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88risingコンピ『Head in the Clouds II』に勝手に『ONE PIECE』ばりの伏線を見出して回収していくという話

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かねてから注目が集まっていた音楽業界における”パン・アジア”なレーベル「88rising」最新コンピ『Head in the Clouds II』がついにリリースされました。

 

88rising人気拡大への新たな一手となる『Head in the Clouds II』

今やレーベル主催のフェス「Head in the Clouds Festival」では、約2万3000人以上のファンを動員したという88rising。

本作は、レーベルの看板アーティストであるJOJI(ジョージ)がエグセクティブ・プロデューサーとして制作を手掛け、大看板のRICH BRIAN(リッチ・ブライアン)はじめ、NIKIからHigher Brothers(ハイヤー・ブラザーズ)などおなじみの面々から、日本からはまさかのGENERATIONS from EXILE TRIBEも参加。

さらに近年は再始動したMondo Grossoとしても話題作を次々に送り出す御大、大沢伸一の新ユニットであるRHYME SOの88rising合流もリリース前から話題になりました。

Head in the Clouds II

Head in the Clouds II

  • 88rising
  • ポップ
  • ¥1600

またEDMスターのMajor Lazer(メジャー・レイザー)、人気ラッパーのSwae Lee(スウェイ・リー)まで参加しており、レーベルヘッドのSean Miyashiro(ショーン・ミヤシロ)による結集した”アジアン・カルチャー”とそのクオリティの高さを広く世界に知らしめるという革新思考にさらに磨きがかかった野心的な1枚になっていると思います。

 

Future Funkよりも「きまぐれオレンジロード」がよく似合うを感じさせるオープニング曲「These Nights」

個人的に私は、これまで88risingのリリース作品にそこまで心を掴まれてきた口ではないので、先行曲として配信されていたRich Brian & CHUNG HA(チョンハ)「These Nights」もRHYME SO「Just Used Music Again」にもそこまで興味を惹かれていたわけではなかったのですが、これまで散々レーベルが引っ張ってきた『HITC2』ということで、試しにコンピ1枚を通して聴いてみようと思ったところ、1曲目を飾った先述の「These Nights」に一気に心を掴まれてしまいました。

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K-POPスターだというCHUNG HAですが、私は例によってこの界隈の初心者のため、ちょっとどんなアーティストなのかググってみたところ、I.O.IというK-POPグループの元メンバーでこれまでに合計ストリーミング数10億回を突破するK-POPの歌姫だということがわかりました。Rolling Stoneによると、”シルクのように滑らかな歌声で英語/韓国語を駆使する”とあり、確かに歌声はとてつもなくシルキー。トラックも80s R&Bスタイルで、スムースなシンセで彩られたといった感じのトラックも爆エモ。

 

空山基のアートワークが醸し出すトレンディー感

『HITC2』のカバーアートワークでは、近年、世界的に再び注目が集まる日本人デザイナー、空山基を起用。アイコニックな”セクシーロボット”が、夕日を背にサーフボードを持つその姿から感じる”LA”、”カリフォルニア”ライクなイメージは、Dam-Funk(デイム・ファンク)も舌を巻くレベルでそのヴァイヴスがコンピ全編に浸透しているように思います。そして、そのことを知らしめる”狼煙”的1曲が、他ならぬ「These Nights」で、コンピの美意識を伝える超重要曲だと感じました。

また近年の音楽作品には音源のイメージを想起させるヴィジュアルとの関係性も重大な要素になっているように感じます。例えば、80sノスタルジーを伝えるFuture Funkにとってのアイコニックなイメージは「きまぐれオレンジロード」かと思いますが、同じく80sヴァイヴスを想起させるという意味では、この曲はFuture Funkより「きまぐれオレンジロード」よく似合うと感じました。

音源のイメージをビジュアルを記号化するとでも言いましょうか? 個人的には空山基よりも「きまぐれオレンジロード」が勝ってしまったため、88risingのこの部分におけるターゲットになりきれなかった私ですが、このように聴き手になんらかのビジュアルをイメージさせることは、ポスト・インターネット時代の音楽シーンにおける強みに他ならないはず。その証拠にこれまで”そこまで興味がなかった88rising”のコンピをがっつり聴いてみようと思わされたもんね! 状態の私がいます(笑)。

88risingが切り開く”ブルーオーシャン”

近年はK-POPのグローバル化とそれによるヒットチャートの席巻が話題になっていますが、それ以前はアジア系アーティストがアメリカのヒットチャートに切り込んでいくことの難しさも確実にありました。

しかしながら、現在のエンタメ界にも押し寄せるダイバーシティ化の波は、ほとんどのメンバーが巧みに英語を操り、そのカルチャーの中で育ってきた88rising勢にとっては確実に追い風だったはず。そこに目をつけ、アジア系アメリカ人としてアメリカのポップカルチャー市場を熟知したSean Miyashiroは、巧みに開拓していく才覚には目を見張るものがありますね。

