letter music

日々更新される音楽情報を雑談を交えて文字化するWebzine

Kendrick Lamar「The Heart Part 5」を手がけたプロデューサー、Beach Noiseについて調べてみた

先月は従兄弟でグラミー賞も獲得した若手ラッパーBaby Keemとコーチェラで共演。さらに2017年のアルバム『Damn.』に続く、5年ぶり5枚目となる最新アルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』を5月13日にリリース予定であることを明らかにしていたKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)が、最新曲「The Heart Part 5」をサプライズリリースしました。

Kendrick Lamarにとって、ソロ名義では2018年以来初のリリースとなる同曲のプロデュースは、LAを拠点とするプロデューサー/ソングライタートリオのBeach Noise(ビーチ・ノイズ)が担当。

作曲にはKendrick Lamarの他にBeach NoiseのMatt Schaeffer(マッツ・シェーファー)とJohnny Kosich(ジョニー・コーシッチ)とJake Kosich(ジェイク・コーシッチ)の3人に加え、元ネタ「I Want You」の作曲者であるArthur Ross(アーサー・ロス)とLeon Ware(リオン・ウェア)がクレジットされています。それと楽器奏者として、『Damn.』にもクレジットされているプロデューサーのBekonとKyle Milleが参加していることが明らかになっています。

「The Heart Part 5」のサンプリングネタは、Marvin Gayeの1976年のヒット曲「I Want You」。ちなみに今回のリリースは、あるRedditユーザーが偶然にも、Spotifyがこの曲のリリースを早く発表したとされるスクリーンショットを共有したことから、その存在が明らかになり、ネット上で噂になっていたそうな。

そんな「The Heart Part 5」を手がけたBeach Noiseって、どんなプロデューサーなんだというのが今回の主題なんですが、実際に自分はそんなに彼らに対する見識がないというか...。

そういやBaby Keemの去年のアルバム『The Melodic Blue』にも参加プロデューサーとしてクレジットされていたな〜くらいの印象しかなかったので、ちょっと調べてみたら実は自分が好きなところともリンクしていたことが発覚。なんとロンドン北西部カムデンのミュージシャン・Bakar(ベイカー)の楽曲も手がけているようです。

Badkid

Badkid

  • Bakar
  • オルタナティブ
  • ¥1681
The Melodic Blue

The Melodic Blue

  • Baby Keem
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1833

しかも、Hallwood Mediaというプロデューサー/ソングライターのマネージメント会社のロスターページによると、Kendrick Lamarの次回作も手がけているようなことが書いてあるという...。全く知りませんでしたわ...。

hallwoodmedia.com

ちなみに彼らのプロデュースワークの特徴は、独自のサンプリング能力とハードなドラムとのこと。サンプリングセンスはさておき、「The Heart Part 5」に関しては曲調のせいか、個人的にはそこまで"ハードなドラム"を感じなかったので(PCの内蔵スピーカーで聴いただけだから?)後で先述のロスターページに代表作のひとつとして挙げられていたBakarの「Hell N Back」(サンプリング元ネタは1967年のRobert Parker 「I Caught You in a Lie by)も聴いて、確認してみたいと思います。

youtu.be

追記:Hallwood Media上にあるBeach Noiseのロスターページに書かれている"ハードなドラム"の定義が、単純にキックの重さなのか、それとも激しいブレイクビーツなのか、ぶっちゃけよくわからない...。ただ、Bakarの「Hell N Back」は、特にイントロのキックが結構ずっしり聴こえるのでそういう意味では"ハードなドラム"使いなのかもなと。

「The Heart Part 5」 に関しては、元ネタの「I Want You」をビートのパターン含めて結構モロ使い(特にイントロくらいのリフ)しているのですが、キックを重ねることで原曲よりもボトムヘヴィーにしている印象を受けました。

I Want You (Vocal)

I Want You (Vocal)

  • マービン・ゲイ
  • R&B/ソウル
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

ちなみに先述の「Hell N Back」も原曲の「I Caught You In A Lie」と聴き比べてみたところ、モロ使い+キックを重ねてボトムヘヴィーにした系。

Caught You In a Lie

Caught You In a Lie

  • Robert Parker
  • R&B/ソウル
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

そういう意味では打ち込みベースの最近のトラップやUKドリルではなく、オールドスクールなサンプリングベースのヒップホップトラック(キックの音がデカい系)のトラックメイキングが、Beach Noiseの得意分野であり、それが"ハードなドラム"というシグネーチャーサウンドになっているような気もしました。

自分は普段、ベースミュージックや鬼のようなアーメンブレイク、ガバキックがガンガン鳴るような曲も聴くので、それと比較すると"ハードなドラム"の定義がよくわからなくなっている。そんな風に思いました(汗)。

