先日、UKダンスミュージックシーンのリビングレジェンドAndrew Weatherallの訃報が報じられた矢先、今度は今後のヒップホップシーンを担う、新鋭ラッパーPop Smokeの訃報が…。
新鋭ラッパーPop Smokeが銃撃を受け、わずか20歳で亡くなる…
TMZが報じるところによるとPop Smoke(ポップ・スモーク)は、LAのハリウッドヒルズの住宅に侵入してきた強盗2人組により複数回銃撃を受け、それが原因で亡くなったとのこと。まだ20歳で先が楽しみなラッパー、というか今年本格的なブレイクが見込まれていただけになんとも複雑な気持ちです…。
*Pop Smokeが被害にあった住宅はFOXの報道によるとAirbnb物件だったとのこと。
若手ラッパーの訃報でいえば記憶に新しいのが昨年のJuice Wrld。彼は21歳で亡くなりましたが、Pop Smokeはまだ若干20歳。近年、今後のヒップホップシーンを担う存在だったXXXTentacion(XXXテンタシオン)、Lil Peep(リル・ピープ)も20歳そこそこで亡くなっており、音楽業界における夭折を表す隠語”27Club”の若返りが特にヒップホップシーンで進んでいるのはホント、いかがなものか。
今、挙げたラッパーの死因はPop Smoke含めて、薬物2件、銃撃2件というのもなんとも社会的な問題を感じるのも悲しいです。
『Meet The Woo2』をリリースしたばかりだった...
Pop Smokeといえば、今月最新ミックステープ『Meet The Woo2』をリリースしたばかりで、そのデラックスエディションにはGunna(ガンナ)やPnB Rock(PnBロック)らも参加と、元々の Quavo(クエイヴォ)、A Boogie Wit da Hoodie(エイ・ブギー・ウィット・ダ・フーディ)、Lil Tjay(リル・ティージェイ)らが参加していたミックステープをまさに言葉どおり”デラックスエディション”化していたことも話題になりました。
個人的にPop Smokeを最初に知ったのはTravis Scott(トラヴィス・スコット)主宰レーベル「Cactus Jack Records」のコンピ『JackBoys』収録曲「Gatti」で、そこから後追いでデビューミックステープ『Meet The Woo』を知りました。
同ミックステープの中からは「Welcome to the Party」がスマッシュヒットし、 Nicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)やUKのグライムMCのSkepta(スケプタ)もリミックスしていました。
ちなみに昨年のロンドンでのPop SmokeのライブではSkeptaの代表曲「Shutdown」を披露する一幕も下の動画の18:00~くらいから観ることができます。
UKドリルとPop Smokeの蜜月
またPop Smokeはヒップホップのサブジャンルの中でも”ドリル(Drill)”というサブジャンルにカテゴライズされているラッパーで、出身地のブルックリンを冠した"ブルックリンドリル"に属するラッパーと海外メディアで表記されることが多いのですが、興味深いのがこのブルックリンドリルは、オリジナルのシカゴドリルよりもイギリスのUKドリルシーンとの縁が深く、そのサウンドをヒントにしていると指摘があることです。
そのため、ブルックリンドリルのビートはUKドリルのプロデューサーが手がけることもあり、この界隈ではロンドンのAXL Beats、808Meloといったプロデューサーたちが特に重宝されている模様。AXL Beatsによるブルックリンドリルの有名曲が下の「Suburban」。
実際にPop Smokeも808Meloのビートを採用していて、先述の『Meet The Woo』収録曲のほとんどが808Meloのビートになっています(『Meet The Woo 2』でもいくつかの曲のビートを808Meloが手がけています)。
レイヴの”残響”に影響を受けたUKドリル
興味深いのはUKドリルの特徴。このジャンルのビートは、これまでのUKのダンスミュージックの伝統とでもいいましょうか? 様々なジャンルの要素を含んでいることが特徴になっています。
Stereogumによると、UKドリルにはダンスホール、ハウス、ハードコア、テクノ、ジャングル、UKG、グライムのようにパイレーツラジオを通して広がってきたUKのジャンルの影響がみられるそうです。
そのためUKドリルは、極太キック、悲しげなピアノ、銃声サンプルなどシカゴ・ドリルに見られた要素にメロディックかつウォブルなベースライン、アンビエントなウワ音のようなレイヴっぽい要素が加えられたサウンドが特徴で、USヒップホップにはなかなか見られないものになっているとのこと。
ちなみにその特徴がわかりやすく現れたのが先述の808Meloが手がけた「Welcome to the Party」だと思います。
それが故に新しいもの好きのPop Smokeのような若いブルックリンドリルのラッパーたちを刺激したのでしょう。
そのことからPop Smokeは、USとUKのドリルをつなぐ重要人物と目されていました。この”ドリル”を次のグローバルなトレンドにしようとする動きについては、UKメディア・The FaceでのPop Smokeと808Meloの対談記事で語られています。
個人的にUKとUSの両ヒップホップシーンをリンクさせようとしていたラッパーだとKanye West(カニエ・ウェスト)、Drake(ドレイク)くらいしかパッと名前が出てこないため、そういう意味でもPop Smokeはやはり稀有な存在だったと思います。
それだけに今回の訃報は2つのドリルシーンにとっても大きな損失でしょう。誰かその意思を継ぎ、今回の訃報によって空いてしまった穴を埋めてくれる者が現れたらなぁ…。以上、お後がよろしいようで。
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