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人気再燃中の「UKガラージ」とは? 有名アーティストによるおすすめ制作チュートリアル動画をご紹介

先日、音楽ライブ配信プラットフォーム「Boiler Room」で配信されていたマンチェスターを拠点に活動するUKガラージシーンの新鋭DJ/プロデューサー・SaluteのDJセットを視聴したのですが、これが非常に素晴らしい内容でした。

この配信はオーストリア・ウィーンから行われたものですが、Boiler Roomによると、同プラットフォームが同地からライブ配信を行うのはコロナ禍以来、実に18ヶ月以上ぶり。そのせいもあってか、配信中に映る観客の様子もすごく楽しそうに見えました。

 

そんなムードを呼び起こしたSaluteのDJセットは、シーンの新鋭らしくやはりUKガラージを中心にしたもの。新旧織り交ぜたセットでしたが、個人的にはSaluteがプレイする彼のオリジナル曲「Want U There」というフレンチタッチなフィルターハウスを彷彿とさせる曲を聴いたことで、その配信から目を離せなくなり、配信終了直後から何度もそのセットをリピートしてしまいました。

DJセットでは他にも、別のSaluteのオリジナル曲や、90年代にUKガラージシーンに多大な役割を果たしたTodd Edwardsの曲もプレイされました。Todd Edwardsとも縁が深いDaft Punkの曲や、そのDaft PunkがTodd Edwardsとともに名曲「Teachers」でかつて自分たちに影響を与えた“先生”の1人として名前を挙げた、シカゴハウスの重鎮で今月亡くなったPaul Johnsonの名曲「Hear The Music」なども。こうした内容は見方によってはUKガラージとハウスの関係性を繋ぐものとも言え、そういった文脈を大切にしながらのDJプレイは、やはり興味深いものがあります。

少し脱線してしまいましたが、UKガラージといえば、日本でも今春、ジャニーズの人気グループ・Sexy Zoneが「RIGHT NEXT TO YOU」でその要素を取り入れたとして、MVが公開されるやいなや音楽ファンの間で大きな話題になったことは記憶に新しいところ。

そんなUKガラージの詳しい歴史に関しては、「RIGHT NEXT TO YOU」のMVが公開された当時、Soundmain Blogでも取り上げているため、今回は省かせていただきますが、少しだけ説明を加えると、実はUKガラージ人気の復権は90年代に同ジャンルが成立して以降、たびたび起こっており、直近では2018年頃から再び、その人気がクラブシーンで再燃しています。

 

2018年に公開されたRed Bullの「UKガラージ復活の理由」という記事によると、今やイギリスが誇るポップスターの1人となったJorja Smithが2017年にバーミンガムのガレージシーンの重鎮Preditahと組んで「On My Mind」をリリースして大ヒットさせたことなどが人気再燃の一因と見られてはいるものの、それに加えて、信頼できる新世代のUKガラージプロデューサーにより、新しい音楽がようやく生まれるようになったことも理由だといいます。

ちなみに新世代のUKガラージについて、DJクルー・24 Hour Garage GirlsのメンバーShoshは、「(UKガラージという言葉は)今ではオールドスクールなルーツを取り入れながら、ベースハウス、ベースライン、UKファンキーを組み合わせたような、様々なクールなサウンドを指すようになっている」と説明しています。また、旧世代のプロデューサーと新世代のプロデューサーの繋がりが強まったことなどもUKガラージ人気の復権の理由として挙げています。

そのようなシーンの新しい動きが見られる中、2019年には2000年代に『Burial』(2006)、『Untrue』(2007)という2枚のUKダブステップの名盤をリリースしたBurialが、自身のルーツでもあるUKガラージに立ち返った「Claustro」をリリース。

また、同年にはBurial以降のダブステップ、ポスト・ダブステップ期にシーンに登場したJoy OrbisonとOvermonoがコラボプロジェクトの「Joy Overmono」として、UKガラージの変異種的なインダストリアルなトラック「Still Moving」をリリースするなど、本家のシーン以外にも徐々にUKガラージ人気の復権を感じさせるものが登場するようになりました。

