これは、世界中のファンの予想どおり、Aphex Twin(エイフェックス・ツイン)の新作に関係するプロモーションで、のちに9/14にリリースされた『Collapse EP』の告知だったことはすでに報じられているとおり。
その正式なリリース発表と同時に公開されたのが、元々はアメリカのアニメネットワーク「Adult Swim」で公開される予定だった先行曲「T69 collapse」なのですが、同MVでは冒頭から何やら文字の羅列が画面上で表示されていたことを覚えておられますでしょうか?
「T69 collapse」MVは、Aphex TwinのビジュアルコラボレーターであるWiredcoreが手がけており、その超絶奇妙な奇形のVaporwave的なビジュアルとそれに連動するAphex Twin流ジュークのような音に注意を奪われるといった内容のため、正直、私もそこまで先述の文字の羅列に目がいかなかったのですが、実は、その文字はただの飾りでなく、Aphex Twinからのメッセージになっていたそうです。
隠されていたメッセージはAphex TwinとWiredcoreの対話だった
そのスパイ映画ばりの暗号解読能力を発揮したのが、「BECAUSE, THE INTERNET」というブログを運営する海外のブロガー(及びオンライン掲示板Redditの住人たち)。特にそのブログの記事には、自身のあらん限りの能力を振り絞って解読した的な記述があり、飛び抜けたハードコアAphex Twinファン感が窺い知れると同時に、お前誰やねん!レベルの"情報処理能力"の猛者っぷりにただただ感服してしまうばかり。
そのブロガーによると、「T69 collapse」MVの冒頭20秒ほど表示される文字の羅列は、シミュレーション仮説(人類が生活しているこの世界は、すべてシミュレーテッドリアリティであるとする仮説)に関するAphex TwinとWiredcoreの対話部分になっているそうです。
その記事ではMVで使われている「T69 collapse」のトラックにも触れられており、ベースビットキックとテンポが減速していくことで崩壊していくような感じになるため、崩壊(Collapse)と呼ぶとの記載があったり、また文字の羅列に関してはASCIIコードに対する偏愛から来るもので、そのような見せ方が採用されたようです。
MVでモデルになった街並みは最初にロゴが現れたロンドンのエレファント&キャッスル
またMVで登場する街並みは、最初にAphex Twinの3D”崩壊”ロゴが現れたロンドンのエレファント&キャッスルがモチーフになっているそうで、実際に同地にあるイギリスの化学者・物理学者マイケル・ファラデーの功績を讃えるための四角い銀色のパネルで覆われた印象的な建物「マイケル・ファラデー記念館」も登場します。
これについては、"どんな場所をMVに入れたらロンドンっぽいのか?"という対話を確認することができますが、エレファント&キャッスルをロンドンっぽいとしてしまうところが、やっぱりちょっとひねくれてるなと。というのも、普通、ロンドンといえば、バッキンガム宮殿、ビッグベン、ロンドンアイ、大英博物館あたりがランドマークとして頭に浮かぶと思うので…。
ちなみにロンドン在住ならまた話は別かと思いますが、エレファント&キャッスルに観光客の日本人が出かける理由を考えた場合、おそらくロンドンの現地の若者たちの間で人気のクラブ「Corsica studios」に遊びに行く以外はないかと思います。(下の動画にもマイケル・ファラデー記念館が登場します)
Aphex Twinの住処と噂されたマイケル・ファラデー記念館
ちなみにこのマイケル・ファラデー記念館は、かつてAphex Twinの住処だと噂されたもので、ロンドンの有名な都市伝説の1つだそうです。そのことからエレファント&キャッスル地区が今回のMVに採用されたと考えるファンもいる模様。
There was an urban myth that Aphex Twin lived in the Michael Faraday memorial (the metal cube in the roundabout which powers the northern line). So this makes a lot of sense https://t.co/78uZIIFTGE
— Christopher Giles (@ChrisSGiles) July 30, 2018
