今週、もっとも世間を騒がせたことのひとつといえば、電気グルーヴでの音楽活動や俳優として日本の話題映画、ドラマに数多く出演してきたピエール瀧のコカイン使用容疑による逮捕とそれによる電気グルーヴの作品の出荷・配信停止処分、そしてその撤回を求める署名運動が開始されたことです。
逮捕に関して、すでに本人が使用を認めていること、直近では、最近使用を始めたというわけではなく、20代の頃から使用していたことを明かしていると報道されていることから、かねて常用していたことが推測できるわけで、これまでの報道から、”違法薬物使用=人生終わり、使っている人間は超ジャンキー”的な知識を刷り込まれている一般人からするととんでもない極悪人のようなイメージを少なからず与えている気がします。
ただ、個人的には決して褒められたことではありませんが、以下のブラックジョーク風味満載のツイートにもあるようにある意味でピエール瀧は、自分の中での許容範囲を知った上で、”コカインの用法用量を守って”使用していたので、今まで、例えば海外の若手ミュージシャンのようにオーバードーズに陥ることなく、電気グルーヴの活動はもちろん、NHKの朝ドラ、大河ドラマ、話題映画の俳優として活動してこれたのではなかろうか? とも思います。
ピエールさんはコカイン使用歴20年以上の愛薬家であり、用法用量を守って正しく摂取すれば世界的アーティストにもNHKの連ドラ大河にも出れるのだと身をもって証明し、コカインの地位向上と偏見解消に多大な貢献をされました
— N氏 (@nsi_tw) March 15, 2019
日本の過剰報道を考える
つまり、今、世間で言われているとおり、”ドラッグやるやつ、ほぼ廃人”みたいな報道の仕方はやっぱり、過剰報道すぎるのではないかと思うわけなんですよ…。それに関していえば、確かに某元プロ野球選手、某小ネタ王などは、これまでメディアで本人が語っているとおり、かなりの依存症であることは間違いなさげですが、約20年ドラッグを使用し続けて、あれだけの活動を今の今まで続けてきたピエール瀧は、何も超人的にドラッグ耐性があるわけでもなく、単にやりすぎない。まさに嗜む程度の使用を続けてきたことの証左に他ならない気がします。
しかし、アメリカやカナダなどですでに嗜好用として解禁されている天然由来の大麻に比べるとやっぱり、コカイン、ヘロインのようなケミカル系のハードドラッグは、モラル以前に人体に及ぼす影響も大きいので、健康的な生活を続けていきたいならやっぱり使用は差し控えるべき。まあ、そういったものは化学的に快楽を得るために調合されているものですからね。リスクもやはりそれ相応だということは間違いない。
それにインジェクションで体内に取り込むか、鼻から吸引するかでまた効き目、ひいては人体に与えるダメージも違ってくると思います。(ピエール瀧の場合は丸めた海外の紙幣が見つかったと報道されているため、摂取方法としては後者がメインだったということでしょう)
また90年代から海外のクラブシーンとつながりを持ち続けるテクノアーティストという面を考えると、十分に向こうのドラッグカルチャーにも触れている可能性はある。ですので、先述の”用量用法を守った使い方”を知っていても全く不思議ではないと個人的には思います。
ですが、言わせて頂くなら、個人的にはやっぱり、すでに少なくとも海外で合法化されているものならともかく、ハード系を日常的にキメているような人間は、いつどこでどうなるかわからないので接するのは怖いなと思う面もやっぱりあります。まあ、これに関しては何もドラッグだけでなく、お酒でも酒癖が悪い酒乱が原因でトラブル、特に障害沙汰を起こしてしまう人もいるので、"何でもやりすぎはよくない"につながるので、複雑かつ微妙なところかとは思いますが…。
電気グルーヴの作品の出荷・配信停止処分を考える
あと、ソフトかハード関係なく少なくともこの国では所持と使用は罪。ジャンキーはもちろん、自分の周りにはいてほしくないと思いますが、別にジャンキーでなくても所持しているだけで、それは法に触れていることになるため、見つかれば今回のように容疑者として逮捕される。活動自粛は仕方なし。だと思います。だって、それがルールだから。そこは間違っていないと思うのですよ。個人的にも。
ただですね。ピエール瀧は、個人的にコカインを使用していわゆるセルフケア用品として日々のストレスを緩和してたのか、それともただハイになりたかったのかどうかは私にはよくわかりませんが、とにかく薬をキメて、路上で刃物を振り回したりとか、女性を襲ったとか凶悪で被害者がでるような行為が原因で逮捕されたわけではないのですよ。少なくとも現時点の報道でわかっていることから言えば。
