かねてからの予測どおり、Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)の話題の新曲「This is America」が、これまで1位の座をキープしていたDrake(ドレイク)の「Nice for what」を退け、全米シングルヒットチャートの「Billboard Hot 100」でチャート初登場1位をマークしたことが明らかになりました。
「This is America」効果で『Awaken, My Love!』の売上が激増
同曲は、曲自体が表現した対象となる「アメリカ」以外に、その衝撃的な内容のMVが世界中に伝播。様々な考察が行われたということはすでにご存知かと思います。
ちなみにそのMVは、YouTubeでは再生回数が1億回越え、Spotifyのデイリーチャートでもリリース以降、連日1位を獲得するなど、とにかくバズって大ヒットになっていますが、Billboardによると、過去作の『Awaken, My Love!』も「This is America」効果で、アメリカでは5/10集計の売上がなんと419%増となり、カムバックヒットになっているそうな。(エヴァンゲリオンなら完全に機体と精神が一体化してしまい、もはや生身の人間には戻れないサルベージ不可能なレベルのシンクロ率だなと考えれば、そのヤバさが容易に想像できた私がここにいます)
テレビ出演後に異常なバズり方を記録した「This is America」
その結果、5/19付の全米アルバムチャート「Billboard 200」でも再び、チャートに復帰。同アルバムは156%増の1万2000枚相当数の売上を記録、トラディショナルアルバム売上数も5000枚となり、こちらも268%増を記録しているとのこと。
またMVは、残念ながら日本からはアクセスできませんが、彼が出演したアメリカのテレビ番組サタデー・ナイト・ライブ(SNL)の放送終わりにMVと音源を含めると102.7ミリオン回クリックを記録、つまり1億270万回も各プラットフォームで再生されたというわけなのです。マジハンパないし、オールドメディアと言われる”テレビ”を見る人が現在は少なくなっていると言われて久しいと思いますが、この数字を見ると改めて、テレビの影響力の大きさを感じます。
これについてはめちゃざっくりかつ勝手なイメージで恐縮ですが、よく何々が美味しいお店をグルメ系番組が取り上げるといきなり、その店が「行列ができる店」化する現象の最高峰みたいなノリなのかな〜なんて思ってしまいます。
「This is America」MV監督ヒロ・ムライのインタビューについて
というわけで、数字の面でも大いに話題を振りまいているこの「This is America」ですが、最近、New York TimesにそのMVを監督した日本出身の映像作家ヒロ・ムライ氏のインタビューが掲載されていました。
インタビュー前半は、Childish Gambinoことドナルド・グローヴァーが主演&脚本を務め、昨年のゴールデングローブ賞、エミー賞でも優秀な結果を残し、ドナルド・グローヴァーにエミー賞初の黒人ディレクターという名誉を与えた人気コメディードラマ『アトランタ(Atlanta)』、主に最近アメリカでシーズンファイナルを迎えたシーズン2について、同作でも監督を務めた彼が作品について語る内容になっています。
そして、インタビュー後半では、話題は気になる「This is America」に変わり、そこでは、MVと『アトランタ』シーズン2について、例えば、前面での出来事と、その背後で起こっている別の出来事を同一場面で表現することを似たものとして挙げており、その効果については視覚的な抑揚を与えるものだと語っているところが印象的です。
またドラマとMVの2つがオーバーラップする部分は、疲弊する世界を表現している点であり、それこそが世界で今、起こっていることの結果だと説明しています。
さらにMVは、公開の1週間半から2週間前に制作されたものであり、『アトランタ』同様、編集作業時にテンションが上がっていたようで、思いの外早く完成したことや、その作業は、混乱する部分もあったため、混沌としていたけれども楽しかったと語っています。反響については驚いたものの、なぜ多くの視聴者がMVに反応したのかも理解できることや、自分たちの作品を通じてできる限り正直な気持ちを彼らに伝え、つながりを生むことを望んでいたことも明かしています。
先ほど『アトランタ(Atlanta)』は、コメディードラマだと書かせて頂きましたが、シーズン2ではバイオレンスなシーンも増えているそうです。しかしながら、それは「This is America」MVの超現実的な暴力的映像表現に比べるとまだマシなようで、MVのそういった表現は映像と曲を前提にした上での狂った表現の結合のようなものらしく、暴力的な映像は悲惨で、ある意味カートゥーン映画レベルとも言え、『ルーニー・テューンズ』(ワーナー・ブラザースが製作するアニメシリーズ)のロジックにも通じると語っています。そして非常に挑発的なイメージの作品になっているため、作り手側としては綱渡り的な作品だと捉えているようです。
私は、残念ながら、『アトランタ』を一度も見たことがないので、インタビュー前半部分についてはイマイチ理解できなかったのですが、「This is America」に関する後半は非常に興味深かったです。というわけで、『アトランタ』見たい度が急上昇したので視聴できるプラットフォームをグーグル様に訪ねたところ、以前はHuluで視聴できた模様ですが、現在は配信されていない模様。ちょうど仕事の関係でHuluの会員になろうかなと思っていたので残念すぎる…。
*追記:
現在はNetflixにて『アトランタ』シーズン1が視聴可能。余談ですが私はシーズン1をNetflixで、2019年1月末まで各話限定公開で公開されていたシーズン2をHuluで視聴しました。2019年2月にヒロ・ムライによChildish Gambino「This is America」MV第61回グラミー授賞最優秀ミュージックビデオ(Best Music Video)を受賞した記念で、もう1度『アトランタ』シーズン2の放送を開始してほしいものです。ちなみにシーズン2には『アトランタ:略奪の季節』という邦題がつけられていますが、その名のとおり、各話では様々な"略奪"をテーマにしたエピソードが描かれるのが特徴になっています。
ブラック・ライヴズ・マターに興味をもった方におすすめしたいコラム
あと余談ですが「This is America」をきっかけにアメリカの「ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)」運動に興味を持った人にオススメしたいコラムを発見したので、最後にそれをご紹介したいと思います。
今月から全国順次公開される映画『私はあなたのニグロではない』に関する「“ブラックフェイス問題”を理解するための必見作『私はあなたのニグロではない』」というコラムでは、同映画が”映像で突き付ける黒人差別の歴史”や”白人の視線で作られた“古き良きアメリカ”像”といったことに関する考察が行われています。ですので、気になった方は是非一読して頂ければ、より「This is America」の背景を理解することに繋がるのかなと思います。
コラムはこちらのリンク先で読めるので是非!
*追記:日本時間2019年2月11日(現地時間2019年2月10日)に行われた第61回グラミー授賞式にて、ヒロ・ムライ監督による「This is America」MVが最優秀ミュージックビデオを受賞。なお、ヒロ・ムライは1983年生まれで、父親は「翼をください」などを手がけた作曲家の村井邦彦氏。9歳の時に一家で渡米し、現在も現地で映像ディレクターとして活躍中。
【#グラミー賞☆速報】
— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) 2019年2月10日
チャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」が最優秀ミュージックビデオ/Best Music Videoを受賞🏆
日本人監督のヒロ・ムライ氏もおめでとうございます👏🏻 #grammys
■視聴はこちら👉🏻https://t.co/XMVyzhKipQ pic.twitter.com/9G9FXJpEeE
▶︎あわせて読みたい記事はこちら
Top Image via Europe 1
Source: Stereogum, Billboard, New York Times