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Cookiee Kawaii「Vibe (If I Back It Up)」がTikTokでバズったことでジャージークラブに再び注目が集まる?

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新譜だけでなく、今や旧譜ですらバイラルヒット曲化させるTikTok。日本でも2019年にリリースされていた瑛人「香水」が今年になってTikTok経由で大ヒットしたことが話題になっていますが、海外でも今年に入ってから無名のアーティストによるジャージークラブ(Jersey Club)曲がTikTok経由でバイラルヒットし、今夏話題になっています。

 

TikTok経由でジャージークラブに再びスポットライトがあたる

バイラルヒットしたのは、Cookiee Kawaiiというニュージャージー拠点のアーティストによる「Vibe (If I Back It Up)」という曲で曲調は王道のジャージークラブといった感じの曲です。同曲は元々は2019年4月にリリースされた曲です。しかし、今年2月頃からTikTokのダンス動画を通じてバイラルし始め、その頃にSpotifyで約300万回再生を記録。その後、コロナ禍によるロックダウン期間中にさらに拡がりを見せ、今年5月の時点で5000万回のストリーミング数に達し、TikTokでは200万回以上、動画でフィーチャーされる人気曲になりました。

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現在では、今年2月のバイラル時にTikTokTunes YouTubeチャンネルから公開されたリリックビデオが3700万回以上、Spotifyでは5800万回以上再生されおり、おそらくジャージークラブ史上最も多くの人に聴かれた曲だと思われますが、こういうところにはやはり従来の音楽フォーマットにはないストリーミングの優位性を感じます。

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これまでに公開されているインタビューによると、自身アーティスト名にある”Kawaii”とは、日本語の”カワイイ”に由来するもので、それには本人がアニメとゲーム好きのオタクであることが関係しているとのこと。またバイラルしだした時点では、TikTokのアカウントを持っておらず、バイラルしたことを聞いて初めてアカウントを作ったそうです。

 

Cashmere Catら以降とは異なる2020年のジャージークラブの広がり方

こういった本人の知らないところで、過去にリリースされた曲がバイラルヒットするのは、今やTikTokの特徴のひとつ。面白いのが、ジャージークラブという音楽を全く知らない層に対して、これまでのどの方法よりも”ジャージークラブ”を伝える絶好のPRの機会になったという点です。

ジャージークラブは、ボルチモアクラブ、ボルチモアハウス、ボルチモアブレイクスなど”B-more”と呼ばれるボルチモア発祥のローカルジャンルの派生ジャンルで主にニュージャージーのローカルジャンルとして親しまれてきた音楽のため、一般的にみればマニアックな音楽ジャンルかもしれません。

しかしながら、クラブミュージック界隈では、”B-more”は、00年代のエレクトロ全盛期にDiplo(ディプロ)のおかげで海外でも知られるようになりました。テン年代ではCashmere Cat(カシミア・キャット)、Lido(リド)ら北欧勢がジャージークラブ要素をフューチャーベースに取り入れたことで、EDM系のベースミュージック界隈でも広がるなどこれまでに一定の認知度を獲得してきました。そのため、特定の音楽ファンには知られた”ここ20年の間にローカルジャンルという枠を度々飛び越えてきたジャンル”といえます。

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その歴史を振り返るとDiploがMySpace、Cashmere CatらがSoundCloud、Cookiee KawaiiがTikTokというようにB-moreやジャージークラブは、時代時代の音楽を支えてきたSNSを経由して広がってきたことがわかります。

しかし、興味深いのはこれまではアーティストやDJのように影響力を持つ人物が取り入れることで広まってきたジャージークラブが今は、TikTokのユーザーたちによって、広がりを見せているということ。

つまり発信する側のアーティスト起点ではなく、受け手側のユーザー側が拡がりの起点になっているということです。個人的にこれは「Vibe」のようにリリース当時は話題にならなかった曲が、ふとした瞬間にTikToK経由でバイラルヒットすることは、YouTube以降のネット経由で起こる”再評価”の新しい形のひとつじゃないかなと思っています。

ジャージークラブはTikTokフレンドリーなジャンル!?

あと、そもそもの音楽的地盤がしっかりしているというか、ジャージークラブ自体にローカルシーンを惹きつけてきた実績があり、人を踊らせるためのダンスミュージックとしての機能がダンスと高い親和性があるTikTokとマッチしたことも今回のバイラルヒットの要因のひとつになっているはずです(TikTokなので単純に面白いネタ系動画が上がってそれがバズって広がった可能性もありますが…)。

ダンスミュージックファンとしてはそれくらいの”研ぎ続けてきた武器”みたいなロマンの要素も欲しいところですが、それは「Vibe (If I Back It Up)」によって、この手の音楽とTikTokとの相性が良いことが証明されたことを意味すると思います。そのため、今後はTikTokヒットを目指す音楽クリエイターの間で、ジャージークラブが流行るかもしれないし、そこから新たなジャージークラブのムーブメントが起こるかもしれません。その目的の是非はここでは一旦置いておくとして、その結果、”ビジネス・テクノ”ならぬ”ビジネス・ビーモア”、”ビジネス・ジャージー”みたいな言葉が生まれるなんてことも考えられるので、それはそれで興味深いです。

ちなみにインタビューでは、ジャージークラブのOGたちであるDJSliink、DJ Jayhood、DJ Taj、UNIQU3の名前を挙げつつ、彼らの功績を讃え、アンダーグラウンドだったジャージークラブが世界に拡がる良いきっかけになったとも発言。そこからは2011年ごろから活動している本人のシーンにコミットする姿勢がうかがえます。

 

TikTok経由のバイラルヒットによって、MVやリミックスが制作されるという恩恵を受ける

また「Vibe (If I Back It Up)」は、今年のバイラルヒットを受け、5月にはアニメーションMVを公開。さらに8月にもMVと、ラッパーのTygaを迎えたリミックスも公開されています。

8月に公開されたMVは、アルフレッド・ヒッチコックの1963年のスリラー映画『鳥』にインスパイアされたものになっており、同作を思わせる鳥が飛び立つ様子やマーチングバンドをフィーチャーしているほか、SFライクなシーンや漫画『チェンソーマン』のマキマさんの手下の魔人っぽいキャラが出現したりとわずか1分半ほどの尺に結構な見所が詰め込まれています。

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一方、Tygaとのリミックスはオリジナル尺が1分半ほどであることに対し、2分20秒まで曲の尺が引き伸ばされています。こちらはさすがに人気ラッパーが参加していることもあってか、MVもより金がかかった仕様?になっています。

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これらの新たな展開は、いずれもTikTokでのバイラルヒットによってリリース当時鳴かず飛ばずだった楽曲が”再評価”されたことによって起きたことだといえます。再評価による恩恵は、YouTubeでのシティ・ポップやアンビエントでも色々な形で見られましたが、TikTok経由のバイラルヒットによる再評価の結果、Cookiee Kawaiiにはこういった形でただ曲が再生される以外の恩恵も受けています。

 

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Top Image via YouTube

Reference:
https://www.thefader.com/2020/02/19/cookiee-kawaii-vibe-interview-tiktok-jersey-club
https://www.wonderlandmagazine.com/2020/05/11/cookiee-kawaii-vibe-tiktok/
https://uproxx.com/music/cookiee-kawaii-vibe-if-i-back-it-up-video/