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ここがすごかった! black midi東京公演レポと『Schlagenheim』に加えられた新曲「Cameron's Song」の話

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行ってきました。UK新生バンド、black midi(ブラック・ミディ)の初来日ツアー東京公演! 当日は、オープニングアクトのDos Monosには間に合わなかったものの、black midiのギグスタート前、直前に会場となった代官山Unitに滑り込みで入場。長い階段を降りるとフロアはすでに満員状態。会場スタッフさんの「これからまだ人が入るので、できるだけ中の方にお願いします」という指示もあり、あたかも会場後方は満員電車に乗り込む際のラッシュ時の駅のホームのようでした(笑)。

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出囃子がDizzee Rascal「Bonkers」だったblack midi東京公演を振り返る

ライブスタート直前、なにやら聴いたことがあるエレクトロハウス風のフレーズが会場に響き渡り、まだ転換時のSE的なやつなのかなと思ったら、そのDizzee Rascal(ディジー・ラスカル)「Bonkers」が出囃子となり、曲後半からそれにあわせてバンドがセッションを始めるような形でライブスタート。

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冒頭1曲目と2曲目は「953」、「Speedway」というアルバム『Schlagenheim』と同じ展開で、会場にいた誰もがいきなりテンションMaxになっていたように思います。

Schlagenheim

Schlagenheim

  • black midi
  • オルタナティブ
  • ¥1500

 そんなblack midiライブの感想ですが、まず総評として

・インプロっぽさも演出に取り入れた"セリフのないオペラ"のようなスペクタクルさがあって大満足

MCなしのセッションスタイルのようなライブでは、途中、ギターの弦が切れるトラブルなどもあったものの、それすらもステージ演出に取り込むかのように、ユーモアたっぷりのリアルタイム・ギターの弦張り替えショーにしてしまうというアドリブ力の凄まじさ。

まだ若手ながら精力的にライブをこなす、ライブバンドとしての強みが思わぬ形で発揮されていました。私は会場後方にいたため、よく見えなかったのですが、のちに会場にいた方のSNSでみたところ、ちょっと笑えるくらいに余裕を感じるので、これは是非観ておいてほしいです(笑)。ほかにもギター同士がステージ上でダンスを披露するシーンもありました。

 

 ・手数が多いと言われるblack midiのドラム、生で観ると実際にめちゃ手数が多いのがよくわかる。ライブでは人力ドラムンビートを叩く場面も。圧巻。

『Schlagenheim』を一聴すればすぐにわかることのひとつがバラエティに富んだblack midiのドラムビート。拍子やテンポチェンジを1曲の中で使い分けるかのように展開して行くドラムは手数の多さにかねてから注目が集まっていましたが、実際に生で観ると本当に多い。よくバンドの骨子を支えるのはドラムとベースだと言われますが、black midiは、ドラムの比重がライブだと特に大きいと思いました。

ライブ自体はおそらく1時間ちょっとだったと思いますが、MCなしで突き進むライブを通して叩きまくる体力にも感服しました。まさに体力無尽蔵系ドラマー!。一瞬、"中盤のダイナモ" aka 北澤豪が頭に浮かびました...。

・わかりやすくバンドの顔のようなシンガー、リードギタリストはいないけど、その代わりに4人が連動して一つになって強靭すぎるグルーヴとパフォーマンス力発揮していたのが良かった。

ライブでイニシアチブをとっていたのは、ギター、ボーカルのGeordie Greep(ジョーディ・グリープ)。black midiの曲には正直、わかりやすくOasis(オアシス)のようなみんなでシンガロングしたくなるような曲は現状ありません。バンド自体の演奏スキルは高いとはいえ、Johnny Marr(ジョニー・マー)のようなギターヒーロー的存在もなし。

