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“メタバース”、“VRモジュラーシンセ”、バーチャル空間で広がる音楽クリエイターの可能性



昨年はコロナ禍の影響でバーチャルライブが勃興し、今年はNFTブームが音楽業界にも波及。最新のバーチャルテクノロジーに関連した音楽マーケットが、音楽クリエイターにとって新たな体験を生み出すきっかけや収益源になっていく可能性が高まっています。

昨年、人気オンラインゲーム『フォートナイト』で現行ヒップホップシーンを牽引するラッパーの1人であるTravis Scottがバーチャルライブを行ったことを皮切りに、これまでに様々なバーチャルライブが行われています。

そのTravis Scottのバーチャルライブ「Astronomical」は当時、1230万人にも及ぶ視聴者を集めたほか、ゲーム内で利用できるアバター用のコスチュームやアイテムの販売によりおよそ2000万ドル以上の利益を生み出すなど、コロナ禍により停滞せざるを得なかったライブエンタメシーンにバーチャルライブという新しい可能性を示したことで大きな話題になりました。

 

その後、フォートナイトでは、これまでにDiploやJ Balvin、米津玄師のような国内外の大物アーティストがバーチャルライブを行っているほか、今年8月には現行ポップスシーンを代表するスターシンガーのAriana Grandeもバーチャルライブを実施。彼女のバーチャルライブは5公演が行われたことから、累計ではTravis Scottを凌ぐ視聴者数を集めたことが予想されます。

 

 

 

フォートナイトは現在、世界の大手テック企業がプラットフォーマーになることを目指しているとされる“メタバース(ユーザーがデジタル・アイデンティティを保ったまま、さまざまなプラットフォーム、仮想世界を行き来できるという概念)”世界の構築に最も成功しているプラットフォームと言われています。その主な理由は、ユーザーが毎日ログインし、かつ、長時間に渡りゲームをプレイすること、ゲーム内でユーザー同士がコミュニケーションを取りあうこと、ユーザーが自分の分身となるアバターを使ってそのプラットフォームに参加することなどに、現実と対の世界となる“ミラーワールド(鏡面世界)”の要素が見出せるからです。

そうしたメタバース世界が展開されるプラットフォームとして、現在、NFTを活用した次世代ソーシャルVRプラットフォームの「Decentraland」が注目を集めています。仮想現実とブロックチェーンテクノロジーの融合によって生まれたDecentralandでは、ユーザーはバーチャル空間内に自分のマーケットやアプリケーションを構築するための土地区画である「LAND」を購入することができます。これらのデジタル資産はすべてイーサリアム・ブロックチェーンで管理されており、仮想土地であるLANDの所有権を明確にしています。また、LANDの所有者はLANDを利用してアイテムやコンテンツを作り、販売や二次取引により、収益化することもできる仕組みになっていることもDecentralandの特徴です。

音楽業界でもDecentralandに対する注目はにわかに高まりつつあり、今年7月には同プラットフォーム内でブロックチェーンをベースとした初のVR音楽&アートフェス「To The Moon」が開催されました。さらにこの8月にはここ日本でもDecentraland内に“グローバル文化都市トーキョー”を創り出し、国内外の様々なクリエイター、パートナー企業と事業展開を行う世界初のプロジェクト「メタトーキョー」の始動が発表されています。

このような流れから、今後はDecentraland内に購入したLANDを活用して、バーチャルライブハウスやフェス会場が建設されたり、その会場内でNFTアーティストグッズの販売が行われることなどが考えられます。そうなれば、メタバース世界と音楽業界の関係性はより深まることになるでしょう。

また、VRデバイスを使ったライブエンタメ体験では現在、ソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」を活用したバーチャルクラブシーンも盛り上がりを見せています。「VRChat」で楽しめるバーチャルクラブには国内のVR DJが手がける「Club Magenta」「GHOSTCLUB」「MONDAY_RELIEF」や、海外のVR DJが手がける「GRIME CANYON」「Club Loner」「Shelter」「HOM3」などの人気クラブが存在します。これらのバーチャルクラブでは世界各国のバーチャルクラバーが国境を越えて、オンライン上に構築された仮想空間の中に集い、現実のクラブさながらにアバターを使って音楽を聴きながらダンスを楽しんだり、会話を楽しむ光景が見られます。

この場所性に囚われないというバーチャルならではの特徴は、イベントの参加者だけでなく、アーティストにもプラスに働く要素です。このことに着目した日本のダンスミュージックレーベル/クリエイター集団のTREKKIE TRAXは、コロナ禍の影響で以前のように海外公演を行うことが困難な現状を受けて、今年7月に設立9周年を記念したワールドツアーをVRChat内で実施しました。この時は、先述の「Shelter」「Club Magenta」といった海外のバーチャルクラブや、VRで再現した渋谷に実在するclubasiaがワールドツアー会場になり、SNS上で大きな反響を獲得しています。