さらに同年には先述のSaulteもデビューアルバム『Condition』をリリースしています。同作は、Mount KimbieとFloating Pointsといったポストダブステップ期を代表するアーティストのサウンドとUKガラージを融合させたかのような内容で、多くの音楽メディアからも高く評価されました。

そして、コロナ禍により音楽業界全体が停滞した2020年を経た今年、Joy Orbisonが“UKガラージやダブステップなどを筆頭にUKアンダーグランド・ミュージック・シーンを凝縮させた”という自身のキャリア初の長編作品『still slipping vol.1』をリリース。

先述のOvermonoもレイヴとUKガラージを融合させた「So U Kno」をリリースしたほか、UKガラージに影響を受けたサウンドをメインストリームのポップスシーンに持ち込んだDisclosureもUKガラージスタイルの楽曲を収録した新作EP『Never Enough』をリリースするなど、ここに来て再びUKガラージ要素を取り込んだ楽曲が次々にリリースされています。

このような状況を考えると、トレンドに敏感な音楽クリエイターにとっても、改めてUKガラージの制作方法は気になるところではないでしょうか?

というわけで、ここでUKガラージ制作のヒントとなるトラックを構成する2つの重大要素、ベースラインとビートの特徴について、簡単に説明したいと思います。

ベースライン
UKガラージの特徴のひとつとしてよく挙げられるのは、サブベースが効いた強烈なウォブル系のベースラインです。そういったベースラインは、最近ではNative Instrumentsの「Massive」やXfer Recordsの「Serum」を使って制作されることが多くなっています。

ビート
UKガラージのビートのBPMは、およそBPM130前後が基調となっています。また基本となるビートには、4分音符で規則的にキックが打たれる4つ打ちの「4/4」と、四つ打ちに対し、シャッフルや3連符を用いた変則的なリズムの「2ステップ」があります。これらのビートは重低音が効いたキック、強力なスネアのほか、ハイハット、シンバルを基本としたドラムキットで構成されます。

有名アーティストによるUKガラージ制作スキルが学べるチュートリアル動画もいくつかご紹介したいと思います。

まず、DisclosureによるオールドスクールなUKガラージのビートパターンに特化したチュートリアル動画と、UKガラージトラック全体の制作チュートリアル動画は必見です。

UKガラージのスーパーグループ「TQD」のメンバー、FlavaDによる制作のプロセスを紹介するチュートリアル動画では、ビート、ウワモノとして使うコードを使ったリフ、オートメーションを使ったトラックのアレンジ方法などが解説されています。

UKガラージのレジェンドプロデューサーの1人であるMJ Coleが2019年にリリースした「Serotonin」のセッションファイルを元にしたチュートリアル動画では、ビート、ベース、シンセなど基本的な曲構成だけでなく、コンプレッサー、EQなどのエフェクトの使い方など彼のトラック制作における細かなスキルまで解説されています。

UKガラージにはかつて、その“パーティーすぎるサウンド”が揶揄されてきたという歴史もありますが、DisclosureのGuy Lawrenceは、UKガラージ要素を取り入れた新作EPについて、「ここ1年半の間に世界中で明らかに大きく変化し、非常に分裂した不確かなダンスミュージックシーンとクラブカルチャーを活性化させたいという想いから同作を制作した」と述べています。イギリスのように約1年半にも及ぶロックダウンを経験したシーンであれば、UKガラージが象徴するパーティーサウンドが今、また求められるのも不思議ではありません。冒頭紹介したSaluteのDJセットも、現在ワクチン接種が進んだことにより、フェスやクラブシーンが再開しているヨーロッパシーンのそんなムードを反映したかのような、多幸感あふれる内容でした。

こうした背景もあって、再び注目が集まっているUKガラージ。気になった人は本稿でご紹介したチュートリアル動画を参考に、オリジナルのUKガラージ曲を制作してみてはいかがでしょうか?

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】
https://boilerroom.tv/session/vienna
https://www.redbull.com/jp-ja/uk-garage-revival-2018
https://djmag.com/news/disclosure-release-new-singles-every-day-week-hear-my-arm

*オリジナル掲載先のSoundmainサービス終了により本サイトに移管(オリジナル公開日は2021.08.27)