また中盤の岩などが突出してくるシーンの自然っぽい風景については、スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』のモノリスとAphex Twinが育ったコーンウォールの風景のコラージュしたものにしようという対話部分がありました。
Aphex TwinとWiredcoreの対話はエレクトロニカ版の『セトウツミ』みたい
さらにシミュレーション仮説については、最近のその説に聞き慣れると、有名な科学者たちが、人間がシュミレーションの中に住んでいる確率が高いと言っていたことに気がつかなった的なことを言ったり、神はただのAIだと語ったりもします。
さらに、イギリスのオーディション番組「Britain's Got Talent(ブリテンズ・ゴット・タレント)」について、そんなクソ番組を観ている人間がいること自体がこの世の中がシュミレーション世界ではない証拠になるし、そもそもそんなことをシュミレーションする必要がない。でももしかしたらそれ自体が自分たちがシュミレーション世界に住んでいる証拠なのかもしれないとも語っています。
それ以外には人間にとってピーナッツバタートーストにスウェーデンのジャムを乗せて食べることはプログラミングされたコードとしてはかなりワイルドなことだといった内容のことをこの対話にある模様。なんだかこの解読された仲間内の趣味嗜好に近い会話を見ていると、電子音楽、エレクトロニカ版の漫画『セトウツミ』みたいだな〜と。
『Collapse EP』は高速変態エディットビート路線のAphex Twinが目立つ内容に
なお、話をリリースされたばかりの『Collapse EP』に移すと、内容的には前作の『Cheetah EP』よりも『…I Care Because You Do』に収録されている「Start as You Mean to Go On」や、『Richard D. James Album』の「4」、「Carn Marth」あたりの高速変態エディットビート路線だなと感じました。もちろん、今作はAphex Twinなりのジューク解釈的なアプローチもあるのでしょうが、個人的にはそのように思いましたし、好みで言えば、こちらの路線のEPの方が好きです。
あとちょっと興味深かく感じたのは、今年7月にDaisuke Tanabeがリリースした新作EP『Cat Steps』とどことなく通じる部分があったことです。
同作は彼なりのドラムン〜ジューク解釈を感じる作品なのですが、実際に話をご本人にお伺いしたところ、アルバムとは違いEPというコンセプトに則って今回はアグレッシブなビートでまとめた内容になっているとのことでした。
また収録曲のうち、「For The Twin」は、Aphex Twin流のドラムン解釈的曲である「nannou」のオマージュ作だそうで、こういうところでも今回のEPというフォーマットの構成論の部分で共通項があるのかなと思いました。まあ、これに関しては完全に私の勝手な解釈ではあるのですが…。
Aphex Twin過去作ジャケが崩壊する限定盤発売
なお、『Collapse EP』リリースを記念し、Aphex Twinの過去作のCDが”Collapse”、崩壊3Dロゴ仕様ジャケットアートの限定盤としてリリースされています。
その崩壊ロゴ盤は、先述の『…I Care Because You Do』、『Richard D. James Album』など全8タイトル。そこに例の2つが入っていることを考えると、まさか私の個人的な解釈もあながち間違っていないのか? などと思いますが、実は彼の所属レーベルWarp運営の音楽配信サイトBleepでは、『Collapse EP』リリース発表にあわせて、各作品のジャケアートが崩壊3Dロゴ仕様になっているため、一概にそう言えないなと。
ちなみに国内で発売されるCDにはアイコニックな『Windowlicker』は含まれていませんが、Bleepではこちらもバッチリ崩壊3Dロゴ仕様になっています。ストアを見るとアナログとCDとデータが販売されているのですが、これは全フォーマットに適用されるのかどうかが気になるところです。
もしアナログにも適用されるなら、この崩壊3Dロゴ『Windowlicker』を是非部屋のインテリアにしてみたいですね。以上、お後がよろしいようで。
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Images via Aphex Twin, beatink, Bleep
Source: BECAUSE, THE INTERNET, Reddit, Wikipidia, Londonist, beatink