9/28にクラブシーンにおける由緒正しい名物DJ Mixシリーズ「Fabriclive」が、ついに100作目『Fabriclive 100』 のリリースをもって終了します。その優秀の美を飾るMixを担当するのが、Burial(ブリアル)とKode9(コードナイン)というUKベースのパイオニアの2人。Mixの発売元のFabricといえば、ロンドンを代表する世界に名だたる名クラブなのですが、その最後をロンドンサウンドの代表格である00年代後期に”ダブステップ”のカリスマとして、シーンで頭角を現した2人が担当するのはなんとも感慨深いものがあります。
BurialとKode9による『Fabriclive 100』前哨戦DJ Mix
『Fabriclive 100』リリースが今年8月に発表された際には、普段は滅多なことでは招待を晒すことがない謎のアーティスト筆頭とも言えるBurialが、超絶久しぶりに自身の素顔を披露したことも話題になりました。またBurialとKode9の2人が揃ってDJ Mixを発表するのは、2010年に提供したBBC Radio1でのMary Anne Hobb(メアリー・アン・ホッブズ)の番組以来だけあって、ファンとしては否が応にも期待が高まってしまいます。
そんな期待しかない『Fabriclive 100』なのですが、その発売を祝しBBC Radio6が、2人によるその前哨戦的Mixを公開。現在は、BBC Radioで期間限定でアーカイヴ音源として配信中なのですが、これがすごく良いです。
日本のジューク/フットワーク代表D.J.Fulltonoの曲も使用
DJ Mixは、3ジャングル、ジューク、フットワーク、グライムといったベースミュージック系からトランス、90sハードコア、果ては最近、Major Lazerも新作で取り入れた新世代アフロハウスのGqomまでをごった煮でMixしたものになっていて、尺は30分とDJ Mixとしては比較的に短いものながら、疾走感抜群で聴きごたえがあるものになっています。
使用されている曲は、Speedy J、DJ Lag、Jlin、PC MusicのSOPHIEなどから、日本のジューク/フットワークシーンを代表するD.J.Fulltonoの「Baby Je Kajoo」までといった感じです。
伝わってくる『AKIRA』的近未来SF”NEO TOKYO”感
全体的にDJ Mixから聴こえてくるビートのパターンは先述のとおり、バリエーション豊かで、うまい具合にセンス良くまとめているのはさすがだなと思います。それとMixの中盤、大体11:30くらいからのサイケデリックトランスなBattle of The Future Buddhas「The Other Way Around」終わりの芸能山城組感があるトライバルアンビエント曲Chi AD「When The Effect Came」(ジャンル的にはゴアトランス系のアーティストだそう)の流れに対して、個人的にものすごく近未来SFアニメ『AKIRA』っぽい”NEO TOKYO”を感じるため、「こいつら本当に、そっち系の日本のアニメ好きで影響を受けているんだな」と思ってしまいました。
これについては、文章ではうまく伝わらないかもしれませんが、実際に聴いて頂けたらなんとなく私が言わんとすることはご理解して頂けるかなと思っておりますので、気になった方はまずは一度、このDJ Mixをご試聴をば。
なお、DJ Mixのトラックリストは下記のとおり。
Burial and Kode9 - World Exclusive Mix
Track Listing:
Eternal Basement - Woy
Orca - 4am
Acen - Trip To The Moon 1 & 2
DJ Biz - Losing Track Of Time
RJ - You Are My Destiny
Sleep Research Facility - Stealth 4
Speedy J - Terre Zippy
Section X - Galaxian
Battle Of The Future Buddhas - The Other Way Around
Chi AD - When The Effect Came
DJ Phil - Godz House
JLin - Annotation
DJ Hank - Be Happy
Fulltono - Baby Je Kajoo
Danny Breaks - Dropping Science Vol 1 ( Phillip D Kick Edit )
Scratchclart - Drm Walk
DJ Lag - Gqomwav
Sophie - Faceshopping
Burialの謎を解き明かすマニアック度高めな解説動画
あと謎多きBurialについて簡潔に解説した動画も一見の価値あり。RAが昨年、彼の代表作『Untrue』発売10周年のタイミングで公開したものなのですが、日本語字幕付きのため非常にわかりやすいです。
ちなみにこの動画の内容で面白かったのは、まずBurialは『Untrue』をたった2週間で制作したことで、しかも使った制作ソフトがLogicやAbleton Liveのような有名DAWではなく、Sound Forgeという波形編集ソフトを使用していた点です。それが彼の独特なリズムの正体で、それが故にDJが彼の曲をMixしにくいという理由だったそうな。ちょっとJ Dilla(J・ディラ)でいうところのビートのヨレみたいなものなのかなと思いました。
『Untrue』では素人がYouTubeにアップした動画からもサンプリング
またBurialの『Untrue』といえば、「Archangel」などのソウルフルで幽玄性すら感じるピッチシフト声ネタが有名ですが、それはR&B系音源からのサンプリングなのはすでによく知られているかと思います。余談ですが、ちなみに収録曲「Untrue」の声ネタは、Beyoncé(ビヨンセ)の2006年のアルバム『B’Day』収録曲の「Resentment」だったりします。
しかしながら、この動画ではさらにその声ネタサンプリングを深く掘り下げており、「Etched Headplates」のサンプルは一般的にはAmanda Perezの「Angel」だとされていますが、実は、素人がその曲をカバーしてYouTubeにアップしたものをサンプリングしているとのこと。しかも録画に使われたのは安いウェブカムで撮られたものだったそうな。
そのナチュラルにLo-Fiなサンプリングソースが独特の質感を出しているのは、曲を聴いているとなんとなくわかるのですが、Burial自体はハードコアYouTubeディガーで、彼にとってはネタ元の音質は関係なく、音の感情的要素が全てだそうです。カッコいいな、おい!
YouTubeからのサンプリングがLo-Fiハウスに影響を与えている説
そしてここからが、この動画の最も個人的に興味深い点で、そのスタンスが現在人気のLo-Fiハウス勢に影響を与えているという論説。例としてDJ BoringによるLo-Fiハウス界隈の金字塔的曲「Winona」が挙げられているのが面白いです。
というのも「Winona」の声ネタは、YouTubeにアップされていた90年代のウィノナ・ライダーのインタビューからサンプリングしたものだということがこの論拠になっていると思われるからです。まあ、確かにプロセスで言えば一緒なんで、別に否定もしないのですが、ちょっとクラブミュージックシーンにおける都市伝説的解釈だなとも思います(笑)。
ちなみにDJ Boring自体は、ウィノナ・ライダーのインタビューをサンプリングした理由について、彼女が出演するNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス』を、制作当時よく観ていたからだとしています。
なお、動画の最後には未だ『Untrue』などのBurialクラシックで使用された細かいサンプリングを調べることに精を出すナードすぎるオンラインフォーラムがあることにも触れられていることなどからもBurialは、未だにカルトスターとしても人気だということがわかります。その証拠にこんなパロディー動画も。
雑なパロディーっぷりに逆にシビれます。以上、お後がよろしいようで。
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