新型コロナ禍によるロックダウンも限定的ではあるものの、徐々に緩和されている昨今。4/8に最初の震源地となった武漢市の封鎖を解除した中国や韓国では現在のところ、一応の収束ムードではあることが報じられており、RAでは3月半ば以降、再び営業を開始した中国のクラブシーンの特集が組まれていました。
ロックダウン後に再始動した中国のクラブシーンの現在
それによると営業再開後もクラブ側は定期的なダンスフロアの消毒、清掃に加え、入店前にはマストで来場者の体温チェック、さらには健康状態を示すQRコードをスキャンする(おそらく新規感染時の追跡のため)といった安全対策を講じているとのこと。ただ、記事が公開された4月末の時点での現地シーンへのインタビューによると、やはり集客面では以前のようにはいかないらしく、これまでの顧客となっていたクラバーのうち、10~15%は再開後も感染を警戒して来場をためらっているそうだとか。またベニューの所在地や規模によっては中国当局から営業自粛を求められているケースも少なからずあるそうで、首都・北京のクラブは未だ営業再開の目処が立っていない場所もあることが報告されています。
ロックダウンの影響を受け、経済的な危機に直面する上海の人気クラブ
このように一部では営業再開が行われている中国のクラブシーンではありますが、ロックダウン時の営業停止による損失はやはり厳しいものになっているようで、営業を再開したクラブの中にも従業員全員に給料を支払うことができないクラブもあるとのこと。そんな中、先日、新型コロナウイルスの影響を受けて、上海の人気クラブ・ALLが経営の危機に直面していると報じられました。
ALLは2016年に閉店したThe Shelterというクラブの流れを組むクラブでオーナーをイギリス人のGaz Williamsが務めています。同クラブは東京のWWWとも交換プログラム「上東」を行なっており、東京のクラバーにとっては比較的よく知られた上海のクラブであるだけでなく、それまでにも日本のDJ、ライブアクトが度々出演していました。
またGaz Williamsは、上海のローカルレーベルで近年は世界的なアンダーグラウンドレーベルとして注目を集める 「SVBKVLT」も運営しており、その所属アーティストや周辺アーティストは近年はヨーロッパを中心にツアーを行うなど目覚ましい活躍を見せてきました。
しかしながら、このように上海クラブシーンを支えてきたALLですが、現在はやはりクラブの家賃と従業員の給料の支払いが重くのしかかり、経営面を圧迫していると声明を発表。それを受けて、運転資金獲得のために今月5/12より、特別なマーチャンダイズとして、ALL周りのローカルコレクティブとコラボレーションしたTシャツとドリンクチケットを販売することを決定。現在は中国国内のeコマースアプリのほか、bandcampで販売を行っています。
そのほかに経営安定のための収益獲得を目指し、ALLでは今月多くのイベントを開催することを発表しており、先週はオートチューンカラオケナイト(おそらくオートチューンをかけながらカラオケするものと思われ...)、今週はクィアアクティビストがキュレーションする”クラブの死”をテーマにした映像エキシビションナイトといったユニークなイベントも行われたようです。
音楽だけでなく、様々な上海のユースカルチャーを支えてきたALL。私も2年前に一度足を運んだことがありますが、非常に良い雰囲気のクラブなので、なんとか踏ん張ってほしいものです。
ウィズコロナ時代、クラバーはどのようにしてクラブカルチャーと向き合うのか?
このようにアフターコロナ直後のライブエンタメ業界において、中国の状況を見ていくとクラブやライブハウスの経営者は、今後、営業再開時にいかにして自粛期間に抱えた負債をカバーしていくかという課題を抱えていることが私のような素人にもよくわかります。
特に国からの保証が手厚くない日本のクラブやライブハウスにとっては、外出自粛期間が終わった後、いかに安全性を確保しながら営業を再開するかは大きな悩みの種だと思います。
現在、韓国では今月初め、クラブでの集団感染が起こり、恐れていた「第2波」の懸念が広がっているといいます。また日本では先日、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、京都、兵庫、北海道を除く39県における緊急事態宣言の解除が出されましたが、西村経済再生担当相は、いわゆる「三密」を避けるため、ライブハウスなどに自粛を求めており、日本のライブエンタメはまだまだ先が見えづらいといった状況であることは間違いないでしょう。
クラバーにとっての「新しい生活様式」を考える
今月、厚生労働省は新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言を踏まえ、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」なるものを発表しましたが、内容的にはライブエンタメ、特にクラブやライブハウスの状況は依然厳しいままです。
そういった状況を踏まえて、ウィズコロナの時代のライブエンタメにおいては観客側の私たちも事態が完全収束し、クラブやライブハウスがこれまでのように通常営業が可能になるまでは、感染拡大防止と遊び場を経済的に支援するためにも、普段クラブ、ライブハウスに遊びにいって、エントランス料金を支払う感覚でイベントの有料配信チケットを購入することを受け入れる必要になってくるのでは? と考えます。そういったことこそが、私たちのような音楽ファンにとっては、ある種の"新しい生活様式"になるのではないでしょうか?
個人的にはライブエンタメの醍醐味はやはりその場で会う友人、知人や見知らぬ人とのコミュニケーションを含めて、リアルな現場が1番だと思っているということは前置きしつつも、状況が状況なのでこのような”持続可能”視点で見た場合の"新しい生活様式"を今は、観客側を受け入れるべき時なのかもしれませんね。
中国のクラブシーンに見るアウターコロナのローカルシーンにおけるポジティブな要素
ただ、先述のように経済的な問題を抱える一方、中国のクラブシーンでは、現在、海外からのゲストDJが招聘できないという事情からローカルDJだけで一晩を回すといった状況が生まれているといいます。そして、そのような状況だからこそ、必然的にローカルシーンのDJたちの活躍の場も増え、ひいてはシーンのボトムアップにつながるというボジティブな意見も見受けられます。
考え出すと暗い話題が悪目立ちしがちなライブエンタメシーンですが、こういった状況をうまく逆手にとりながら、日本のシーンもボジティヴな要素は参考にしつつ、この機会に色々な意味でシーンの底上げが図れるような状況になれば、多方面でアフターコロナへの望みがつながっていくのではないかと…。そして、私たち音楽ファンとしてはそれに向き合い、サポートしていくという感じなのかなと思います。以上、お後がよろしいようで。
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