私はどちらかといえば、暗い音楽が好きで近年はアンビエントとかWaveと呼ばれるネット発でイギリスを中心ににわかに人気を博している音楽をよく聴いているため、恥ずかしながらあまりK-POPは聴いたことがありませんでした。
ですので、BTSとかBLACKPINKとかはよく名前を聞くし、YouTube再生回数の記録的な数字とか、BTSがイギリスの音楽の聖地、ウェンブリー・スタジアムでライブをやって大成功したとか、その程度のネットニュースくらいは知ってはいたものの、どんな曲が人気なのかとかまでは正直なところ把握していないという、もろK-POP初心者です。(ウェンブリー・スタジアムに関しては、何かで昔読んだOasisが同会場でライブをやった時にギャラガー兄弟のどっちか忘れたけど、俺たちはクソッタレの神より偉大だったぜ! と感極まって口にしたというエピソードが好きです)
Can you break down why you Stan @BTS_twt from A-Z? 🤔💜
— i-D (@i_D) June 18, 2019
We camped outside the sell out #BTS concert at London's Wembley Arena and the A.R.M.Y. to explain their love for the K-Pop phenomenon. pic.twitter.com/DiRnxgMr77
Red Velvet「짐살라빔(Zimzalabim)」を聴いて一気にハマった理由を述べていく
しかしながら、先日、たまたまTwitterのTLに流れてきたK-POPガールズグループRed Velvet(レッドベルベット)の「짐살라빔(Zimzalabim)」を聴いて、いきなり心をもっていかれたので、今回はその感想などについてつらつら書いてみたいと思います。
まずK-POPといえば、私の世代だとKARAとか少女時代が日本のメディアでももて囃され、超人気アーティストになったのですが、ぶっちゃけ、その当時はあまりチェックしておらず、なんやかんや知らないまま歳をとっていったという感じです。
がしかし、先述のRed Velvetの「짐살라빔(Zimzalabim)」は、とにかくヤバい。メジャーなアイドル(その時点ではなんとなくTLでみた感じから知らないなりに無名ではないとは思っていた)の曲なのに展開がマジやりたい放題でおもしろい。正直な話、初めて聴いた時はエイプリフールなのか? と思わされたし、これどんな人が曲作っているんだろうとか色々気になりました。
そんなわけで気になったことをグーグル様に質問してみたところ、Red Velvetは、K-POPの有名芸能事務所・SMエンターテインメント所属の女性アイドルグループだということがわかりました。メンバーは、アイリーン、スルギ、ウェンディ、ジョイ、イェリの5人。コンセプトは、先述の先輩筋にあたる少女時代の大衆性とf(x)の実験性の中間がコンセプトだそうです。(「짐살라빔(Zimzalabim)」の時点で私的には実験的すぎたので、逆にf(x)がめちゃ気になってしまい、ちょっとWikiってみたところ、”独特の音楽性を持つ楽曲と奇抜なファッションが特徴”とあったので、あとでチェックしてみたいと思います)
デビューは2014年だというRed Velvet。「짐살라빔(Zimzalabim)」は6/19にリリースされた6枚目のミニアルバム『The Reve Festival' Day1』収録曲とのこと。ちなみにアルバムタイトルにある”Reve”とは、Red Velvetの略だそうで、2度目の単独コンサート「REDMARE」(レッドメア)で披露したロボットキャラクターの名前で、フランス語では「夢」「幻想」などを意味するそうな。無知すぎるのでへぇ〜とかしか言いようがない…。
"リズミカルなドラム演奏とキャッチーなシンセサウンドの爽やかなメロディーが調和する中毒性の高いエレクトロポップ"とはなんぞや?
