「エイドリアーン〜」の叫び声のイメージが広く伝播してる映画『ロッキー』。そのシリーズ最新作、厳密に言えばスピンオフ作の『クリード 炎の宿敵』が、いよいよ来年、2019年1/11からここ日本でも公開されるわけですが、そのサントラ『Creed II: The Album』の制作陣、および参加メンツがヒップホップ色特濃でマジハンパないなと思う今日この頃です。
2018年のハリウッド映画 x ヒップホップ
今年の映画 x ヒップホップといえば、かのKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)& 彼が所属するレーベル「TDE」のCEOであるAnthony "Top Dawg" Tiffith(アンソニー "トップ・ドッグ" ティフィス)が手がけたマーベル映画『ブラックパンサー』のインスパイアアルバム『Black Panther: The Album』が代表的な1枚かと思いますが、先述の『Creed II: The Album』もヒップホッププロデューサーのMike WiLL Made-It(マイク・ウィル・メイド・イット)が手がけたこちらも、先ほどはサントラと言いましたが厳密に言うと作品のインスパイアアルバムという位置づけになっています。
ちなみに『クリード 炎の宿敵』は、前作『クリード チャンプを継ぐ男』の続編で主人公のアドニス・クリード役を人気黒人俳優のマイケル・B・ジョーダンが演じているのですが、そのマイケル・B・ジョーダンは、『ブラックパンサー』でもストーリーにおいて重要な意味をなす主人公の宿敵キルモンガー役を演じていることもこの2作における共通項の1つです。
またエグゼクティブプロデューサーを前作の監督でもあり、大ヒットした『ブラックパンサー』監督で、昨今のハリウッドのトレンドとしても注目を集めるブラックムービー旗手的存在のライアン・クーグラーが務めていることも見逃せない点。
そういったこともあり『クリード 炎の宿敵』は、音楽面でも『ブラックパンサー』との共通項があり、昨今のエンタメのトレンドの新潮流「ヒップホップ x 映画」といった新世代のブラックカルチャー感を感じます。
グラミー賞ノミネートでも目立った『ブラックパンサー』
『Black Panther: The Album』についてはもはや説明不要かとは思いますが、同作でKendrick Lamarは、例えば、SZAとのコラボ曲である「 All the Stars」で来年2月に発表される第61回グラミー賞の最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞などにノミネート。またアルバム自体も最優秀アルバム賞にノミネートされるなど全部で最多となる8部門にノミネートされる無双ぶりを発揮。
Without releasing any solo albums in 2018, Kendrick Lamar leads Grammy nominations with a total of 8 🔥 pic.twitter.com/23ye7UG68a
— DatPiff (@DatPiff) December 9, 2018
昨年、彼は最優秀ラップアルバム賞などヒップホップ部門などで5冠となったものの、主要3部門は、軒並みBruno Mars(ブルーノ・マーズ)に奪われていただけに、来年のリベンジに期待がかかるわけですが、もし主要部門を獲得すると今回はKendrick Lamarアーティスト個人の名誉だけでなく、ブラックムービーの歴史においても偉業となる面もあるだけに、その結果には音楽界だけでなく、映画界からも注目が集まっていると言えるでしょう。というか、これ、マジで実現したらとんでもないことじゃないかと。
ちなみに同じく2019年に発表されるアカデミー賞、こちらのノミネート作品は来年1月発表ですが、もちろん全米歴代3位の大ヒットを記録した『ブラックパンサー』もノミネート候補に挙げるメディアも多くなっています。グラミー賞が現地時間2/10でアカデミー賞が2/25に発表なので、もしかしたらグラミーでの『ブラックパンサー』関連作が躍進すれば、その影響をアカデミー賞が受けるなんてこともあったりしてとか夢想してしまいます。
Pharrell、Kendrick Lamar、J.Cole、ラップスターだらけの『クリード 炎の宿敵』サントラ
そして『クリード 炎の宿敵』サントラ、インスパイアアルバム『Creed II: The Album』に話を移しますと、まず、先述のライアン・クーグラーーが監督した前作『クリード チャンプを継ぐ男』のサントラには、映画『ラ・ラ・ランド』にも出演したJohn Legend(ジョン・レジェンド)をはじめ、今年の『ハン・ソロ』出演や、今秋ひっそりとNetflixでも配信が開始されていたことが一部でも話題になったドラマ『アトランタ』で知られるドナルド・グローバーことChildish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)、そのほかにもFuture(フューチャー)、 Meek Mill(ミーク・ミル)、Nas(ナズ)、 Joey Bada$$(ジョーイ・バッドアス)、果ては2Pac(2パック)が参加していたり、一時引退を示唆していたものの、最近リリースしたアルバム『NOT ALL HEROES WEAR CAPES』が話題の天才ビートスミスのMetro Boomin(メトロ・ブーミン)がトラック制作で参加していたりとこちらも何気にヒップホップオールスター的なサントラだったりするのです。
