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京大吉田寮 極私的『ワンダーウォール』佐伯誠之助、ドラヒップら吉田寮系から受けた音楽的影響

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東京では本日、台風24号の影響により山手線やその他諸々の電車の運行が休止、運行見合わせ状態で世間では台風や沖縄県知事選挙の行方などに注目が集まっているかと思いますが、9/30は、今月NHKの京都発地域ドラマ『ワンダーウォール』(渡辺あや脚本)が、再放送され、話題になった京都大学の学生自治寮「吉田寮」に住まう学生の退去期限日となります。

 

京大吉田寮退去問題

普段、音楽のことをアレコレ好き勝手に書かせて頂いているこのWebzineで、何を今更社会派ぶって! 迷走か? と思う方もおられるかもしれませんが、実は、私にとって京大吉田寮とは、非常に大きな存在で、ヘタしたらその存在を知らなければ、現在のようなコラム二スト活動もしていなかったのでは? というくらい人生に影響を与えていたりするので、ちょっと自分なりに吉田寮にとって書いてみたいなと思い、今回筆を取らせて頂いた次第です。

とはいえ、別に私は京大出身でもなく、吉田寮出身でもないので、おそらく思い入れレベルでは、現在、吉田寮の強制退去問題を解決するべく日々活動をしておられる方と比べたら全然大したことないとは思います。

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しかしながら、複数のメディアが報じるところによると、いくら100年以上も前に建てられた物件で、老朽化しているとはいえ、学生側が提示した補修案を突っぱねるような対応は酷い。しかもろくに彼らの声にも耳を傾けないのはいかがなものか? と思います。さらに酷いのは、毎日新聞によりますと、新しく建てられた吉田寮の新棟(西寮)についても自治会が提出した入寮者名簿が信頼できないとして、全員に退寮を要請しているというではありませんか。

 

実は先週末、大阪で仕事があったので、ついでに京都にも足を運び、京大キャンパスがある北白川、百万遍あたりを散策。ちなみにそのエリアにあった私が10年ほど前に勤めていた会社の事務所は、今はちょっとしたカフェみたいな感じになっていたため、当時の面影はゼロ…。上司や社長は今、どうしているんだろうか? と思いつつ、京都アングラカルチャーの聖地として知られる京大西部講堂を脇目に東大路を南へと歩を進め、吉田寮の前に行ってみました。

余談ですが、最近、石垣にあった立て看板なくなったんですね。これもネットで調べていると一悶着あったそうで。あと自分が学生だった頃は、その石垣撤去に反対してまだ寒い冬から春前までそこに居座って"石垣カフェ"なるものを運営されている方がいました。写真は石垣カフェ跡地。現在は何の変哲もない石垣ですが、なんとなく往時を忍ばせます。

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そんなこともあったのでもう少し早くこの記事を公開しようとは思っていたものの、どうしても仕事の都合で今になるという体たらく。これもまた学生と大人の間にある『ワンダーウォール』なんだとヘタな言い訳をしてしまった次第です。

ただ久しぶりに生で見た吉田寮は安定のカオス感。今も昔も変わらない独特の妖気のようなものを放っているなぁと思ったのもつかの間、先述の新棟は、それとは大違いで普通にキレイな外観。調べてみると2015年だかに完成とのことで、これはさすがに耐震性とか問題ないだろ感はバチバチにあります。ですので、大学側の言い分は、結構横暴だなと思いました。

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確かにこの災害大国日本におきましては、建物の安全性は重視すべき問題で、最近の多発する自然災害事情も考えるとまあ、大人サイド、京大側からしたら建物倒壊とかで怪我人が出たとか、このご時世ではとんでもなく面倒なことになるだけなので、そういったことを避けるためにもリスクヘッジしておきたいという気持ちは、私も大人なのでわかります。

ただ、吉田寮の自治の文化からしたら、改修案も出しているのだからせめて交渉の席くらいにはつけよ! と反発する気持ちもわかります。絵に描いたような”大人の事情”と”大人はわかってくれない”が"寄せては返す波のように"的なジェーン・バーキン「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」なこの感じ。壁を感じますね〜。『ワンダーウォール』ですよ。(吉田寮近くに日仏会館があるのはなんとも皮肉な...セ・ラヴィでございます)。

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Twitterでチョロチョロ見かけた投稿から得ただけの情報ですが、これについては大学側の強制退去を進める裏の目的みたいなものも実しやかに囁かれていたりもするのですが、あくまで新聞などが報じている情報を信用して考えた場合、せめて大学側は交渉の席についてあげてほしいなと。

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「築105年、日本最古の学生自治寮「吉田寮」を大掃除してみた」を読んで

このように存続か強制退去かで揺れる京大吉田寮ですが、ちょっと今日興味深い記事を発見。それはSPOTというウェブメディアで公開されている「築105年、日本最古の学生自治寮「吉田寮」を大掃除してみた」というもの。

同記事は有名ライターのヨッピー氏による、メルカリの広告記事なのですが、これが秀逸。というのも、世間的に今、吉田寮強制退去を巡っては、どちらかと言えば、”学生自治”、”文化の発信地”という吉田寮像があり、また先述のような大学側の対応もあるため、継続支援までとは言いませんが、少なくとも継続か否かをコントラバーシャルな感じで議論させるようなタイトルのものが多い印象を受けます。しかし、この記事タイトルは、ヘタしたら強制退去支持か? というような印象を受けるため、他とは違い、異彩を放っているように思えます。(こういうところが、やはりヨッピー氏が人気ライターである所以なのかと思わされます)

