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エレクトロミュージックとパンクロックの結節点、00年代リバイバルの中で再評価進む「ダンスパンク」とは

2020年代を迎えて以降、音楽シーンでは2000年代前後のメインストリームで人気を博していたエモロックやポップパンクのほか、同時期に人気を博していたダンスポップ、UKガラージといった音楽ジャンルの人気が再燃するY2Kリバイバルが加速しています。

これらの音楽は2020年代にオリジナルから20周年という節目の年を迎えることもあり、今後も若いアーティストたちの間で再評価や再解釈が行われることが予想されます。そんな中、これから新たに注目が集まるであろう音楽ジャンルが、現在、人気のY2K音楽と同じく2000年代にニューヨークでのムーブメントを起点に世界中で流行したロックの派生ジャンルであるダンスパンクです。

ダンスパンクとは、ポストパンクの派生ジャンルのひとつであり、ディスコパンクやテクノパンクとも呼ばれる、パンクやポストパンクのエネルギーとダンスフロアのリズムが融合した、ロックのサブジャンルのことを指します。

今回はダンスパンクがどのようにして生まれ、発展し、一時期の停滞を経て、2000年代に復活を果たしたか、その歴史を振り返っていきます。

 

ダンスパンクの音楽的な特徴

初期のダンスパンクは、ファンクやディスコからヒントを得て、ベースやドラムといったリズムセクションを前面に押し出したスタイルが目立ちました。ベースラインはドライブ感がありファンキー、パーカッションはダンスフロア向けの一定間隔で刻まれるビートが特徴ですが、一方、ギターはパンクの流れを汲む、唸るような大音量で鳴り響く音色になっています。また2000年代のダンスパンク・リバイバル期の楽曲は、重いリズムはそのままに、ギターをシンセサイザーに置き換え、ダンスミュージックの影響を受けたリズムパターンが用いられました。

1970年代後半~1980年代初頭:ダンスパンクの始まり

ダンスパンクのルーツとして知られるのは1970年代後半のアンダーグラウンドな音楽にソウル、R&B、ディスコ要素を加えたノーウェイヴやポストパンクのアーティストたちです。

初期のダンスパンクにおける代表的なアーティストであるGang Of Fourが1979年にリリースしたアルバム『Entertainment』には、ファンキーでメロディックなベースラインが印象的な「Damaged Goods」、タイトなボーカルがディスコ風のリズムを引き立てる「Return The Gift」など、このジャンルを定義することになる多くの要素が含まれた楽曲が収録されており、このジャンルの試金石と言えるアルバムになりました。

Damaged Goods

Damaged Goods

  • ギャング・オブ・フォー
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
Return the Gift

Return the Gift

  • ギャング・オブ・フォー
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

また同じ年にリリースされたJoy Divisionのアルバム『Unknown Pleasures』収録曲で見られたドライで静的なドラムのリズムパターンも2000年代のダンスパンク・リバイバル時の代表的な参考例となりました。

その他にもディスコ、アフロビート、R&Bを取り入れたTalking HeadsやJoy Divisionの元メンバーで結成されたNew Orderもこのジャンルの代表的なアーティストです。

1980年にTalking Headsがリリースしたアルバム『Remain In Light』では、ディスコビートとアフロビートが融合した「Born Under Punches」が収録されるなど、アルバム全体でこれまでのロックにはない独特のリズムの趣が表現されています。

Born Under Punches (The Heat Goes On)

Born Under Punches (The Heat Goes On)

  • Talking Heads
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

イタロディスコとエレクトロ要素を取り入れたNew Orderは、「Temptation」と「Everything’s Gone Green」といった初期の楽曲でダンス志向を打ち出しました。またこの時期のNew Orderの楽曲は、約4分程度が標準的な曲の長さとなっていた当時のロック曲よりも長尺になっており、よりダンサブルなグルーヴを追求したものになっていたことが特徴として挙げられます。

