今年で発売から20周年を迎える、Radioheadの代表作のひとつ『OK Computer』は、バンドが初めてUKチャート1位を獲得し、グラミー賞でも最優秀アルバム賞にノミネートされた記念すべきアルバムというだけでなく、その文化性、芸術性が高く評価されたことにより、アメリカのNational Recording Registry(国家保存重要録音登録制度)にもその名が刻まれた名盤として広く知られています。
4月末から、バンドは予てからこのアルバムの再発を匂わせる謎のポスター、動画を公開するなどプロモーションを行い、ついにリマスター盤である『OKNOTOK』をデジタルでは6/23、フィジカルでは7月に発売すると発表。収録内容としては、本編のアルバムに加え、新たに「I Promise」、「Lift」、「Man Of War」という3曲の未発表曲と8曲のBサイド楽曲を収録。しかも、音源は全て当時のオリジナルのアナログ・テープよりリマスターとなるというからファンにとっては是非ゲットしておきたいものと言えるでしょう。
そんな『OK Computer』ですが、このアルバム以前と以後でバンドの音楽的方向性がガラリと変わったということは周知の事実。1995年の2ndアルバム『The Bends』が当時のブリットポップ全盛期の音にマッチするギターロックなアプローチだったことに対し、このアルバムでは、ギターロックではあるものの、Trip Hopや電子音楽の影響を受けた実験的なものとなっています。その路線は、この次のアルバム『Kid A』でエレクトロニカ、実験電子音響音楽色全開となって、完全に異形のロック、または「商業的な自殺」とまで言わしめられた孤高の問題作へと引き継がれていきます。ちなみに先述のとおり、『Kid A』は当初、セールス的には失敗するだろうという見方をされていましたが、結果的にはバンドにセールス的な成功をもたらします。しかし、まあ、最初にこれまでのRadioheadを聴いてきた所謂ロック好きにとっては確かに意味不明なものに思えたとしても不思議はないでしょう。制作的にも本格的なコンピューターサウンドが本格的に導入されたものでしたし…
このようにRadioheadの音楽的な実験期を代表するアルバムと言えば、『OK Computer』と『Kid A』なんですが、その前半にあたる、発売20周年を記念した興味深い企画記事が海外メディアにて公開されていましたので、今回はそれについて書いてみたいと思います。
その記事は「7 pieces of gear that helped shape Radiohead’s timeless OK Computer」というもので、アルバムで使用された重要な7つの記事を紹介していくというもの。記事によれば、このアルバムの機材費だけでもバンドとプロデューサーのNigel Godrichは、10万ポンド、今の為替レートで言えば約1440万円も費やしていたそうですが、実際に制作に使われた機材はその費用よりは比較的に安価となっていたようで、リストを見ていたら、確かにそこまでの費用にはならないなぁと思えるものでした。また、この記事では、使用された機材のエミュレートされたプラグインも紹介しているので、DTMファンにとっても興味深いものだと思います。
1. Marshall ShredMaster
アルバムの1曲目「Airbag」で使用されたギター用のエフェクター。イントロのディストーションがかかったギターはこれを通して作られた音色となっています。90年代初頭に発売されたこのエフェクターは、彼らだけでなく、シューゲーザー系のバンドにも好まれ、轟音ノイズ壁を作るのに一役買うものでMy Bloody ValentineのKevin Shieldsも愛用していたようです。現在は廃盤ですが、中古はなんと100ドル程度で手に入れることができ、「Shredder」というDIYできるクローンキットも90ドルで販売されているとのこと。
2. Akai S3000 sampler
こちらも「Airbag」のドラムパートで使用されています。曲で聴こえるドラムはあえてこのサンプラーを使って、Macで編集して作ることで粗さを演出しているとのこと。また、これをバンドが使用と決めたきっかけは、DJ Shadowによる『Endtroducing』を当時聴いいててインスパイアされたからだそうです。AKAIのサンプラーは実機がなくても最近のDAWのサンプラー機能で再現することができます。特にAbleton Liveで使えるRadioheadのグルーヴを再現するためのグルーブパックというかなりニッチなものも無料で配布されている今、実際自分で原曲を聴いて再現するのもDTMの練習になりそうです。
3. Mutronics Mutator
アルバムの人気曲の1つと言えば、「Paranoid Android」。その曲のギターソロではこのアナログシンセを基にしたラック型のフィルタースウィープを作ることができるエフェクターが使用されています。Daft Punk、 Beck、Andrew Weatherallにも愛用されたこちらは、中古市場では約1500ドル(約15万円)で取引されているプレミア機材ですが、これをエミュレートしたプラグインが、Softubeより169ドルで発売されているため、実機はちょっと高くて無理という人はこちらを使ってみてもよいでしょう。
4. Roland SPACE ECHO RE-201
「Subterranean Homesick Alien」で使われたこのリヴァーヴは、アナログ・テープ・エコーの名機として多種多様なジャンル、ミュージシャンが愛用し、未だ中古市場でも高い人気を誇っています。例えば、Dub Technoのオリジネーター、Bassic Channelのあの深海にいるような感じに響く音響効果もこれが使用されることで知られています。独特の残響ノイズが乗るこの機材は、本家Roland傘下のBossからRE-201の音の特性を緻密にモデリングしたエフェクターがRE-20として現行版として販売されています。またプラグインではAudioThingのOuter Spaceが5000円程度で購入できるだけでなく再現度が高いのでおすすめです。
5. Mellotron M400
エレクトロニックミュージックの歴史において初期のサンプラー的な機材といえば音源となるテープを機体にセットして使う「Mellotron」。この機材はExit Music (For A Film)で使用されており、当時としてもかなりのアンティーク機材の部類に入るものですが、その趣があるアナログな音色が、ディストピアでダークなアルバムのテーマに強烈なコントラストを放っているかのように感じる原文のライターは書いていますが、確かにそこは同意できる部分じゃないかなと。Mellotron M400のデジタルリメイク版は20万円以上と高額なので、Redtron 400という無料のプラグインで代用してみては?
6.AMS DMX 15-80S digital delay
「Karma Police」のラストで使われているラジオをデューンしたようなノイズはこちらを使って作っているようです。この80年代のヴィンテージのデジタル・ディレイは2000ドル以下のものは中古市場で発見すること自体が難しいらしく、オフィシャルのエミューレート版もない模様。唯一の近しいものといえばエミュレート版のプラグインがUniveral Audioから発売されている「UAD-2 ハードウェア」と「Apollo インターフェイス」でのみ使用できるものだそうです。
7. Apple SimpleText
当時バンドが使っていたクラシックなMacに付属していたテキストファイルを編集するためのソフトウエアで現行版のOS X付属のTextEditの前身にあたるもの。これを使ってアルバムのインタールード的な曲「Fitter Happier」のロボ声メッセージは作られていたようです。ちなみに現行版でもこの読み上げは”スピーチ”を選択することで行うことが可能。システム環境設定の”アクセシビリティ”内で読み上げ音声を”Fred”に変更すれば、この曲同様のロボ声を使うことができるそうです。このあたりは、DTMで曲を作っているMacユーザーなら声ネタ作成のちょっとしたTipとしても真似できそうですね。
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