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内容は、長くなるのでここでは割愛させて頂きますが、ヨッピー氏も記事中、下記のように書いておられます。

都市部への人口流入によって、今までは地域が担っていた「コミュニティ」としての機能が失われつつあることへの反動か、昨今ではシェアハウスや地域のコミュニティスペースなど、コミュニティに基づく「ゆるい繋がり」を増やそうとするような試みは全国各地で行われているわけで、それを時代に先駆けて実践していたのが吉田寮だと言う事も出来る。最初はその「古さ」に興味を持って取材に来たのだけど、取材を続けていくうちに「建物は古いけど、試みとしては新しいな」と思ったわけでして、何より大事なのはその古い建物に付随する新しい文化なのだ。建物の老朽化という問題はあるにしろ、なんとかそれを乗り越えて、この文化を次世代に繋いでいければいいな、と思う。

 

そういう人が集まる場としての吉田寮については、9月に行われた”VIVA!吉田寮千年ライブ”に出演した音楽家の大友良英氏も、この問題を世に広く伝えるために自身のSNSで色々と情報を発信されています。

とここで、ようやく本稿にとっての"落語における枕"部分が終了。満を持してメインテーマである、その昔、私が関西のアングラシーンを賑わせた”京大吉田寮系”と呼ばれたインディーアーティストたちから受けた影響について書きたいと思います。

我が心にある憧れ"京大吉田寮系アーティスト"

もう今から20年ほど前ですが、たまたま購入した京阪神の情報誌「エルマガジン」で吉田寮周りの京都のインディーアーティストを紹介する最高にドープでアングラ極まる特集記事がありまして、当時高校生だった自分はそれに多大なる影響を受けました。

そこで紹介されていたのが、今も関西を拠点に活動するアングラヒーローの佐伯誠之助氏だったりするのですが、その特集で見たアコギにサンプラーを埋め込んだアイコニックなギターを持つ彼のアー写のインパクトとそのキャッチコピー、”打ち込み界のさだまさし”は、本当に衝撃的でした。

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今とは違って、気になったアーティストの音源をすぐにYouTubeなりSoundCloudで聴くなんてことはできないので、その音源やライブで体感するのはちょっと後になるのですが、ともかくその吉田寮系というアンモニアくらい強烈なアングラ臭に一気に心を持っていかれたわけです。ちなみにその特集では地下水脈のように大学の所属の垣根を越えてつながるとか、そういういかにもQJ好きみたいなサブカルクソ野郎だった若き日の私の胸にいちいち響くパンチラインだらけで、まさに生まれて初めて音楽関係で”胸アツ”を感じた瞬間だったと思います。

その中でも私はコアファイコ、ドラヒップなる吉田寮系アーティストに執心し、当時のWeb1.0な彼らのホームページの掲示板を日々チェックしたり、書き込んだりしていました。ちなみに初めて購入した吉田寮系作品はドラヒップ。当時の京都タワレコでゲットした記憶が…。

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今にして思うと当時の私はよくわかっていなかったものの、吉田寮の学生自治による運営や、そういった強烈なサブカルコミュニティーに対する憧れだけは強く、そういうちょっと型にハマり切った学生、若者の生活からはかけ離れたオルタナ感が非常に眩しかったのだと思います。

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それがきっかけで大学時代には、サンプラーを購入してひたすらノイズをサンプリングしたり、日雇いで稼いだバイト代を週4ペースで京都METROに通って、宵越しの金は持たないスタイルを実践。その結果、大学にはあまり通わなくなるという典型的なダメ大学生になってしまったわけですが…。

 

ただ、そういうことがあったおかげで、クラブでDJをしたり、ダンスミュージックを作ったりということで色々な交友関係も広がり、今ではそういったカルチャー系のコラム記事を書いたりすることで生計を立てられるようになっているため、無駄ではなかったという感じです。

若気の至りから京都を飛び出し、外国に年単位で住み、海外フリーターをしたりと、本当に色々、なかなか普通ではできないことを今までしてきたわけですが、思い返せば全ての始まりは京大吉田寮を根城に活動していたアングラ極まるアーティストに憧れたことがきっかけでした。

吉田寮というある意味サブカル魔窟みたいな場所が存在したことで、人生になんらかの影響を及ばされ、幸いにもそういったサブカルチャー含むカルチャー関連の仕事についている私のような人間も少なからずいたりもするのです。

最近も行われているかはちょっとわかりませんが、当時の吉田寮の食堂ではイスラエルからサイケデリックトランスのDJを招聘したレイヴめいたイベントなども行われていました。吉田寮とは私にとってはそんなユニークな場所でした。

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 最後になりましたが、吉田寮には学外の私のような人間ですらも引き寄せたという強力な磁力を放つカルチャー形成のためのコミュニティスペースという面があります。そういった点からでいうと、やはり吉田寮がなくなるのは悲しいことです。

 

そして、なにより京都大学が公開している動画「知のジャングル 京都大学」の説明にある”多様な生物が独自の暮らしを営み、複雑な関係を保ちながら共存し、一つのまとまりを作る「ジャングル」”のコンセプトから外れるのかなぁと思います。私もこの問題に関しては見守ることしかできませんが、この機会に自分が吉田寮から受けた文化的な影響を言葉にしてみたいと思い、本稿を執筆させて頂きました。

ちなみに現時点では、下記のような状況があることを学生メディア「Re:VOLT」が伝えています。

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