Temptation

Temptation

  • ニュー・オーダー
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
その他にも80年代初頭にはダンサブルなサウンドを採用し、人気を獲得したJames Chance and the ContortionsやLiquid Liquidといったニューヨーク拠点のノーウェイヴ系バンドも初期のダンスパンクに大きな影響を与えました。

1980年代~1990年代:ジャンルとしての人気は休眠状態に

その後、ダンスパンクは80年代にポストパンクの影響を受けた派生ジャンルのニューウェイヴの台頭により人気が衰退。また90年代にはノーウェイヴの影響を受けたグランジのほか、ヒップホップやハウスなど別の音楽ジャンルが人気を博したことで、長らくジャンルとしての人気は休眠状態に陥ってしまいます。

2000年代:ダンスパンクの復活と迎えた黄金期

しかし、2000年代初頭にダンスパンクは復活を遂げます。その理由として考えられているのが、90年代に人気を博したグランジやブリットポップなど当時のメインストリームを席巻していた人気ロックジャンルに若手ミュージシャンたちが倦怠感を覚えていたことなどが挙げられます。そのような状況からロックシーンでは1990年代後半にThe Strokes、The White Stripes、Black Rebel Motorcycle Clubなどに代表されるガレージロック、ポストパンク・リバイバルが勃興。そこから派生的にダンスパンクを取り入れたLCD SoundsystemやThe Raptureをはじめ、Liars、Yeah Yeah Yeahs、Death from Above 1979、The Faintなどが登場したことで、ダンスパンク人気が再燃しました。

特にThe Raptureの代表曲「House Of Jealous Lovers」は、当時、The Strokesが牽引し、音楽シーンに定着しつつあった、新しいニューヨーク発のガレージロック・リバイバルにフィットしていたことで、ダンスパンク・リバイバル初期を代表する曲になりました。また音楽性の面では、LCD Soundsystemのベースが入ることでボーカルが始まり曲が大きく展開する楽曲構成や、Death from Above 1979のダンサブルなリズムとパーカッションに乗せて歌われる楽曲構成もこの当時のシーンの象徴的なスタイルとして知られています。

House of Jealous Lovers

House of Jealous Lovers

  • ザ・ラプチャー
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
Beat Connection

Beat Connection

  • LCDサウンドシステム
  • ポップ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
Romantic Rights

Romantic Rights

  • Death from Above 1979
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
2000年代におけるダンスパンク・リバイバルの黄金期は、2001年~2007年と言われています。その間にこのジャンルはニューヨークを拠点に世界中に広がり、イギリスではFranz Ferdinandの「Take Me Out」やBloc Partyの「Banquet」といった世界的なスマッシュヒットが生まれたほか、オーストラリアのCut CopyやThe Presets、Van She、ベルギーのSoulwaxなどが、世界的な知名度を得ました。
Take Me Out

Take Me Out

  • フランツ・フェルディナンド
  • ポップ
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes
Banquet

Banquet

  • Bloc Party
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

2000年代半ば:ニューレイヴの登場

またダンスパンク・リバイバルは、2000年代半ばから後半にかけて、イギリスでニューレイヴという派生ジャンルも生み出しました。サイケデリック、レイヴ、インディーロックなどをミックスした音楽性が特徴のこのシーンからはKlaxons、Late of the Pier、Shitdisco、New Young Pony Club、 Hadouken!、CSSといったアーティストが登場しました。

Golden Skans

Golden Skans

  • Klaxons
  • エレクトロニック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

しかし、ニューレイヴは、若者の間で人気を博す一方で実際の音楽ムーブメントではなく、メディアによって作られたヒップスター的なムーブメントとみなされている部分もあり、批評家の中には、当時から90年代のレイヴカルチャーと同じくすぐに廃れてしまう「ユースクエイク(若者の行動や影響から生ずる著しい文化的、政治的、社会的変化)」と冷ややかに見る向きもありました。とはいえ、ダンスパンク・リバイバルやニューレイヴは当時クラブシーンで人気だったエレクトロハウスとも深く結びつき、クラブとライブハウスを繋ぐ数々の名リミックスも誕生しています。