でもそういう王道のUKロックにはない個のカリスマ性に頼らない、4人が連動しひとつの塊としてグルーヴ、ヴァイブスを放ちまくるスタイルはまた違うUKロックのかたちを感じさせてくれました。会場で見ていて思ったのは、とにかく彼らは反復するルーピーなフレーズを重ね合わせることで、強靭なグルーヴを作り出していくということです。フレーズが反復するたび、小さい円の外側に一回りずつ重なり、膨れ上がっていく。そして、それが会場に集まった観客を飲み込んでいくという感じでした。

 

・ミニマルでルーピーなフレーズに身体を揺らされることもあれば、King Crimson(キングクリムゾン)みたいに思えるシーンもあった。一方で言われているようなMiles Davis(マイルス・デイヴィス)を思わせるエレクトリックジャズやハードロック感のあるギターリフが炸裂シーンもあった。そういう意味でみんながそれぞれ感じていた要素を実際に確認できたようなライブだった。

様々な音楽からの影響をこれまでに公言していたり、指摘されていることもあって、音楽好きがそれぞれが思う影響源をバンドに重ねたくなってしまうのがblack midi。先述したとおり、今回のライブではまさにそういう場面が見られたのではないかと。

クラウトロック由来のファンクネスも持ち合わせているバンドには個人的には23 Skidoo(トゥウェンティスリー・スキドゥ)風味も感じていて、特にミニマルファンクな「Ducter」は、かのケミカル「Block Rockin' Beats」元ネタと見られている「Coup」のファンキーなリフを彷彿とさせます。多少強引な解釈かもしれませんが、こういう風にこじつけてでも謎解きをしたくなるのが彼らの魅力だなと改めて実感しました。

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加えて、現代のクラブミュージックにも通じるリズムパターンはクラブ系リスナーにも突き刺さるのかなと。Gqomなどのアフロ・エレクトリックミュージックのような複雑なリズムは、彼らの本国イギリスでも近年、人気ですし、メジャーなところでも三連符フロウのトラップは今やクラブヒットにとどまらず、ヒットチャートを席巻。さらにそれがポップスにまで浸透し、今やK-POPアイドル(BTS、BLACKPINKなど)も取り入れる時代です。

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さらに最近ではアフロビートが、Beyoncéパワーのかいもあってか、エンタメの最前線にまで顔をだしています。そういう意味で複雑なビート、リズムは現代の音楽リスナーに耳馴染みが良いというのもあって、black midiの音楽はコアなマスロックファンに限らず、広く音楽好きの興味関心をそそるのではないでしょうか?

・1時間ちょっとのライブは当然セトリがあるはずだけど、ステージ上でアイコンタクトしながらセッション的に演奏しているようにも見えた。そのインプロ要素も興味深いものだった。

こういった部分からは”ジャズ”を感じ、曲の輪郭は見えているけど、中身は自由に味付けしていきますみたいな様がカッコよかったです。そして、そこの部分は、名門音楽校出身かつライブを数多くこなしてきたバックグラウンドからくるスキルがあればこそだと思えました。

・自分はベースミュージック系イベントの際にUnitに行くことが多いだけに、今回はそのサウンドシステムカルチャー対応型の超重低音とはまた違った人力むき出し低音グルーヴを感じた。

Unitにはサウンドシステム積みまくりのJah Shaka(ジャー・シャカ)祭りによく行きます。それと去年のCRZKNYによる地獄超重低音の思い出など、とにかく人の耳で聴くことができないようなエグい低音を身体で感じる場所的なイメージがあります。でもそれとは違った人力のまさに耳に響く”むき出し低音グルーヴ”ならではの良さを体感できたことはライブならではだと思います(ちなみに『Schlagenheim』はシンセなど電子楽器も使って、サウンドをビルドアップしているそうです)。

 


・ロックスターというよりは”バンドヒーロー”という感じだった。一方で例えロックに詳しくなくてもジャズっぽさを感じたりそれぞれが思う音楽の要素なり影響を感じとれるおもしろさもあり。そこが”未来からインディーロックを想像する”評につながると思った。

