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インドネシアのガムランガバユニット「Gabber Modus Operandi」とは何ぞや? という話

Gabber Modus Operandiは、インドネシア・バリ島を拠点に活動するIcan HaramとDJ Kasimynによるユニット。2018年から活動を開始し、現在までに『Puxxximaxxx』(2018年)、『HOXXXYA』(2019年)の2枚のアルバムをリリースしています。

メンバーのIcan Haramは、インドネシアの実験音楽シーンやブラックメタルシーン、DJ Kasimynはバリ島のパンクシーンで活動してきたという経歴の持ち主で、その2人がそれぞれのルーツとなる音楽と儀式音楽であるガムランや1970年代頃に生まれたインドネシア大衆音楽のダンドゥットなどのインドネシア音楽にガバ、トランス、フットワークといった欧米のダンスミュージックの要素を組み合わせて生み出されたのが「Gabber Modus Operandi」の音楽です。

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彼らの音楽性はガムランとガバを組み合わせた”ガムランガバ”といえるものですが、実際にはガバだけでなく、先述のようなトランス、フットワークを感じる曲も存在します。

そのような音楽性からわかるのはガバにしろ、ガムランにしろ、彼らのルーツのパンクにしろ、ブラックメタルにしろ、実験音楽にしろ、いわゆる”やかましい音楽”が彼らの音楽的ルーツになっているということ。ただ、それが興味深いのはこれらの音楽性を結びつけるのがインドネシアという土地柄だったという点です。

Gabber Modus Operandiが拠点とするバリでは、欧米人にも人気の観光地ということもあって、ちょっとしたイビサ的なムードがあります。そのためトランス、特にサイケデリックトランスのシーンが存在しているのですがその一方でローカルシーンではパンク、メタル、ノイズシーンが確立されるなど、速くてやかましい現代音楽が根付いています。

またガムランは打楽器の音が特徴的であり、民族的にも”やかましい”音楽と親和性が高い。そのことがあの特異な音楽につながっています。

ちなみにやかましい音楽がインドネシアで受け入れられる理由として、メンバーは「誰かが大声で騒いでいたとしてもインドネシアは警察を呼べるような場所ではない」と冗談っぽく語っているのですが、こういった背景を考えるとそれもあながち冗談ではないのかなと…。


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民族音楽の面で言えば、先述のダンドゥットも関係があります。ダンドゥット(Dangdut)は、インドネシアの伝統楽器にエレキ楽器を取り入れたご当地ポップス的な音楽ですが、それにハウスのビートを取り入れ、高速化したものが日本では高野政所氏で知られる”ファンコット(Fancot)”です。

Gabber Modus Operandiの音楽スタイルは、ファンコットをアップデートしたものというイメージでを捉えることができそうです。

しかし、そこにはテン年代のネット起点で広がった欧米のダンスミュージックが非欧米圏に伝わり、独自進化を遂げ、さらにそれがまた世界的に注目される”グローカル”の影響も少なからず見受けられます。

Gabber Modus Operandiの音楽性でいえば、その要素として挙げられるが、テン年代に世界的に広がったジューク/フットワーク、Gabber Eleganzaによるガバ・リバイバル。

それらが新旧のインドネシアに根付いた音楽と結びつき、新たな”グローカル”音楽になっている点は非常に興味深いです。

日本においてもグローカルという点では近年の民謡クルセーダーズの世界的な評価もその文脈に遠からず連なるものですし、テン年代の寺田創一再評価による90sジャパニーズハウス再評やシティポップ再評価のような”再評価ブーム”という土壌があることを考えると、そろそろ2000年代に沖縄民謡をベースにしたクラブサウンドで日本のアンダーグラウンドシーンで注目されたRyukyu Undergroundの再評価が起きてもおかしくないのでは?と思ったりもします(あとハードコアつながりでいえば、ハウスサイドではない寺田創一『Sumo Jungle GRANDEUR』期も)。

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そんなわけでGabber Modus Operandiに興味を持った方はRyukyu Undergroundもぜひ聴いてみてください(笑)。

余談ですがRyukyu Undergroundのこのアルバム、ダブ、トリップホップ、ドラムンと沖縄民謡を融合させたマジ名盤です。

Ryukyu Underground

Ryukyu Underground

  • 琉球アンダーグラウンド
  • ワールド
  • ¥1528

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Top image via Neocha/Oktavian Adhiek Putra

Reference:
https://djmag.com/features/get-know-gabber-modus-operandi
https://daily.bandcamp.com/features/gabber-modus-operandi-hoxxxya-interview
https://en.wikipedia.org/wiki/Music_of_Indonesia#Dangdut
https://fnmnl.tv/2019/12/29/89147