ちなみに「짐살라빔(Zimzalabim)」は、タワレコ情報によりますと、”リズミカルなドラム演奏と、キャッチーなシンセサウンドの爽やかなメロディーが調和する中毒性の高いエレクトロポップ・ジャンルのナンバー”とのことですが、ぶちゃっけそれに全く止まってないくらい突き抜けた曲だなと初心者ながらに思ってしまいました。
同曲について、個人的にすげぇ! と思わされたのが、まず”リズミカルなドラム演奏”部分。Netflixで公開されている昨年出演したコーチェラ2018でのライブをテーマにしたBeyoncé(ビヨンセ)のドキュメンタリー『HOMECOMING ビヨンセ・ライブ作品』で聴けるマーチングバンドパフォーマンスよろしくなドラムパターンがあったりするのですが、驚きはのちに出てくる、南アフリカ発祥のダンスミュージック・Gqomっぽいアプローチのリズムを採用しているところです。
Gqomは、2016年くらいにアフリカからイギリスに飛び火し、一時期「Gqom Oh!」というレーベルが注目されたり、Rinse FMなんかでも番組がスタートしたりしましたが、その時はどちかといえば、局地的なブームに留まっていた印象です。しかしながら、去年、EDMのトレンドセッター、Diplo(ディプロ)率いるMajor Lazer(メジャー・レイザー)が突如このジャンルを取り入れ、「Gqomは未来だ!」と宣言。それをがきっかけになって 再び注目されだしました。
GQOM IS THE FUTURE
— MAJOR LAZER (@MAJORLAZER) September 20, 2018
ですのでどちらかといえば、最近になってついに日の目を見たという感じでしょうかね。 (とはいえ、日本で認知度が高いかどうかはまた別の話ですが…)
そんなわけで世のダンスミュージック、エレクトロミュージック、ひいてはEDMシーンからしたら、Gqomはトレンディーな音楽といえるわけですが、それを「짐살라빔(Zimzalabim)」でK-POPに取りいれるRed Velvet、すごすぎだろっ! って話なのです。しかもこの部分は、ちゃっかりキャッチーにするためにEDM音色で作るGqomみたいになっているところがすごい。そのあたりが、先述の”爽やかなメロディーが調和する”という表現につながる部分なのかなと。
「짐살라빔(Zimzalabim)」については、すでにこの時点でもかなり斬新なわけですが、それすら凌ぐ勢いで激ヤバだったのが、まさかのフィジェットハウスを取り入れているところです。大概の場合、謎に入ってくるガムラン音楽?的トライバルな”Zimzalabim”連呼パートにぶちかまされてしまうと思うのですが、私的にはそのパートが終わってからのいきなり始まる、昔懐かしいThe Bloody Beatroots、Crookersという一時代を築いたエレクトロアーティストが得意としたフィジェットハウスを取り入れたパートに本気でヤラれてしました。
最新トレンドのGqom風のリズムを採用しながらもそこに00年代後期に花開いたエレクトロハウスのトレンドを差し込むというこの節操のなさ(良い意味で)。発想が飛び抜けてるとしか思えない。しかもよくよく聴くと、曲の序盤30秒くらいからすでにフィジェットハウス的なパートが存在するんですね。それを前フリに使うこの巧みな曲の構成力には思わず舌を巻いてしまうという感じです。
もしかしたらこれが最新のポストEDMなのかもしれない
全体的にはEDM以降のいわゆる1曲の中に展開が複数あり、DJ Mixせずともブチ上がれる的制作手法が採用されているため、現行のポップミュージックとしてはおそらく王道なのかなと思いますが、その組み立て方がやっぱり節操がなさすぎて最高に秀逸ですね。K-POPではどうかはちょっとわからないですが、2019年の現時点で謎のトライバル、Gqomときて、いきなりフィジェットハウスがくる構成。正直、斬新すぎるし、この発想は全く頭にありませんでした。
ですのでこれ、多分クラブミュージックだったら、ちょっとしたトレンドになるかも案件な気がします。少なくとも好事家たちの間では…。そういうわけで私としては、この構成はEDMが産んだ曲構成の究極進化系だなと言いたいですね。もしかしたらこれが最新のポストEDMの形なのかもしれません…。
K-POPを支えるスウェディッシュプロデューサー、Caesar & Loui
というわけでどんな人がこの曲をプロデュースしたのか気になって調べてみたところ、手がけたのはCaesar & LouiというK-POP界隈で有名なスウェーデン出身プロデューサーチームでした。「Fika」という北欧情報メディアによりますと、彼らはRed Velvet以外にもTWICE、少女時代など有名K-POPグループに関わり、2017年にはアメリカのBillboardワールドアルバムチャートの頂点に3度も輝いているそうな。しかもRed Velvet関連でいえば、「Red Flavor」という大ヒット曲も手がけているそうで、彼女たちにしたら信頼のおけるプロデューサーと言える存在なのでしょう。
というか、「Red Flavor」も聴いてみたらゴリゴリにGqomっぽい要素が取り入れられていて、こいつらマジ筋金入りだなと思いました。
なるほど、だからこんな攻めまくった曲を提出されても受け入れることが可能なのですね。まあ、これは私の勝手な妄想的意見ですが。
また全然知らなかったのですが、現在、K-POPシーンは、彼らのような欧米のプロデューサーたちと協業する体制も作られているらしく、SMエンターテインメントが2010年にストックホルムで主催したソングキャンプでは、SMエンターテインメントのアーティストのためだけに4日間にわたり音源制作。その結果、K-POPシーンを賑わせたヒット曲も生まれたそうです。(BoAの「Hurricane Venus」など。自分の中ではBoAは完全にMondo Grossoのアレで止まってた…)