しかしながら所属するレーベルによる電気グルーヴの作品の出荷・配信停止処分は、社内のコンプライアンスの面を考えれば、特にこういう時代だし、そういうことがあっても全く不思議ではないと個人的には思うのですよ。
自主規制を行う原因はそもそもどこにあるのかを考える
でも、その前にレーベル側の批判対策のための締め出し実施は本当に意味があるのかどうかも考えてほしいと思います。もちろん、私も社会人なので、事前に予想される問題に対して、対抗策を講じるのは何も間違ったことではないし、むしろ、資本主義社会の法人としてビジネスを行なっている組織ならそういう措置をとって然るべきだと思います。
しかし、問題を起こしたことを理由にその音楽家、俳優の過去作品を根こそぎ、世の中から抹消することは意味があるのか? スポンサー問題で今後、放送なり、上映されるものに関しては、仕方ない部分ももちろんあると思いますが、すでに世の中に、しかも長年に渡って流通しているかつ今でもファンが自発的に探して見たり聴いたりするような過去作までその罰の対象にする姿勢はやっぱり疑問があります。
このあたりは、ソウルフラワーユニオンの人とか、坂本龍一がSNSでも発言してることでもあり、多くの人が共感している部分だし、まさに私もそう思います。(厳密にいえば、私は電気グルーヴの音楽よりもピエール瀧出演映画なりドラマの自主規制による配信停止とかの方が困るなと思う類の人間です)。
「電気グルーヴのCDおよび映像商品の出荷停止、在庫回収、配信停止」
— skmtcommmons (@skmt09) March 14, 2019
なんのための自粛ですか?電グルの音楽が売られていて困る人がいますか?ドラッグを使用した人間の作った音楽は聴きたくないという人は、ただ聴かなければいいんだけなんだから。音楽に罪はない。
【署名/拡散】
— ソウル・フラワー・ユニオン (@soulflowerunion) March 15, 2019
株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ: 電気グルーヴの音源の出荷停止、在庫回収、配信停止を撤回してくださいhttps://t.co/KkDcrxS3Ha
でもですね、配信停止を企業的な対策として決めたレーベル側を叩く前に、過剰に問題を起こした人物を報道する姿勢とそれを過剰に煽り、気持ちの良い正義を無責任に振りかざすSNS経由の声、集団心理の圧力というのも、この問題の原因のひとつになっていると私は思います。
今回のケースでいえば、レーベルは究極的にいえば、現行の社会通念、コンプライアンス対策としてそのような措置を決めたわけで、モラルの部分ももちろんありますが、やっぱり過剰なネット民などの批判対策も大いに含まれていると思うのですよ。
出荷・配信停止処分に関しても、昔からのファンが憤るのはともかく、これまで"電気グルーヴ何それ美味しいの? "状態の人でも批判については面白半分で自分にとって気持ちが良い正義を振りかざしたいだけでもできるわけで。それが特に匿名性が強ければ強いほど誰にも気兼ねなくできる。そういうSNS特有の闇が、そもそもそういうムードを作り出している気がします。
時代にあわせたポリティカルコレクトネスからくる批判を過剰に避けようとする意識
何にしても過剰報道とその受け手の過剰反応、そして受け手からの反応を面倒ごとだとして過剰に避けたがる企業側のコンプライアンス意識、全てが今のような状況を生み出しているんだと思います。個人的に昨今のポリティカルコレクトネスは本当に時代の社会通念が大きいと思います。”今まで許されていたからやっていた”がある日を境に許されなくなる。Me Too運動で多くの業界人が事実上の引退に追い込まれたのはまさにこれで、その認識が変わったことを真摯に受け止めないと、どんどん時代の空気読めない、泥沼にハマる人になってしまう。
ちょっと前のとんねるず問題なんかはまさにこれで、部室芸が社会に受け入れられなくなってきたのは、スポーツの名門校でこれまで暗に行われてきたしごきが社会的に正しくないと認識されだしたことからくることに原因の一端があり、その”イジメ”のイメージを連想させるからだと思います。
変な話、ドッキリで何も知らない人を水に落とす、後輩に高い時計を買わせる、ストレートの人間がパロディー化したゲイキャラを演じる。そういたことがイジメに見えるような社会になってきたことが結果だと思います。