また、現在はVRを活用した様々な音楽クリエイティブツールの開発も進んでいます。これにより、今後、音楽クリエイターの音楽制作もバーチャル空間にあるメタバース世界で現実世界同様に行われるようになっていくかもしれません。

例えば、バーチャル空間でDJプレイを体験できるDJシュミレーションアプリはすでにいくつか発表されています。その中でも「Tribe XR」は、世界中のクラブで使用されているプロDJ御用達ブランドのPioneer DJとコラボレーションして、ハイエンドモデルのCDJである「CDJ-3000」やミキサーの「DJM-900 NXS2」のバーチャルレプリカを再現しています。

これらのハイエンドDJ機材は一式揃えると数十万円になるため、DJを始めたい初心者はおろか経験者にとって、欲しくてもなかなか手が出しづらい代物です。しかし、「Tribe XR」であれば、そんな高額な機材もわずか2990円で手に入り、すぐにバーチャル空間で利用することができます。

「Tribe XR」では、自分のコレクションしている音源を使ってのDJプレイのほかにBeatportのサブスクリプションサービス「Beatport LINK」にも対応しているため、その配信音源を使ってのDJプレイも可能です。さらに自分でDJプレイの練習や録音ができるほか、バーチャルインストラクターによるDJプレイのチュートリアルも用意されており、初心者でも基本的なDJテクニックを習得することができます。Tribe XRは、Qculus QuestやOculus Rift、Valve IndexのようなVRデバイスさえ持っていれば、ソフト自体の価格は手頃。とりあえず試しにDJを経験してみたい人から、すでに現実世界でDJ経験があり、VRでもDJをしてみたい人まで比較的気楽に導入できるVR音楽コンテンツだと言えます。

Tribe XR
https://www.tribexr.com/

DJだけでなく、実際にバーチャル空間で音楽制作をしてみたいクリエイターには、「Synthspace」のようなVRモジュラーシンセシュミレーションアプリがおすすめです。Synthspaceは、40以上のモジュラーシンセをVRで使用できるVRデバイスで、実際のユーロラック規格のモジュラーシンセのモジュールのようにケーブルを使ったパッチングを行えたり、自分の手の代わりにVRコントローラーを使ってノブをいじるなどの操作が行えるなど、まさにバーチャル空間で扱う仮想のモジュラーシンセになっています。

また、モジュール同士をパッチングするだけにとどまらず、実物のモジュラーシンセを使用する際と同じように、専用ケースに入れてシンセでラックを組んでいくこともリアルに再現されています。ちなみにモジュラーシンセは、「モジュラー沼」と言われることも少なくなく、一度ハマれば病みつきになる音楽クリエイターも少なくありません。しかし、ラックを組む場合は、複数のモジュールが必要になるため、それなりのコストもかかります。それだけに気軽に始めるのは難しいところがありますが、Synthspaceは3000円ほどでSTEAM版が購入可能です(今後、Qculus Quest版がリリース予定)。まずは実物のモジュラーシンセを購入する前のシュミレーションとして利用してみるのも良いでしょう。

Synthspace
https://synthspace.rocks/

現在はこのように、リアル世界以外にも音楽クリエイターがバーチャル空間で自身の表現を行える可能性が広がっています。今後、さらにテクノロジーが発展していけば、現実世界よりもバーチャル空間に特化した活動をメインに行う音楽クリエイターが登場することになるかもしれません。そうなれば、さらなる表現方法も続々と確立し、音楽の可能性もより多様化していくのではないでしょうか?

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】
https://digiday.jp/platforms/with-the-metaverse-hype-cycle-at-full-blast-experts-take-the-long-view/
https://variety.com/2020/digital/news/travis-scott-fortnite-record-viewers-live-1234589033/
https://www.udiscovermusic.com/news/ariana-grande-rift-tour-fortnite/
https://bae.dentsutec.co.jp/articles/metaverse/
https://coinrivet.com/worlds-first-vr-music-festival-on-ethereum-goes-live-this-sunday/
https://fisco.jp/media/mana-about/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000080.000017258.html
https://realsound.jp/tech/2021/06/post-785687.html
https://realsound.jp/tech/2021/07/post-813726.html
https://www.tribexr.com/
https://synthspace.rocks/

*オリジナル掲載先のSoundmainサービス終了により本サイトに移管(オリジナル公開日は2021.08.13)