに移管(オリジナル公開日は2021.08.20)