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インパクトは「This is America」以上?「This is Nigeria」MVが訴える"みんなが犯罪者"的ゲトーでリアルなナイジェリア

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今月、俳優兼ラッパーのドナルド・グロヴァーことChildish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)が公開した衝撃のMV「This is America」。そのBlack Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)を下敷きにした現代のアメリカにおける黒人社会の実情を浮き彫りにしたリアルな内容は、世界中で話題になり、様々な考察が議論されるなど、大きなバズを生んだことは記憶に新しいのですが、今週、もしかしたらインパクトという面ではその本家以上かもしれないさらにリアルでゲトーな内容を訴えるカバー曲「This is Nigeria」というMVが公開されました。

「This is America」の最狂で最恐なカバー「This is Nigeria」

まず「This is America」ですが、とにかくバズりまくったため、シリアスな考察以外にもMV中で印象的だったChildish Gambinoのダンス動画や、パロディーも大量に生み出されるという事態が起こりました。その中で最も物議を醸したのが、カナダの女性YouTuber、Nicole Arbourによる女性版「This is America」こと「This Is America: Women's Edit」というカバー動画。

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この動画は、アップした本人的には昨今の女性の権利向上に向け、現代アメリカの女性に関する問題を訴えるものとしていたわけですが、その内容はあまりにもステレオタイプな”白人女性”目線だったため、それを見た視聴者からは、Childish Gambinoが訴えた黒人の実情に理解が全くない、そもそもアメリカ人じゃない、流行りに乗っかった売名行為だ、黒人文化の盗用だなどとボロカスに貶され、批判の的になり大炎上するなんてことも起こりました。

そんな”二匹目のどじょう”狙い目的で下手に手を出すとえらいことになってしまうことが証明されてしまった「This is America」カバーですが、今回ご紹介する「This is Nigeria」は、その女性版とは逆にそれを見た視聴者からは高く評価されています。

 

ナイジェリアの人気ラッパーが訴えるナイジェリア社会の実情

まず、この「This is Nigeria」は、読んで字のごとくアフリカ大陸にある国の1つ、ナイジェリアの実情を訴えるといったもので、発表したのは、Falzという名義で活動するナイジェリアの人気ラッパーです。

そのMVでは、現在、ナイジェリアの社会が抱える、汚職、麻薬、民族紛争、政治の腐敗など、同国で暮らす人々にとってはハンパなくハードコアでゲトーなリアルがテーマになっています。

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まずMVの冒頭ではFalzの父親で同国の有名な人権活動家であり弁護士でもあるFemi Falanaの演説が流れます。そして、本家「This is America」で、いきなり観るものに衝撃を与えた麻袋を被らされ、拘束されている人物を射殺するという件をオマージュしたシーンが登場するのですが、これが完全に本家を凌ぐ衝撃。なんとギターのような民族楽器を引いていた人物がいきなり、同じく登場する麻袋を被らされた人物を大きなナタのような刃物で首チョンパするという、あたかも映画の世界で描かれるアフリカのテロリストのようなシーンが描かれます。本家がそうであったように、実際にそういうことが起きていることを思うとかなり背筋がゾッとします。

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このように触りの部分だけでも本家以上の衝撃映像になっていることはなんとなくわかって頂けたかと思いますが、「This is Nigeria」ではそこからさらに突っ込んだゲトーすぎるナイジェリアの実情が曲に乗せて次々に描かれていきます。

 


OkayafricaやBlavityが掲載した記事を参考に色々と調べて見たところ、MVでは、民族衣裳を来て踊る若い女性たちは、ナイジェリアのイスラム過激派ボコ・ハラムによって拉致され性奴隷や強制結婚させられたチボクという都市の女性とを表現しており、その解放に対して政府による人質解放のための適切な対応が行われなかったという事実を訴えているそうです。

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(この件についてはWikipediaに「ナイジェリア生徒拉致事件」として掲載されているので詳細はそちらで)

またその他にはインターネット詐欺、警察の汚職、治安維持の特殊部隊でありながら、無実の人々に対し、無差別の逮捕、拷問を行うことで悪名高いとされているSARS、不正を行う牧師、さらにはフラニ族という遊牧民と農耕民の対立による暴力事件などが描かれます。

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ナイジェリアに蔓延する消費主義も斬る

さらに今、アメリカのSoundCloud Rap周辺でも大流行中の麻薬コデインと咳止めシロップのカクテル「Purple drank」などが同国でも蔓延していることや、億万長者の政治家の息子でDavidoというラッパーが、彼女に高価なポルシェをプレゼントするなど一部の特権階級の金持ちの生活やTVのリアリティーショーで優勝すると大金が支払われる「ビッグブラザー」に夢中になり現実から目を逸らしていることなどが消費主義的かつ享楽的すぎる生活に警鐘を鳴らしていると捉えられるシーンなども印象的です。

そんなリアルゲトー感丸出しのこの「This is Nigeria」ですが、1番やばいラインは冒頭からラップされる「ナイジェリアではみんなが犯罪者」という部分で、それはMVで描かれる先述の犯罪や不正などの例を見れば、「ああ、なるほどね」としっくりくるかと思います。

ナイジェリアには「逃げる」という選択肢すらないのか?

そして個人的に気になったのは、本家では最後にChildish Gambinoが何者かに追われるように逃げ出すシーンが描かれますが、「This is Nigeria」ではそのような描写はなし。最後はMVに登場した”犯罪者”と”被害者”が集結するシーンで幕を閉じます。

Childish Gambinoが逃げるシーンは、アメリカ社会では黒人はどこまでいっても黒人で逃げ場がないことのメタファーだという考察がありましたが、この「This is Nigeria」のラストの集合シーンの場合は、この国では誰でもいつでもどこでも犯罪者に成り得る実情があるので、そういう負の連鎖的要素からはもはや逃げるという行為事態が無駄であるということを表現しているように個人的には思えました。

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ちなみにFalzは、先述のとおり、父親が有名な弁護士というハイソな家庭出身でイギリスの大学卒のインテリ、また俳優としても活動している人物らしく、ゲトーからの成り上がりという存在ではないようです。しかし、そういった”良いとこ出”の人間だからこそ、冷静に今、この国で起こっていることを見つめ「ナイジェリアのリアルはヤバすぎる説」を世界中で流行中の映像に合わせたアイロニックでハードコアなパロディーとして生み出すことができたんじゃないかなと。

今後、「This is Nigeria」に対する考察がさらに多く発表されることに個人的には期待しています。是非アフリカ情勢に詳しい方に発表してもらいたいものです。

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 Top image via Falz
Source: Okayafrica1, 2, 3, Blavity, Wikipedia1, 2