余談ですが、Metro Boominの先述のアルバムはサンプリングセンスも光るアルバムなのですが、私のようなエレクトロ世代にとってはアイドル的存在だった北欧のエレクトロポップシンガーのAnnie「Anthonio」をサンプリングした「Overdue」というトラックも収録されていたりします。ただこれって、「てかAnnieって誰やねん」的な今の若者が確実に知らない究極のトリビアなんじゃないかなと。
というわけでその昔、Annieという、今でいうところのAnna Of The North的な北欧エレクトロポップアイコンがおってな…。的な話をすると長くなるので、とりあえず名曲「Heartbeat」を聴いて頂けたらと思います。
閑話休題。
前作の時点で『ロッキー』という白人が主人公の映画がルーツになっているものの主人公が黒人になったことでブラックカルチャー色が強いものになっていた『クリード』のサントラ。
その新作のサントラ(厳密に言うとインスパイアアルバム)は先述のとおりMike Will Made-It仕事なのですが、なんとこちらにもKendrick LamarがPharrell Williams(ファレル・ウィリアムス)とコラボした「The Mantra」で参加していたりもします。
さらにASAP Rocky(エイサップ・ロッキー)、ASAP Ferg(エイサップ・ファーグ)、Nicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)、Lil Wayne(リル・ウェイン)、Schoolboy Q(スクールボーイ・Q)、2 Chainz(2チェインズ)、Rae Sremmurd(レイ・シュリマー)、Kodak Black(コダック・ブラック)、Gucci Mane(グッチ・メイン)、Quevo(クエヴォ)、Juicy J(ジューシー・J)、J.Cole(J・コール)、Vince Staples(ヴィンス・ステープルズ)、あと誰もSEXと呼んででないYoung Thug(ヤング・サグ)などなど、"ドリームチーム、再び"感がすごい。
ですので、売れているラッパー全部集めてみましたみたいなところにもうすごいぞ、アメリカ!、すごいぞ、ハリウッド!、すごいぞ、ロッキーシリーズ!という思いを感じずにはいられない状態です。いや〜、これ、Mike Will Made itやってんなぁ、おい! と驚嘆せずにはいられないのですね。
あと余談ですが、今年大ヒットした「Boo’d Up」が、第61回グラミー賞の最優秀楽曲、最優秀R&Bソングの2部門にノミネートされたイギリスのシンガーElla Mai(エラ・メイ)もこのアルバムに参加。
西海岸が生んだスーパープロデューサーDJ Mustard(DJマスタード)が見初めた彼女がここに加わっているのも中々に胸アツですね。
ヒップホップアーティストがキュレーションするブラックムービーのサントラがトレンドに
このようにヒップホップが映画界のキラーコンテンツであるマーベルシリーズやロッキーシリーズの音楽面を担当するという現況は、まさに昨今の多様性を重んじるエンタメ業界に生まれた一大潮流と言うべき現象と言えるのではないでしょうか?ちなみに今月から日本公開となった映画『キックス』でもヒップホップは重大なキーワードになっています。
同作はライアン・クーグラーとも親交があるジャスティン・ティッピングの長編デビュー作なのですが、その試写会にて、日本の映画監督でヒップホップムービーを手掛けた経験を持つ宮崎大祐氏が、「日本ではまだ大ヒットしたヒップホップ映画が生まれていない。日本で広がらない理由は?」という質問に対し、「世界的にも逆にこれからの時代はヒップホップを使わない映画の方が少なくなる」と語っておられたのですが、この2作は”今、まさに映画の都ハリウッドではそういったことが起こっているんだな”というのがよくわかる例かと思います。
『クリード 炎の宿敵』監督はJay Zの仕事経験あり
なお、『クリード 炎の宿敵』監督のスティーブン・ケープル・Jr.は、ほぼ無名の若手監督で今作が初めてのスタジオ製作映画ですが、実は彼、Jay Z(ジェイZ)と最近音楽活動を再開したウィル・スミスらがプロデュースするアメリカのテレビ局HBO制作のミニシリーズの監督も務めた実績も持っていたりとサントラ同様ヒップホップと結び付きを感じるキャリアの持ち主です。
また同作では主人公だけでなく前作に引き続きヒロインを黒人女優のテッサ・トンプソンが再び務めるなどダイバーシティさを感じるキャスティングになっているのがポイント。(彼女は今、ハリウッドでもっとも旬な女優の1人と呼ばれています)
先述の『アトランタ』やNetflixのオリジナルドラマ『マーロン』なんかでは白人ではなく主要人物を黒人で固めた作品も増えてきていますが、そのあたりからも「オスカーは白人だらけ」だという批判もある映画業界における新時代の到来をを感じさせられます。以上、お後がよろしいようで。
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Top Image via Ella Mai