ちなみに今月来日するUKの人気DJ、SherelleのこのDJ Mixは文字通り、自分が思う"ハードなドラム"の曲ばっかり。わかりやすいです(笑)

soundcloud.com


それとこれは余談ですが、Beach Noiseメンバーは全員バークリー音楽大学出身のマルチインストゥルメンタリストで所謂音楽エリートの模様。また"アイデアを始めるためのバイブスとして、未完成状態のビートスケッチ50個分を共有できること"がプロデューサー/ソングライターとしてのセールスポイントのようです。はてさて『Mr. Morale & The Big Steppers』ではどれくらいの曲を手がけているのでしょうか? 気になるところです。

最後に「The Heart Part 5」に関してですが、同曲は現在、昨年Kendrick Lamarとともに会社「pgLang」を共同設立したDave FreeとKendrick Lamar自身が監督を務めたMVも公開中。このMVでは、ラップするKendrick Lamarの顔がディープフェイク技術により、OJ Simpson、Will Smith、Jussie Smollett、Kanye West、Nipsey Hussle、Kobe Bryantなどの顔に変化していくところがすでにSNSで大きな話題になっています。

youtu.be

またリリックはMVでKendrick Lamarが変身する人物とマッチ。例えば、Kanye Westの時は双極性障害、Nipsey Hussleの時は殺人についてという感じです。

「The Heart」シリーズは2010年にスタートしており、Kendrick Lamarが同シリーズの楽曲をリリースするのは2017年3月にリリースされた「The Heart Part 4」以来となります。

ちなみに「The Heart Part 4」のサンプリングネタは、James Brownの「Don't Tell a Lie about Me and I Won't Tell the Truth on You」とFaith Evansの「I Love You」。それとKhalidがノンクレジットながらボーカルとして、フィーチャーされています。

youtu.be

「The Heart Part 5」が収録される予定の『Mr. Morale & The Big Steppers』は、Kendrick Lamarにとって、TDEでの最後のアルバムとなることが以前から報告されています。とはいえ、現時点ではまだこのプロジェクトの詳細は明らかになっておらず、謎が多いのも事実。
*5/13 追記
「The Heart Part 5」は、『Mr. Morale & The Big Steppers』には収録されず。

Mr. Morale & The Big Steppers

Mr. Morale & The Big Steppers

  • ケンドリック・ラマー
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2139

ただKendrick Lamarは、最近自身のウェブサイト「Oklama」で2枚のCDRの写真とアルバムと同名の書籍の画像を公開しています。ちなみにそれぞれのCDRには "Morale "、"Steppers"と書かれており、どちらのCDRにも "master copy"と書かれており、このことから『Mr. Morale & The Big Steppers』は、2枚組になると予想されています。

ぶっちゃけ、自分はトラックメイカー出身なのでリリックなりフロウが重要なヒップホップ曲でも大概トラックでその仕上がり具合を判断してしまいがちです。なので、トラックの感じを軸に「これはイケてるヒップホップ曲だ」と判断することも少なからずあります。

ただ、コンシャスなラップで知られるKendrick Lamarのようなラッパーの場合は、やっぱりリリックの意味もちゃんと理解しないといけないよなと思うのも事実。一方で、そのためにはそれなりに英語力に加え、そのコンテキストを読み解く力というか、ヒップホップIQも高くないと真にその曲が伝えようとしていることを理解することが難しいから、時々「理解するにはすごくハードル高いな」と思うこともあります。

特に自分は
英語のラップを完璧に聴き取れて、かつすぐにその意味を理解できるほど、リスニング力に長けているわけではないで、単に聴いているだけではなかなか曲の本質? みたいなところまで理解するのは難しいです。

そういうこともあって、Geniusの"職人"たちが投稿する曲に関するトリビア的な投稿は非常に参考になるので、話題の曲がリリースされた時はいつも楽しみにしています。

そんなわけで『Mr. Morale & The Big Steppers』がリリースされる今週末は「The Heart Part 5」含め、収録曲を噛み砕くことに時間を費やすことになりそうです。

以上、お後がよろしいようで。

追記:
ちなみにGenius職人によると、「The Heart Part 5」の大きなテーマのひとつは、"他者の視点を取り入れる"ということ。これはMVの冒頭で表示される"I am. All of us."というテロップが暗示していることだそうです。

ちなみにこのメッセージとリンクする"Life is perspective"というタトゥーが、Kendrick Lamerの右腕に入っているそうな。

genius.com

それとGenius職人の投稿は英語なので読むのがめんどくさいという人には、udiscovermusic.jpのこの記事がおすすめです。

www.udiscovermusic.jp

アルバム『Mr. Morale & the Big Steppers』のタイトルは、「士気を上げるリーダーと麻薬の売人」。ひとつの人格に宿る二項対立をタイトルにしているのが、いかにもケンドリックらしい。

「The Heart Part 5」だけでなく、アルバム自体にも触れる内容になっているので、勉強になります。

▶︎あわせて読みたい

Source:

https://hallwoodmedia.com/roster/beach-noise/
https://www.hotnewhiphop.com/kendrick-lamar-returns-with-surprise-single-the-heart-part-5-new-song.1994592.html
https://pitchfork.com/news/kendrick-lamar-shares-new-song-the-heart-part-5-listen/