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そういった感じのことについては88risingのドキュメンタリーなんかで語られていますので私もこれからもう一度しっかり見てみようと思います。

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ですので、88risingが話題になった頃から散々言われてきたことをいまさら言うのは少々野暮かもしれませんが、そこを踏まえて言うと、今や88risingはこの”ブルーオーシャン”攻略を熟知したエキスパート的存在なのだと思います。

その意味でファンダムカルチャーと密接に関わる、良くも悪くも”アイドル音楽”要素を持つK-POPスターの取り入れに加え、J-POPスターのGENERATIONS from EXILE TRIBEの起用は、88risingの日本市場開拓という面では非常にスマートな方法だったはず。

海外での盛り上がりとは裏腹に日本ではまだまだ感度高めの”都市生活者向け音楽”という印象がある88risingだけに、今回のアプローチは改めてその存在を日本市場にアピールする野心的な戦略に思えてなりません(一方でJ-POPスターの起用は海外からどう目に映るのかもかなり気になるところです)。

 

100%ピュア大沢伸一なRHYME SOとJOJIの過去のリミキサー起用に見る文脈の整合性

そして、そんなマスへのアプローチだけでなく、モロにアーティスト思考の権化たる、先述の大沢伸一の起用もまた音楽好事家に対する格好のアピール材料になったことでしょう。「Just Used Music Again」に関してはブレない大沢伸一節を感じるし、他の曲とはまた違った彼ならではの"音の鳴り方"になっているところは、ある程度ジャンルとして整ったこのコンピにおける刺激的なスパイスになっていると思います。

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基本的にヒップホップ、R&B、ポップ・ダンスホールで構成される、今のチャート攻略に適したラインナップにRHYME SOのテッキーなハウスを取り入れたことも良い意味での”裏切り”というか”外し”で好感を持つ人も多いのでは?

また本作のエグセクティブ・プロデューサーを務めるJOJIは、過去にはUKのエクスペリメンタル系ダンスミュージックアーティスト、Actressをリミキサーに起用するという非アーバンミュージック系のコアな音楽好きする側面も持ち合わせています。そこはこれまでの彼のアーティスティックで凝ったMVからも感じ取れる美意識よろしく、ちゃんと文脈としてマッチする部分になっているところが興味深いですね。

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お家芸”バイリンガル・トラック”のトレンド化というアドバンテージ

あとここ最近、海外の音楽シーンで注目が集まり、にわかにトレンド的な見られ方をしている”バイリンガル・トラック”というものがあります。その普及の背景にはラテントラップやレゲトンとUSのスターのコラボ、英語と韓国語が入り混じったK-POPの影響が大きいかと思います。

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しかしながら88rising躍進もそこには少なからず影響を与えているはずだし、逆に先述のようなシーンの上流での拡大によるその恩恵も受けているかと思いますが、"アジア"というキーワードを持つ、彼らにとっては”バイリンガル・トラック”は、ある意味で”お家芸”であり、アドバンテージとして嫌味なく使える武器の1つだと思います。

ちなみに本稿で取り上げた「These Nights」でCHUNG HAが担当するセカンドヴァースはこんな感じで英語と韓国語が混ざったバイリンガル・リリックになっています。

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またこの”バイリンガル・トラック”という点で見れば、GENERATIONS from EXILE TRIBEが参加する「Need Is Your Love」もまさにそう。

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同曲で彼らが聴かせるボーカルワークについては、アメリカ在住で、現地の事情にも通じるプロデューサーのstaRo氏が以下のように意見を述べられています。

実際に曲を聴いてみると「なるほど!」と思わされるさすがの分析ではないかと。

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『ONE PIECE』や『HUNTER×HUNTER』ばりの伏線を勝手に見出して回収していくという楽しみ方

ですのでこのあたりのトレンドを生み出していく巧みさもまた88risingの強みですし、そういった『ONE PIECE』や『HUNTER×HUNTER』ばりの伏線が張られたというか、謎解き要素を持つ戦略性を考察していくのも隠れた『HITC2』の楽しみ方だと思います。 

マスにアピールしながらもコア層にもしっかりと届く構成になっている『HITC2』。音楽サブスク解禁でいよいよグルーバル展開に本腰を入れ出した感のある日本の音楽業界にとっても今後向かうべき、1つの答えになり得る1枚になっているように思えるし、その象徴たるイメージが"グローバル"にアイコン化している空山基の”セクシーロボット”だというのもなかなか粋で乙なところですよね。サクッと書きたかったのに長くなってしまいました。以上、お後がよろしいようで。

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Top Image via Genius
Reference: Rolling Stone, K-POP monster, Billboard, Genius1, 2