今年のグラストンベリーフェスで数々の有名アーティストをおさえ、最も話題を呼んだ飛び入り少年Alex Mann。アップライジングなUKラッパー、Daveのステージに飛び入りで参加し、彼とグライムMCのAJ Traceyによる「Thiago Silva」を披露し、多くの観客の予想に反して、見事にパフォーマンスしたが会場の度肝を抜き、そのシーンをおさめた動画が瞬く間にバイラル化。
BBC Musicの公式YouTubeチャンネルでもハイライト動画として公開され、今では600万回近く再生されるという…。
グラストンベリー少年Alex Mann、かねてから言われていたデビュー曲をリリース
まさに漫画みたいな出来事すぎるため、中には英語でいうところの”too good to be true”、つまり、出来すぎた話と思い、仕込みであることを疑う人間もいれば(実際にイギリス国内でもそういった考えの人も決して少なくない模様)、一方で素直に感動したとこの漫画『Beck』みたいなサクセスストーリーを好意的に捉える人に別れており、”分断の時代”に直面し、ボリス・ジョンソンの首相就任でリアル分断待ったなしのイギリスらしいシニカルな現象も起きています。
イギリスは日本だと”紳士の国”というイメージが強いかと思いますが、当のイギリス人たちに言わせると”コメディ”も国の文化の特徴のひとつだそうで、彼らが得意とするというか、気質は皮肉、冷笑なので、そういったシニカルなコメディセンスもまたイギリス文化の持ち味といえます。
そんなイギリスだからこその反応は、現在、この15歳の少年のかねてから騒がれていたデビュー曲にも向けられており、見ようによっては”#AlexFromGlasto”というSNS上で生まれたこのハッシュタグに起因する彼のキャラクター像も、”一発屋”イメージの印象づけを加速させているようにも思えます。
デビュー曲「What You Know ‘Bout That Bro!」の反応は…
Alex Mannは以前のインタビューでも語っていたとおり、どこぞの大人が話を持ちかけたんでしょうね。7/24にデビュー曲「What You Know ‘Bout That Bro!」をリリース。曲はイントロを聴けばすぐにイメージがつくくらいのコテコテのグライムになっています。Skepta(スケプタ)によるモダン・グライムアンセム「Shutdown」を聴いたことがある人ならなんとなく言わんとすることがわかっていただけるはず。
そのMVがこのほどグライム、UKヒップホップなどUKアーバンミュージックをキュレーションするYouTubeチャンネル「GRM Daily」にて公開開始となりました。
内容は先述の”#AlexFromGlasto”イメージをモロに利用したパリ・サンジェルマンのユニフォームにハット姿、さらにはスマホでその”伝説的グラストンベリーパフォーマンス”を見ているシーンもばっちり盛り込まれています。
またグライム、ヒップホップのMVでよくある”フッドの仲間たちがユナイト”する感じも採用。Alexx Mannと同世代の少年少女たちが集結するシーンとしてMVに差し込まれています。しかしながら、YouTubeのコメント欄を見ているとどうにも視聴者側の反応はよろしくないようで、中には”『ハリー・ポッター』のグライム版みたい”というようなコメントも…。この指摘、めちゃいい得て妙というか、確かにそんな印象を受けました(笑)。
映画『マッド・ドライヴ』的な大人の思惑が指摘される
MV評で興味深いのは「CLASH」というメディアによる、イギリスの音楽業界を舞台にしたサイコサスペンス映画『Kill Your Friends』を引き合いに出しながら、Alexx Mann本人がクリエイティヴな要素を発揮したとは思えないという指摘です。
ニコラス・ホルト主演の『Kill Your Friends』は、90年代のブリットポップ最盛期のイギリス音楽業界が舞台になっており、日本では『マッド・ドライヴ』という名前で公開されました。
映画は簡単に内容を説明すると音楽業界で働く主人公が出世のために他人をキルして排除していくというストーリー。業界の中で頭角を表すためには”売れればそれでいい”とわかりやすいくらいの悪徳業界人像が描かれており、おそらく「CLASH」は、そこをMVから感じ取ったではないかと。
なんというか悪い金儲けしか考えていない大人がついてしまった感…。なんとなくその指摘の気持ち、私もわかります。とはいえ、MVは公開後、たった1日ですでに25万再生を突破。このチャンネルでは異例の速さで再生数を稼いでいる曲になっています。(他のMVは大体1万回以下程度)そのことを考えると、やはりバイラルスターの強みを感じますね。
そういう意味では同じ素人時代に起きたバズからバイラルスター化、その後ラッパーに転身した同世代のダニエル・ブレゴリことBhad Bhabie(バッドベイビー)は、その後もラップのスキルも上達、しかもコンスタントにリリースを重ねて活動を継続しているからすごいなと。
Alex Mann、このままいくと数年後に「あの人は今」みたいな番組に出演するなんてこともありそう。ですので、老婆心ながら、次回作はやり手の制作チームがバックについてあげてほしい。今、そんな気持ちです。以上、お後がよろしいようで。
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