先述のくだりと若干、重複しますが、ホント、ロックスターというよりは”バンドヒーロー”でした。海外の音楽メディアにはblack midiにポスト”The Libertines(ザ・リバティーンズ)”的イメージを指摘しているところもありましたが、Pete Doherty(ピート・ドハーティ)的な絵に描いたようなロックスター系のフロントマンはなし。個の力よりも一丸となって音楽を作るタイプのバンドだということをライブで改めて確認しました。セッションにより曲を生み出していくというblack midiだけにそのスタイルはライブにもしっかり投影されているんだなぁと。ですので、そういう意味で”バンドヒーロー”というのが私の感想です。

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またEDM以降のラップトップ、インターネットがあれば、10代の”ワンダーボーイ”がいきなりスターダムに飛び出すことができる個の力に注目が集まる現代の音楽シーンにおいて、バンドというひとつの生き物として動いている感があったのは興味深いところです。インディーロックにしてもベッドルームで一人で作った音楽がネット経由で火が付く時代は、以前からしたら十分に未来なのでしょうが、逆に”1x4”が集合体として超強固な”1=バンド”になるところがblack midiの特色のように思えます。

トレンドが時代とともに巡ることを考えると、今の個の時代の次にくる未来的な位置にblack midiは立っていて、そこから現代のシーンを俯瞰しつつ、それとは違うスタンスを取っているのかもなと妄想していまいます。

00年代のダンスミュージックレーベル「Underwater」全盛期は”誰も若者ギターを持っていない”と言われた時代がありましたが、数年後、トレンドが移り変わり、Bloc Party(ブロック・パーティー)、Franz Ferdinand(フランツ・フェルディナンド)らニュー・ウェイヴ・リバイバル勢のブレイクで再びバンドが活況。

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そして、今はグラストンベリーのヘッドライナーにグライムMCが抜擢されるというおもしろいくらいに個と集合体のトレンドが巡りまくるモダンUK音楽の歴史から考察すると、black midiの登場はまさに”新時代のUKロック”の到来を告げるものに他ならないのでは。特異な音楽性だけにフォロワーが生まれないという危惧は少なからずあるものの、彼らは音楽の伝統の延長線上からやってきた”未来からの異邦人”なのかもしれませんね。それだけに失速せず突き進んでほしいものです。

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You Tubeで公開された『Schlagenheim』に新曲「Cameron's Song」が加えられる

このように色々と感じることがあったblack midi初来日ツアー東京公演ですが、ライブの終盤には聴いたことがないサイケな曲も披露されていました。MCがなかったのは先述のとおりですが、その曲では「Near DT, MI」で鬼パンクな歌声を披露していたベース、ボーカルのCameron Picton(キャメロン・ピクトン)が何やら演奏しながら”Thank you~”という言葉を口にしながらポエトリーリーディングのように歌い出し、最初、私はあまりよく聴き取れなかったため、ライブに来てくれてありがとうみたいな感じでやっているのかなと思っていました。(実際に最後、日本語で”ありがとうございます”って言っていたし)。

しかし、このほどblack midiのYouTubeチャンネルでフル公開された『Schlagenheim』にその答えが。なんと動画にはボーナストラックとして、ライブでも披露された例の曲が新たに加えられていました。43:14から始まる新曲の曲名は「Cameron's Song」。

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ちょっと私の英語力が足りず全部は聴きとれなかったので、Genius職人の方がサイトにアップしてくれるのが待ち遠しい、というかそれ待ちなところがありますが、SPINによると、Cameronは露骨にテキサス訛りの英語で歌っているとのこと。どうやらアメリカンなロードムービーをイメージしたもののようで、記事のライターはデヴィッド・リンチ『ワイルド・アット・ハート』を引き合いに出しています。

イメージとしては『ワイルド・アット・ハート』のElvis Presley(エルヴィス・プレスリー)「Love Me Tender」が流れるこのシーンだったりして。エモい…。

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Top Image via Beatink
Reference: SPIN