2010年代:ブーム後のダンスパンクの影響

2000年代のダンスパンク・リバイバルはわずか10年にも満たない短命なものでした。しかし、そのパンク、ガレージロック、アシッドハウス、ダンス、ディスコが渾然一体となったサウンドの影響はここ日本にも届き、ブームの後期にはサカナクションやthe telephones、80kidzといったアーティストが登場しています。

セントレイ

セントレイ

  • サカナクション
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
I Hate DISCOOOOOOO!!!

I Hate DISCOOOOOOO!!!

  • the telephones
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

またEDMとヒップホップが人気ジャンルとなった2010年代には、ダンスパンク的なアプローチのバンドは世界的にも少なくなったものの、ダンスパンク・リバイバルの最中にデビューしたFoalsや2010年代にデビューしたThe 1975は、その影響を受け継ぎながらロックとダンスミュージックが融合した音楽性で根強いファンを獲得。現在でもロックシーンの最前線で活躍しています。そのほかにも2010年代にはViagra Boys、Iceage、Geeseといったポストパンクやダンスパンクの影響を受けたアーティストが登場しています。

The Sound

The Sound

  • THE 1975
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
Sports

Sports

  • Viagra Boys
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

2010年代後半~現在:ダンスパンク復活の兆し

さらに2010年代後半から2020年代初頭にかけて、各種メディアによって「クランクウェイヴ」(NMEの記事)や「ポストブレグジット・ニューウェイヴ」(nprの記事)などの呼び名が提唱されるBlack Midi、Squid、Black Country, New Road、Dry Cleaningといったポストパンクの新世代バンドがイギリスで登場することになります。

さらに最近ではノルウェー出身のgirl in redや日本のバンド・鋭児といった2000年代のダンスパンク・リバイバルのアーティストにも通じる音楽性を持つ新鋭アーティストにも注目が集まり出したことで、今後は現在のY2Kリバイバルブームの次の展開として予想されるダンスパンク人気の再燃もにわかに現実味を帯びてきたように思います。

ダンスパンクの制作TIPS

最後にダンスパンクをDTMで制作する上で参考になるTIPS動画をいくつかご紹介したいと思います。

How to make post-punk | FL Studio Tutorial

ポストパンク風の曲の作り方を解説する動画。イントロやバースなどのドラムの打ち込みパターンを始め、ベースライン、メロディ、コードの打ち込みパターンなどが紹介されています。

How to Make Post-Punk Beats in FL Studio

ポストパンク風のドラムパターンの打ち込み方を解説する動画では、ポストパンクやダンスパンクで用いられる疾走感のあるドラムの打ち込み方が紹介されています。

Create Distorted Guitar Riffs without having to play Guitar

ダンスパンクに最適なディストーションによる歪んだギター音色の作り方を解説する動画です。こちらはソフト音源を使ったものになっているため、本物のギターを持っていない人でギターの音を取り入れたい人におすすめです。

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】

https://www.masterclass.com/articles/dance-punk-music-guide

https://www.avclub.com/all-that-sass-the-albums-that-define-the-00s-dance-pu-1798248825

https://thesorryscholar.com/2019/02/21/burn-the-dancefloor-the-raucus-history-of-dance-punk/

https://www.theguardian.com/music/2006/oct/13/electronicmusic.popandrock

https://www.nme.com/blogs/nme-blogs/mark-words-welcome-crank-wave-start-subculture-revival-2545963

https://www.npr.org/2021/05/06/993931617/new-wave-post-punk-brexit-squid-dry-cleaning-black-country-new-road

*オリジナル掲載先のSoundmainサービス終了により本サイトに移管(オリジナル公開日は2022.11.07)