アメリカのポップスヒットを支える構図をK-POPも持っている模様
それを知って思い出したのが、アメリカ発でグローバルヒットするポップス曲にはスウェーデン出身プロデューサーが関係しているということ。これについてはもう結構前から度々メディアで取り上げられている話題ですが、スウェーデンは音楽輸出大国といわれており、Taylor Swift(テイラー・スウィフト)始め、幾人ものポップスターをプロデュースするMax Martin(マックス・マーティン)というベテランプロデューサーがいたり、”Track-and-hook(トラック&フック)”という音楽制作理論(ざっくりいうとトラック担当、メロディ担当などパートにわけて複数人で1曲を作り上げる方法)が同国の音楽プロデュース力が生み出すヒットについて語られる際はよく引き合いにだされます。
K-POPは、その”スウェーデンが編み出したヒットの法則とコンテンツ”を取り入れているため、近年のBillboardチャートを席巻するようなワールドワイドなヒット曲が生まれてもなんら不思議ではないんだなと思い知られされました。ひと昔前なら、日本人がワールドワイドヒットを生み出せないのは言葉の壁があるからなんて言われていましたが、それはもはや過去の話。
今はイケてるトラックとリリックの意味はわからずとも音感が優れていれば、世界的に受け入れられることが、K-POPや88rising周り、あとネット界隈だと和モノレアグルーヴ周辺が証明しています。
そういや最近、海外では細野晴臣再評価の流れが盛り上がっていて、海外音楽メディアでも人気シンガーソングライターのMac DeMarco(マック・デマルコ)との共演や彼による「Honey Moon」という細野曲のカバーも話題になっていましたね。
そういった世界的な状況の変化は色々ありつつも興味深いのは、韓国もスウェーデンも国を挙げてポップミュージックのサポートをしているという点です。やはり国策というやつはすごいなと思わされますね。
スウェーデンのポップスヒットを生み出すからくりについては、この記事がおもしろいので興味がある方はどうぞ。この現象について、”ほかのストックホルム症候群”と表現している点が興味深いです。
ちょっと話がそれましたが、「짐살라빔(Zimzalabim)」については、その”スウェーデン産ヒットの法則”の中でも先述の曲展開を考えるとかなり斬新な方なのではないかと、K-POP初心者ながら思っています。
K-POPを押し上げるスウェディッシュクオリティから妄想する90s原田知世作品再評価という果てしない夢
そういや今、話題のドラマ『あなたの番です』に出演している原田知世も、90年代のスウェディッシュポップ全盛期には、トーレ・ヨハンソンというスウェーデン人プロデューサーを起用してスマッシュヒットを飛ばしていました。しかも、このプロデューサー起用は、『clover』、『I could be free』、『Blue Orange』という3枚ものアルバムで行われていて、調べてみるとその3部作が昨年アナログレコード化していたようです。
今まで全く知らなかったのですが、もうこれ、ポスト和モノブームの先駆けになって、ヘタしたら近いうちに竹内まりやのように世界的な原田知世再評価が起こるのではないか? という妄想を描かずにはいられませんね。
閑話休題。
"恋人関係でも繊細な感情調節が必要だという話を半熟目玉焼きに喩えたレゲエ・ヒップホップ"というキラーワード
最後にRed Velvetの『The Reve Festival' Day1』の話に戻ると、このミニアルバムのリリースインフォには、ほかにもK-POP好きならずとも音楽好きなら興味をそそられる要素がいっぱいです。
THE FACT JAPANによりますと、アルバムには「짐살라빔(Zimzalabim)」以外にも
- 恋人関係でも繊細な感情調節が必要だという話を半熟目玉焼きに喩えたレゲエ・ヒップホップの「Sunny Side Up!」
- 一目惚れした相手への感情を表現したパンク・ポップ ジャンルの「Milkshake」
- 恋に気づいた瞬間のワクワク感を歌うポップ ジャンルの「Bing Bing」
- 華麗なシンセ演奏に多様な効果音を加えたエレクトロ・ポップの「Parade」
- メンバーの優しいボーカルが際立つコンテンポラリー・アーバン・ポップの「LP」
を含む全6曲が収録されているそうですが、特に”恋人関係でも繊細な感情調節が必要だという話を半熟目玉焼きに喩えたレゲエ・ヒップホップ”という文言は、もはや1周回って興味しか湧いてません。「これ、絶対聴くだろ! 」と全力でツッコミを入れたい。そんな気持ちです。
そんなわけであまりK-POPに関する知識がない私ですが、いささか変化球的な視点からRed Velvetという沼にハマってしまました。今後は彼女たちを含め、この手のジャンルの曲も全力で掘っていきたいと思います。余談ですが先日、曲にヤラれた旨をツイートしてみたところ、親切な方がおすすめK-POP曲を教えてくださいました。もし、この記事を読んでこんな私に何かオススメしていただける場合、是非、Twitterで@してもらえたらと思います。以上、お後がよろしいようで。
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Top Image via Red Velvet
Reference: Fika, Tower Records, The Globe and Mail,THE FACT JAPAN, HMV