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人気レーベル「Whities」や「One Little Indian」が黒人差別問題を受け、レーベル名を改名したという話

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The XX(ザ・エックス・エックス)、FKA twigs(FKAツイッグス)、 Sampha(サンファ)といった人気のUKアーティストが所属するインディレーベル「Young Turks」。その傘下のホワイトレーベルとして、2014年に設立されたロンドンのクラブミュージック系人気レーベルの「Whities」が、最近の黒人差別問題から端を発し、再び活発化する「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」ムーブメントを受け、レーベル名を「AD 93」に改名しました。

 

クラブミュージックの重要作品をリリースしてきた「Whities」

「Whities」はこれまでにTerron、Reckonwrong、Coby Sey、Lanark Artefaxといったアーティストの作品を始め、私も個人的に好きなビートメイカーBullion、Bwana名義で「LuckyMe」より『Capsule's Pride』なるAIKIRAインスパイアの危険な作品をリリースし、近年は筋肉隆々の肉体でも知られるNathan Micay、さらにはAvalon Emersonの作品なども数多くの重要作品をリリースしてきました。

特にAvalon Emersonによるレーベル6番『Whities 006』は、トリッピーかつ美麗レフトフィールドハウスの名盤なので、非常におすすめですが、まあ、そんなレーベルが、先述のBLMを受けて、レーベル名が”無配慮なものだった”ということを理由にオーナーのNic Taskerが改名に関する声明を出しています。

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Whities 006 - Single

Whities 006 - Single

  • Avalon Emerson
  • エレクトロニック
  • ¥765

それによると元々、「Whities」は、「Young Turks」における白盤、つまりホワイト盤をリリースするためのサブレーベルとしてスタートしたのが、レーベルの成り立ちであり、そのレーベルの性質と親元の「Young Turks」の頭文字「YT」を掛け合わせた結果、「Whities」という名前になったとのこと。

 

改名理由は「Whities」という名前が持つ誰かを排除していたかもしれない可能性

またレーベルは2017年に「Young Turks」から独立したため、先述の名前のルーツは形骸化した状態、つまり意味を為さない状態だったそうです。そういったこともあって、昨今の社会情勢を鑑み、これまでにそのレーベル名が”誰かを排除したり、気分を害したりしたことがあったかもしれない(もちろん、そんなことは望んでいないがとのこと)”可能性を考え、「AD 93」に改名に至ったそうです。

この改名の経緯に関しては、もしかしたら気にしすぎだという意見を持つ方もおられるかもしれません。特に日本では、以前のバラエティ番組でのブラックフェイス問題や最近のBLM、そしてそれを日本在住の黒人が訴えることに関する反応を見ているとそういう傾向が強いのではないかなと感じました。

音楽業界が行った抗議のためのストライキ「Black Out Tuesday」

今、世界的にも様々なグローバル企業がこの「Black Lives Matter」に連帯を示し、これまでの認識や対応を改めようと態度に示しています。これに関しては気候変動問題然り、社会的な責任が企業に求められるという昨今の新たなビジネスマナー的なものも少なからず関係しているかとは思いますが、それでもアメリカで起こった事件を受け、大企業が動きだすということは大きなうねりであり、歴史の転換点になっていると感じずにはいられません。(グローバル企業だと特に世界中に拠点があるため、物理的に多人種で構成されていることは事実であることから人種差別問題に対して、さすがに少なくとも”見て見ぬふりはできない”というスタンスを示さねばならないと部分での判断という要素もあるかと思いますが…)。

音楽業界に関しても6月初旬に「Black Lives Matter」を受け、大規模なストライキキャンペーン「Black Out Tuesday」が実施されてました。このキャンペーンには3大メジャーレーベルを含む様々な音楽レーベル、Spotify、Apple Music、SoundCloud、TIDALなど各種音楽プラットフォーム、そのほかにも音楽メディアが賛同して、問題に関して声明を出すとともに、黒人差別問題の歴史や理解を深めるためのテキストの紹介、支援のための寄付を行ったり、そういった機関を紹介するなどそれぞれの立場から問題解決の糸口を探りました。

しかしながら、こういった動きに対して、当事者側のコミュニティでは、Joey Bada$$が大企業やインフルエンサーの先述のような動きに対して、ポーズだとバッサリと斬って捨て、当事者側にとってはそれらの取り組みは十分なものではないという認識も示されていたことからは、この問題の根深さを改め感じます。

 

黒人の歴史とあわせて特定の人種が持つ”特権”についても考える

「Black Lives Matter」を含め黒人差別問題に対する理解を深めるには、黒人の歴史を学ぶ必要があります。ただ、日本人がその問題を正しく理解するにはそれだけだと難しいとも感じています。ですので、私としては理解を深めるというのであれば、”白人の特権”についても学ぶ必要があると考えます。

この”白人の特権”の”特権”は、本当に色々な差別、格差に転用できる概念だと思うので、なぜそれが特権たり得るのかに触れることができれば、黒人差別問題もより理解を深めることができるようになるのではないでしょうか? 気になった方は、入門編としてNetflixの『チェルシーが考える: 私と白人特権』を視聴することをおすすめします。

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また今回の黒人差別に対する抗議運動には、暴動、略奪、極端な左右の政治的イデオロギーといった要素が加わり、抗議運動を混沌とさせているということもすでに報告されています。日本では、そういった情報が伝わることによって、”無用のレッテル”が抗議運動に貼られてしまっている部分も少なからずあると感じます。

 

色々なバイアスに左右されず、まずは当事者の声を受け止める

例えば、アメリカと日本では様々な面で状況の違いもあって、抗議運動をどう受け止めるかは、現実的に個人の認識によるところが大きく、難しいところだと思いますが、私としては、日本でこの問題を考える場合、例えば、”All Lives Matter”や、コロナ禍でのアジア系差別、チベット、ウイグル人差別を例に出して、反論することはズレた反論だと思っています。

ですので、日本においてこの問題を考える場合、東京で行われた抗議デモの主催者の方の「ブラック・ライブズ・マター運動が何なのか、日本でも発信していきたい」というような意見を、まずは言葉どおり、色々なバイアスに左右されず受け取ることが必要なのではないでしょうか?

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そして、そこからそれぞれが問題について考えを深めていくことこそが、ひいては多くの人が反論の材料として使われているほかの差別問題を認識したり、考えを深めるきっかけになるはずです。

なお、今回のBlack Lives Matterを受けてBjörk(ビョーク)らを要する音楽レーベルの「One Little Indian」が「One Little Independent」に改名しています。

こういった改名は、”白人の特権”と少なからず関連があり、ジャンル改名が行われた”アーバン”問題とも地続きかと思いますが、ただ、その"アーバン問題"に関しても当事者側からは、”白人の特権”とのバッティングを危惧するような声もあるようです。


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Top Image via Stereogum

Reference:
https://www.stereogum.com/2087681/whities-ad-93-young-turks/news/
https://www.rollingstone.com/music/music-features/labels-ditch-urban-1011593/