もちろん、パワハラは許さない、多様性を認めるというポリティカルコレクトネスのおかげで、結果的には多様性が重んじられ、個人の人格が理由もなく否定されない空気感が徐々に世間に伝わりだしている昨今の時代の社会通念を物語っているため、私個人としては「それはあくまでコメディーだから許してやれ」と思うよりは、そういう社会性の変化に気づけないことがこの問題の根底にある。つまり、時代にフィットしていくことができないことが問題になっていく時代が到来したと感じてしまうのです。(もちろん差別撤廃や問題を告発するという社会のために声をあげる活動をされてきた方の普段の努力、問題提起があってのことで、その結果としてそういう意識が生まれてきていることは前提として)
しかし、これもやっぱり、間違いは絶対に許さないという外部の声にも少なからず原因があり、それが匿名性を担保されていることを強みに無責任な発言をする人を巻き込んで膨張した結果の大きな外圧になっている気がします。
問題を正すための声があがることはもちろん良いことだと思いますが、ただ、その場合は、そこに"自分が気持ち良い正義を振りかざしたいだけ"というスタンスは含めてほしくないと思います。というのも、現状、平たく言えば、そういう外圧対策の一環として企業のコンプライアンスがあり、問題発生時の対応=自主規制が行われるのですから。
ですので、自主規制によって問題を起こした俳優なり音楽家が関わる作品の出荷・配信停止処分を求めるなら、少なくとも自分のスタンスをしっかりと主張した上で、本当に社会的に正しくないからである理由を述べる、意見するべきだと思っています。そして、その撤回を求める場合も同じであってほしいです。
だから私は今回のことはやりすぎだと思います。そして社会の批判に忖度した結果だということもわかります。まあ、その結果に批判が起こっているのは皮肉な話ですが…。
一方で、これまでの活動の結果、ピエール瀧がアングラな日本のテクノファン、サブカルファンから熱狂的に支持されるキレた芸風を持つ存在としてだけでなく、朝ドラ、大河をはじめ、近年の邦画作品で抜群の存在感を示し続けてきたアングラに興味がなくてもその存在をよく認知されている人物であり、アンダーグラウンドとオーバーグラウンドを高次元で行き来できるような日本のエンタメ業界において稀有な存在であったが故に、多くの人に衝撃を与え、これまでも行われてきた作品に罪があるのか論争を上回る規模で巻き起こす結果になったのだと思っています。
change.orgの「電気グルーヴの音源・映像の出荷停止、在庫回収、配信停止を撤回してください」に署名したい理由
もちろん、犯罪行為は犯罪行為だし、誰も被害者がいないんだから許してやれよとは決して言いませんが、禊を終えたら復帰するのはアリだし、そういうチャンスもあって然るべきだと思います。これも今、広く議論されていることですが、社会復帰の道を閉ざすことは、さらにその人物を追い詰めることになりかねないからです。(ただ、その復帰を社会的に許容する条件としてはやはり、犯した罪の重さに準じて決められるべきだと思いますが...)
そして、作品の出荷・配信停止処分は音楽家、俳優の薬物問題の根本的な解決の面において、何も意味がないと思うと同時に、電気グルーヴの作品自体にまで罪を問う必要はないと感じています。
だから、最近立ち上がった署名サイト・change.orgの「電気グルーヴの音源・映像の出荷停止、在庫回収、配信停止を撤回してください」というキャンペーンに署名したいと思います。
11時間足らずで1万人以上の方からご賛同いただきました。ありがとうございます!引き続きよろしくお願いします。 https://t.co/6Wo0XP7dYE
— 永田夏来(さにはに) (@sunnyfunny99) March 15, 2019
change.orgでは、例えばれっきとした犯罪行為を行ったラッパーの6ix9ine釈放を求める署名があったりとたまになんだかな〜って思うようなものもあったりするのですが、今回の民意を届けたい対象は、罪を問われるべき個人ではなく、罪とは関係ない過去作品に関するものなので、問題に対して一旦、冷静に考えた上で、こう思ったから署名しようと考えました。
署名サイトで集まった署名がどれほどの効力があるかはわかりません。しかし、クラブカルチャー好きにとっては、記憶に新しい2016年に起きたロンドンのクラブ・fabric閉店問題の解決につながった実例もあるかと思うので、結果はどうあれ、やっぱり民意を届けることは大事だなと…。それが結果的にもこの問題について広く考えるきっかけになると思います。以上、お後がよろしいようで。
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Top Image via change.org